2014 Fiscal Year Research-status Report
指図による占有移転の方法による即時取得の成否に関する総合的研究
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26380114
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Research Institution | Osaka University |
Principal Investigator |
平田 健治 大阪大学, 法学(政治学)研究科(研究院), 教授 (70173234)
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Project Period (FY) |
2014-04-01 – 2017-03-31
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Keywords | 即時取得 / 指図による占有移転 / 占有改定 / 動産取引 |
Outline of Annual Research Achievements |
研究計画に従えば、初年度(平成26年度)は、指図による占有移転の方法による即時取得をめぐる諸問題を民法の範囲に限定しつつ、その現況を日独の判例学説に照らし確認することであった。 日本法に関しては、まず起草時の議論を検討した。日本民法一八四条が規定する指図と承諾という枠組が現実とずれているという違和感,問題意識が当初からあったからである。果たして、起草時の議論は、復代理構成と呼びうるものだが、構成が迂遠であり、議論の過程で異論の多いものであった。指図構成は、ドイツ民法第一草案を参照したものだが、ドイツ法はこの構成の非実際性を理由に、その後引渡請求権譲渡構成に変更し、民法典に至っている。また、近時の債権法改正に際しても、同様な問題意識から、寄託契約において、契約上の地位の移転と受寄者の承諾という提案が出されていたことも注目される。 ドイツ法に関しては、部分草案から民法典に至る、観念的引渡し方法の規律の変化をトレースした。それは、普通法学説や商事法典からの影響を受けつつも、間接占有や善意取得制度の導入など、激しい評価変動をともなう過程であった。この中から、観念的引渡し、すなわち、占有改定と引渡請求権譲渡の規律を、動産取引の安全と原所有者保護の拮抗の中でどう行うかの議論が浮き彫りとなった。それは、法典成立後も、一見矛盾した規律のように見える二方法に対する条文の調和的理解をめぐって、判例と学説の展開を見ており、ここでも議論の深まりが見られる。この結果、日本法の目から見れば、今まで十分知られていない観点を多く掘り起こすことにつながった。 以上の成果は、近日中に大学紀要に投稿する予定で執筆を進めている。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
日独の法制の微妙な差異等を考慮しなくてはいけないが、基本的には、本研究の対象の議論の前提の共通性を確認できる。ただ、ドイツ法においては、占有改定と、引渡請求権譲渡の二方法の善意取得との関連での有効性要件が条文で個別に明記されており、それゆえに、条文に即した議論の深まりがあり、日本法に見られないものである。これは、日本法において、同様の方法が即時取得成否においてどう評価されるべきかの基準を考える際に大きな示唆を与えるものである。それにもかかわらず今まで十分フォローされていなかった。条文上の規律の失敗が議論を混乱させているというようなマイナスイメージの受け取りがあったのではないだろうか。だから、占有改定の規律について、現実引渡しまでは即時取得を遅らせるというわかりやすい点だけを取り込んでいたのではないだろうか。そうではないということを理解できたことは大きい。
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Strategy for Future Research Activity |
二年目(平成27年度)の研究課題は、前年度の課題を継続しつつ、商事法の分野での議論を、民事法での議論との最終的な総合を意識しつつ、把握することである。確かに、準備作業において、撤回可能時期など対抗要件具備が争点となる紛争の存在、慣行による書面や商法典に規律のある証券などによる譲渡方法との関係など、民事法と商事法で、問題状況・議論状況の差が看取できるところである。また、一年目において、債権法改正との関連で、寄託契約(民事・商事)における議論状況を合わせ考慮することの必要性が意識された。これらを検討していきたい。
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Causes of Carryover |
初年度に計上していた旅費(36万円)に関して、予定していた海外調査旅行が諸般の事情により、実施できなかったことによる。
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Expenditure Plan for Carryover Budget |
本年度に調査旅行実施を予定している。
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