2015 Fiscal Year Research-status Report
「帰属割当に依拠しない優先権」に関する制度と理論:代償的取戻権と価値追跡論の研究
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26380127
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Research Institution | Keio University |
Principal Investigator |
水津 太郎 慶應義塾大学, 法学部, 准教授 (00433730)
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Project Period (FY) |
2014-04-01 – 2017-03-31
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Keywords | 代償的取戻権 / 物権と債権の区別 / 債権者平等原則 |
Outline of Annual Research Achievements |
本年度は、代償的取戻権・価値追跡論・両者に関連する基礎理論について前年度に引き続き文献調査をおこなうほか、次の成果を得た。第1に、研究課題に関連する問題である物上代位・抵当権・将来財産譲渡担保・財の帰属など、複数の問題についてそれぞれ論文のかたちで研究成果を公刊した。第2は、研究課題の中核を占める物上代位と責任法的代位をめぐる諸問題につき、研究会の場で暫定的な研究成果を報告したことである。報告の際には、まず、代位物をめぐる現行法上の様々なルールについて、物(権)的帰属と責任的帰属、一般実体法的優先権と執行法的優先権、物上代位と責任法的代位といった概念区分を用いてこれを整序ないし構造化し、ひとつの見とおしのよい枠組みを示した。次いで、法的評価の矛盾を回避し、あるいはルール相互間のバランスを保つために、以下の検討をおこなった。適用領域については、所有権・担保物権・非典型担保の処遇と、権限処分・無権限処分の処遇について、それぞれバランスがとれていない局面を発見するとともに、首尾一貫性を確保するための方策を提示した。他方、要件と効果については、物上代位ないし責任法的代位の対象を売買代金とすべきか、客観的価値とすべきか、原目的物に対する追及効がある場合にも物上代位ないし責任法的代位を認めるべきか、対象の特定性をどこまで要求すべきか、といった諸問題を網羅的に考察し、適用領域の問題と同じように、法的取扱いの不均衡の発見とその克服の方向性を示した。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
本年度の研究計画では、代償的取戻権の要件と効果に関する研究成果を論文のかたちで公表するよう努めるとしていたけれども、この目標は達成できていない。しかし、研究実績の概要で記したように、このテーマについてはすでに研究報告をおこない、一定の成果を挙げている。また、本研究課題と関連するテーマについては、複数の論文を公にすることができた。なお、本年度は、当初の予定とは異なり、オーストリアにいくことができなかった。これは、他に国外出張の予定が入ってしまったこと、しかしそれは本研究課題と関わりのあるテーマを報告するためであったこと、本研究課題の実施者が分担研究者として属している研究課題との関係で、ドイツの物権法研究者が本研究実施者の所属大学に招聘されたため、その際にヒアリングをおこなうことで一部目的を達成することができたことなどの理由に基づいており、本研究課題の実施に大きな影響を与えるものではない。その他の点についても、おおむね順調に進展している。
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Strategy for Future Research Activity |
本研究はおおむね順調に進展しているが、価値追跡論についてはまだ十分な検討ができていない。価値追跡論は、代償的取戻権や代償的別除権とは異なり、直接の実定法上の根拠ないし手掛かりを欠く。そのため、要件効果をどのように構成するか、どの文脈でこの議論を用いるのかについては、とくに慎重な検討が必要になる。もっとも、最終年度では一定の方向性を示すことができるよう、価値追跡論に関する議論が日本よりも豊富なドイツ・オーストリアの法状況を丁寧に調査・検討することにしたい。 研究の推進方策としては、研究計画調書で挙げた諸問題について、よりいっそう関連性を意識して、同時に処理できるものは一体として研究を遂行することが考えられる。そうすることによって、本研究の目的をより確実かつ効果的に実現することが可能になるであろう。
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Causes of Carryover |
旅費が当初の予定よりもかからなかったため、若干の次年度使用額が生じた。
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Expenditure Plan for Carryover Budget |
次年度使用額については、今年度の旅費または消耗品費に充当する予定である。
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