2016 Fiscal Year Research-status Report
対象被害者拡大の観点に基づく我が国のワンストップ支援発展の条件に関する実証的研究
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26380096
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Research Institution | Tokiwa University |
Principal Investigator |
千手 正治 常磐大学, 人間科学部, 准教授 (00406018)
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Co-Investigator(Kenkyū-buntansha) |
冨田 信穂 常磐大学, 人間科学部, 教授 (60105062)
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Project Period (FY) |
2014-04-01 – 2018-03-31
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Keywords | 刑事法 / 刑事政策 / 被害者支援 / ワンストップ / 多機関連携 / 被害者学 / 比較法学 / 犯罪被害者 |
Outline of Annual Research Achievements |
本年度は昨年度に引き続き、主としてニュージーランド(以下「NZ」という。)の民間の被害者支援組織であるVictim Support(以下「VS」という。)における事実上のワンストップ支援に関する現地調査を中心とした研究に従事した。 本年度は、とりわけVSにおける活動資金及びVSの活動の背景事情を中心とした調査を実施した。VSにおける活動資金の場合、約91パーセントが政府拠出金であり、この中にはNZ法務省からの試験的プログラムに対する資金提供や、NZ保健省からの遺族支援プログラムなど、特定の活動に対する資金提供も含まれる。VSがこれだけの政府拠出金を得ている背景には、1980年代以降のNZにおける公的部門の改革も当然考えられるが、NZの社会保障や被害者補償の分野において歴史的に発展・形成された概念である「コミュニティの責任」が、VSにおいてもその活動を支援する背景の1つにあることが確認できた。その他、設立当初はNZ各地に点在していたVSが、全国的な組織となり、全国で同一水準の被害者支援を提供できる組織に発展した経緯についても知ることができた。 なお本助成事業の経費によるものではないか、本研究に関連するものとして、本研究の比較対象国である韓国における大田ひまわりセンター(性暴力被害者に対するワンストップ支援センター)を自費にて訪問し、面接調査等を実施した。残念ながら研究代表が一番関心がある、「何故韓国は、性暴力など特定の犯罪についてのみ、ひまわりセンターのような設備の整った施設を提供しているのか。特定の犯罪に限定することに、論理的妥当性があるのか」についての納得できる回答を得ることが出来なかった。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
3: Progress in research has been slightly delayed.
Reason
本来の計画では、本研究については本年度を最終年度として実施する予定であったが、補助事業期間延長承認申請書においても説明したとおり、国内外における犯罪被害者に対するワンストップ支援の動向は、研究代表者が当初想像した以上に急速に変化している。すなわち、平成25年頃は我が国におけるワンストップ支援センターは10か所程度であったが、現在では40か所近くになり、また本研究における第一の比較研究対象国であるNZにおいても、被害者支援・保護のための新立法が現在法案として議会に提出されており、今後ともその発展が見込まれる状況にある。 一方でこれまでの研究により、NZ、韓国、米国における被害者支援関連機関を訪問し、各国における犯罪被害者に対するワンストップ支援(「ワンストップ」という名称を用いていないが、我が国の内閣府が発行したワンストップ支援センター開設・運営の手引にける定義上、ワンストップ支援に該当するものを含む。以下同じ。)機関ならびに我が国におけるワンストップ支援センター等を訪問し、相当程度の資料・情報を得ているので、本年度を以て研究を終結させる選択肢も存在した。 これらの状況を斟酌した結果、本年度で本研究を終結させることは極めて惜しい限りであり、1年間延長してさらに精緻な研究成果を残せるよう本研究を継続することを選択した。 したがって如何なる理由であるにせよ、結果として当初予定していた期間を1年間延長して研究を継続することを選択した以上、「やや遅れている。」と自己評価することが妥当であると考える次第である。
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Strategy for Future Research Activity |
平成29年度は、最終年度として、NZ及び我が国におけるワンストップ支援について補充調査を実施する。 NZについては再びVS等の犯罪被害者に対するワンストップ支援に係る機関を訪問し、新たな法案の動向を含めて補充調査を実施することとする。またこれに併せて可能な限り現地において文献調査も実施することとする。他方我が国については、研究代表者が我が国におけるワンストップ支援センターの中で一番理想的と考える施設を再び訪問するとともに、近年設立されたワンストップ支援センターも訪問し、これらの施設が抱える現状と課題について確認もしくは再確認する。 その上で、我が国における犯罪被害者に対するワンストップ支援を、少なくとも生命・身体に対する罪の被害者にまで拡大するために実践可能な方策について提言することとしたい。これまでNZを中心とした比較対象国における犯罪被害者支援について調査してきたが、比較研究対象国はそもそも法制度や国及び地方自治体の施策において我が国と異なるため、対象国の制度をそのまま導入することには困難が伴うと考えられる。したがって我が国において最も理想的であると思われるワンストップ支援センターの制度を基調としながら、比較研究対象国における制度の中で我が国において導入することが望まれ、かつ導入可能と思われる要素を抽出した上で、最終的な提言とすることとしたい。 また平成28年度における研究成果のまとめとして、当該成果を論文として発表する予定である(現時点では、日本被害者学会の機関紙である『被害者学研究』を予定している)他、今年度における国内外のワンストップ支援に係る施設に対する現地調査が終了したら可及的速やかに調査内容について平成29年度中に学会等で発表したいと考える。
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Causes of Carryover |
当初は平成28年度で研究を終結させる予定であったが、前述した理由により、平成29年度も研究を継続することとなったため、平成28年度における研究に必要な経費の一部を自費にて負担するなど、平成29年度の研究費の捻出を図ったため。
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Expenditure Plan for Carryover Budget |
平成29年度に研究を終結させるための必要の一部として使用し、不足分については自費による負担などで補うものとする(本研究について助成事業に応募する際に、科研費にて賄いきれない場合には、自費にて研究を実施することを記載しており、自費負担は必要な措置と考える)。
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