2016 Fiscal Year Research-status Report
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26380117
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Research Institution | Kobe University |
Principal Investigator |
山本 顯治 神戸大学, 法学研究科, 教授 (50222378)
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Project Period (FY) |
2014-04-01 – 2018-03-31
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Keywords | 賃貸住宅市場 / 逆淘汰 / リスク・プレミアム / 取引費用 / スクリーニング / 敷引特約 / 情報の非対称性 / リスク回避性向 |
Outline of Annual Research Achievements |
今年度は、論文「敷引特約の経済的合理性」において、最判平成23年3月24日民集65巻2号903頁、最判平成23年7月12日裁判集民事237号215頁を題材に、敷引特約の経済的合理性を論じた。それぞれの判決については多くの論稿が公表されているが、我が国における賃貸借市場の実態を踏まえた検討がなされていないこと、また、敷引特約が賃貸借市場において果たす「機能」について考察されていないことを明らかにした。 我が国賃貸借市場の実態については、1993年から2013年までの20年間に全国空き家総数は448万戸から820万戸へと1.8倍となり、その内賃貸用住宅が52.4%を占める。また、民営空き家は民営以外に比べ5倍となっている。このように、現在の賃貸借市場の現況を踏まえるならば、我が国の賃貸借市場の需給バランスが賃借人に不利なものとなっていることを前提として立論を進めることは妥当ではないことを指摘した。 敷引特約が賃貸借市場において果たす機能については、これまでの議論は、いずれも任意規定を参照基準とし、敷引特約が賃借人にとり不合理なものとの前提に立っていることを明らかにした。これに対し本稿は、賃貸人と賃借人間に存する情報の非対称性、および、賃貸人のリスク回避性向を踏まえ、敷引特約の合理性を検討することが必要であると論じた。賃借人の賃料支払能力、使用態様、賃借人の賃借予定期間は賃貸人が重大な関心を持つ情報であるが、これらについては賃借人が情報優位者である。敷引特約はこの情報の非対称性に由来する「逆淘汰(adverse selection)」を回避するための、安価な契約上の工夫と解される。さらに、「通常使用による損耗」を事前に契約中に詳細に規定することには限界があり、敷引特約は、取引費用を削減し、契約の不完備性に由来する非効率を回避するための装置としても機能しうることを明らかにした。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
(1)第1四半期(4月-6月):国内外における一線のジャーナル・研究所・叢書に掲載された「契約の経済学」「契約法の経済分析」「行動経済学と契約法」分野における救済法関連文献を収集・分析することが本期間の課題であったが、概ね順調に進展した。 (2)第2四半期(7月-9月):国内外における一線のジャーナル・研究所・叢書に掲載された「契約の経済学」「契約法の経済分析」「行動経済学と契約法」分野における救済法関連文献の収集・分析を継続する。また、第一四半期は主に英米の文献を収集・検討したが、本期間は近時理論的展開の著しいドイツ法の文献にも目を向け収集・分析を進めた。この期間の研究も概ね順調に進展した。 (3)第3四半期(10月-12月):第二四半期までに収集・分析した、英米法・ドイツ法の重要文献も参照しながら、我が国の契約責任論の問題点を検討した。また、第1、第2四半期での検討を下に、公表論文の執筆を開始した。この期間の研究も概ね順調に進展した。 (4)第4四半期(1月-3月):第3四半期までに達成された研究作業を下に、契約法制度・救済法制度の対市場効果に関する論文の執筆を行い、完成した。本稿は2017年度中に公表される予定である。この期間の研究も概ね順調に進展した。
以上より、本研究は概ね順調に進展しているということができる。
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Strategy for Future Research Activity |
これまでのところ研究は概ね順調に進展していると言えるが、(1)既に完成した論稿のみならず、これを踏まえたさらなる論稿を執筆中であり、こちらも早い内に脱稿したいと考えている。(2)また、2016年度の研究により、新たな研究の展開の方向を開くことができ、2017年度はこれまでの研究成果のとりまとめと同時に、この新たな展開の方向の基本的知見を蓄積することに力を注ぎたいと考えている。(3)これまで収集・検討してきた文献の再度の洗い直しと、なお検討が十分とは言えない理論動向についての分析にも力を注ぎたいと考えている。
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Causes of Carryover |
4千円余の次年度使用額が生じた。購入予定であった書籍の発刊を科研費支出期限まで待っていたが、2016年度中には発刊されなかったためである。
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Expenditure Plan for Carryover Budget |
発刊を待っていた書籍の購入代金に充てる予定である。
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Research Products
(1 results)