2015 Fiscal Year Research-status Report
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26380106
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Research Institution | University of Tsukuba |
Principal Investigator |
木村 真生子 筑波大学, ビジネスサイエンス系, 教授 (40580494)
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Project Period (FY) |
2014-04-01 – 2018-03-31
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Keywords | 証券規制 / 行動経済学 / 消費者保護 / 投資勧誘 / 業規制 |
Outline of Annual Research Achievements |
本年度はイギリスの証券規制において、行動経済学的知見がどのように受容されているかという点に焦点を当てて研究を行った。調査にあたり、イギリスのロンドン大学高等法学研究所へ赴き、付属図書館において文献調査等を行った。以下は調査の概要である。 イギリスの金融行為監督機構(FCA。旧FSA)は約10年程前から行動経済学に関する学術研究の成果と金融証券規制との関連について調査を行ってきた。そして、FCAは2012年末から、行動経済学の知見から示唆を得て、Retail Distribution Review(リテール投資商品販売制度改革)を実施した(2014年12月には実施後の評価文書も出された)。 同制度の実施は、金融教育の限界が明らかにされたことと決して無関係ではないようである。LSE(the London School of Economics and Political Science)が、2種類の金融商品について業者の投資勧誘と投資者の行動の変化及び金融教育との関係について分析を行い、投資者の行動が業者の勧誘行為から著しい影響を受け、バイアスを除去することは金融教育の成果をもってしても困難であることを示したからである。金融教育の推進よりも、投資勧誘に係る業規制の見直しを図ることの重要性が明らかになった。 また、2013年にFCAは"Applying Behavioral Ecoomics at the Financial Conduct Authority"と題するレポートを公表し、消費者の最大利益を実現するために、FCAが具体的に実施すべき施策について方針を示した。2015年には、Financial Advice Market Reviewで投資者と業者間の情報格差に関する研究成果を公表するなどして、FCAは投資勧誘に係る業規制の分野において、引き続き規制改革を進めている。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
3: Progress in research has been slightly delayed.
Reason
文献の読み込みは漸次進めているが、どのような切り口で成果物をまとめるかについてはもう少し構想を練る時間が必要であると考えている。というのも、研究を推進するにあたり、問題の背景には証券規制において保護対象としている投資者(Investor)の概念が変質し、より保護を必要とする消費者(Consumer)概念へと近づいていることがあるように思われたからである。この点については、更なる分析を要すると感じている。 なお、現在までの研究から、証券規制にとって行動経済学の知見が生かせる領域は限定的だということが言えそうであるように思われている。すなわち、これまで証券規制は「ホモ・エコノミクス」を前提とする経済学に親和性があり、合理的投資家像を前提に制度設計を行ってきた。しかし行動経済学はこの合理的投資家像をある意味破壊したために、証券規制の意義自体に疑問が投げかけられているのである。 しかしながら、規制の目的等との関係から、行動経済学の知見を応用することが適切な範囲は、投資勧誘に関する業規制に限定されてくるように思われる。もっとも、米国の学術論文においては、IPO規制に関して行動経済学の知見を応用することを検討するものもある。そこで、本研究で対象とするオーストラリア等他国の状況を踏まえながら、行動経済学の知見を応用できる適切な範囲についても、引き続き検討を進めていきたいと考えている。
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Strategy for Future Research Activity |
今後の研究の推進方策の重点は以下の2点である。 第1は、本年度の前半(9月)までに、平成27年度に行った研究の成果(イギリスの状況)についてまとめることである。その成果を、本大学院の紀要(平成28年11月刊行予定)に論文として公表するように執筆を進めたい。また、当初の研究計画で検討をする予定であった「開示の要否を判断するための「重要性」の概念に、行動経済学的知見が与えた影響」についても、何らかの結論を導くことができれば、論文として公表できるようにしたい。 第2は、オーストラリア及びカナダの調査を具体的に開始することである。なお、当初、研究対象国の中にカナダは明確に設定してはおらず、フィンランドを研究対象国として挙げていた。しかし、カナダでは「証券規制の現代化に関する特別委員会」において、2006年頃より行動経済学と規制との関係を検討してきていることがわかり、研究対象として魅力的であると考えるに至った。また、カナダの証券規制に関しては、研究者が継続的に研究を行ってきた領域でもある。与えられた研究期間の間に研究成果を出すためには、カナダについて検討することがより適切であると判断した。そして、具体的に、オーストラリア、カナダの両国についても、イギリスと同様、規制当局がどのように行動経済学の知見を証券規制に生かそうとしているのか、様々な資料を収集して分析を行い、必要に応じて両国の研究者や規制当局の職員の助力を得ながら研究を進めたいと考えている。
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Causes of Carryover |
前年度もほぼ同額の使用額を残したことを考えれば、それを差し引いた当初予定の平成27年度使用分全額は、計画通りに使用したと考えることもできる。もっとも、その点を考慮から外した場合、年度末の3月に実施したロンドン出張に関して、出張申請時と出張実施時に時間的ずれがあり、最終的な会計処理の結果について予測ができなかったことが、次年度使用額が生じた理由として挙げられる。
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Expenditure Plan for Carryover Budget |
本年度はオーストラリアのシドニー大学およびカナダのトロント大学(または場合によってはブリティッシュコロンビア大学)での資料収集を行うことから、主として出張旅費に研究費を使用するほか、オーストラリア法制の研究で不足している資料収集費として研究費を使用する予定である。また、併せて、研究費の範囲内で利用可能な有益なデータベースの使用も検討したい。
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