2014 Fiscal Year Research-status Report
Project/Area Number |
26380101
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Research Institution | Kwansei Gakuin University |
Principal Investigator |
鮎川 潤 関西学院大学, 法学部, 教授 (90148784)
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Project Period (FY) |
2014-04-01 – 2017-03-31
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Keywords | 政治家 / 犯罪 |
Outline of Annual Research Achievements |
交付申請書に記したように、元国会議員で大臣経験もある信頼できる人物を通じて、自分の選挙事務所から選挙違反者を出したケースを紹介されて聞き取り調査を行うことができた。とりわけ選挙時の重大な犯罪である買収などについて過去の経験を聞くことができた。 これは買収容疑によって組織的選挙運動管理者等が逮捕され、有罪判決を受けたケースである。聞き取り調査から以下のことが判明した。中選挙区制では小選挙区制よりも買収が起こりやすいこと、とりわけ同じ政党から複数の候補者が立候補している場合に発生しやすいことが推測される。買収の発覚は非常に文脈依存的である。その選挙区の事情が大きく絡む。立候補者間の利害関係、運動員の行動、対立陣営の対応等である。聞き取り調査によって、どのようにして買収事件が行われ、発覚し、警察が捜査を開始するかということについて有益な情報を得ることができた。 海外調査に関しては、平成26年9月に、オーストリアの研究者から国会議員による犯罪についての情報提供を受けるとともに、スウェーデンの選挙運動を観察することができた。駅のターミナルや大学キャンパスに小屋を建て、自由に人々を呼び止めてディスカッションする光景が見られた。鉛筆などの景品を有権者に渡すことも可能であり、戸別訪問が許可されている様子も確認された。(これらによって、日本における選挙運動との大きな違いが明確になった。) 贈収賄事件の裁判に関しては、当初研究代表者の勤務校のOBの市長で有罪判決を受けた人物に聞き取りする予定であったが、平成26年に大きな社会的注目を集めた岐阜県美濃加茂市長の地方裁判所での裁判が行われたため、研究代表者の都合が悪い場合は調査協力者の代理を得て、初公判から判決までそのほとんどを傍聴することができた。稀有といってもいい無罪判決が下りたケースであり、有意義な情報を得ることができた。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
交付申請書に記したように、非常に幸運なことに元国会議員で大臣経験もある信頼できる人物の協力を得ることができたことにより、本研究を順調にスタートすることができた。 この元大臣の協力のおかげで、国会議員の選挙時に、重大な犯罪である買収によって組織的選挙運動管理者等が有罪判決を受けたケースを紹介してもらうことができ、有意義な聞き取り調査を行うことができた。 海外調査に関しては、平成26年9月に、オーストリアの刑事法専攻の大学教授から国会議員による犯罪についての情報提供を、スウェーデンの犯罪学専攻の大学名誉教授から政治家の犯罪についての情報提供を受けるとともに、スウェーデンにおいて選挙運動を観察することができた。このことによって、スウェーデンの選挙運動が、戸別訪問が禁止され、政見演説の機会も限られている日本における選挙運動と全く異なる自由度が高いものであることが確認された。このことによって、今後の本研究において、わが国における選挙活動の規制自体について問題点を指摘しうる可能性を獲得できた。 さらに贈収賄事件に関しては、平成26年に全国的には社会的注目を集めた市長の地方裁判所での裁判について、研究代表者の都合が悪い場合は調査協力者の代理を得て、初公判から判決までそのほとんどを傍聴することができた。このケースは無罪判決が下りた稀有なケースであり、非常に有意義な情報を得ることができた。
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Strategy for Future Research Activity |
まず第一に、平成27年に統一地方選挙が行われたが、研究代表者はある選挙区の選挙管理委員会委員を平成23年まで8年間にわたって務め選挙の実施業務を実際に経験してきており選挙活動についての知識を持っているため、今回の統一地方選挙の結果を受けて、選挙時の公職選挙法違反に関する情報を収集するとともに、選挙活動を行った(元)議員候補者から選挙活動における公職選挙法違反について聞き取り調査を行いたい。 第二に、選挙時に組織的選挙運動管理者等による買収等の公職選挙法違反が認定され、連座制が適用されて、当選が無効とされた国会議員の追跡調査を行う。あわせて過去の国政選挙の結果とその際の選挙違反に関する情報を把握し、戦後日本では1989年以降2回、与党と野党が入れ替わった政権交代が行われたが、そのときの政権党と選挙違反者の政党、選挙違反の内容に関して、何らかの特徴と相関関係が見られないかについての検証を試みたい。 第三に、日本の選挙制度・政治制度と選挙違反・政治犯罪との関係について、国際比較の観点を持って客観的に把握するために、英国及びアメリカ合衆国との比較調査を行うとともに、オーストリア及びスウェーデンとの比較についても引き続き検討を進めたい。このことによって、政治家の犯罪に関して、わが国では犯罪とされるにもかかわらず議会制民主主義を培ってきた成熟した先進国では許されている行為について、あるいはその逆のケースについての情報収集を行い、検討を深めこととする。さらに他方で、政治家の最大の犯罪とは人道に反する行為であり、国際刑事裁判所へ訴追されるような犯罪である。この視点をも取り入れるために、これらの事件が発生したアフリカにおける現地調査を行う予定である。 最後に、以上三つのポイントを総合して、わが国の代議制に基づく民主主義のさらなる発展に寄与する考察と提言を行いたいと考える。
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