2014 Fiscal Year Research-status Report
事業再生における担保手段の効力の差別化――担保法の機能主義と形式主義の視点から
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26380128
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Research Institution | Sophia University |
Principal Investigator |
小山 泰史 上智大学, 法学部, 教授 (00278756)
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Project Period (FY) |
2014-04-01 – 2017-03-31
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Keywords | 集合動産譲渡担保 / 集合債権譲渡担保 / 譲渡担保 / 倒産手続 / 否認権 / ABL / 動産・債権担保融資 |
Outline of Annual Research Achievements |
研究開始の初年度として、本年は4本の原稿を脱稿した。商事法務より出版予定の共同研究『比較法のマトリクス』において、「ニュージーランドPPSA1999年法について」および「イングランド法におけるUCC第9編型立法採用の動向」という2本を投稿した。2015年4月初め現在、初校まで完了しており、そう遠くない時期に書籍として出版される見込みである。これらは、ABL協会(池田真朗教授代表)の下で組織されたABL法制研究会による3年にわたる共同研究の成果である。諸外国のABLの法制度のうち、私はイングランド法の研究パートに属して、イングランド法と北米のアメリカ・カナダ及びオセアニアにおける統一商事法典第9編の法継受との関係を考察した。いずれの拙稿も、これまで検討されたことない間隙を埋めるものといえる。特に所有権留保につき登録制度を採用しないイギリス法の考察について、研究テーマの検討の一部をなすものである。 さらに、1997年に刊行された平井一雄他編『民法学史』(信山社)の続編として企画された『続・民法学史』(未刊)に、「学史・集合債権譲渡担保」を寄稿した。この拙稿は、明治期から現在に至るまでの集合債権譲渡担保の理論史を、幾つかの時期に区分して辿るものである。債権譲渡担保は単に学説のみを検討するだけではなく、実務のニーズがどのように判例に現れ、かつ、立法によってどのように実務が進展したかを検討しなければならない。法解釈の変遷を追うだけでは不十分なのである。 加えて、和田勝行著『将来債権譲渡担保と倒産手続』(有斐閣・2014年)につき、研究会で検討し、近刊の法律時報2015年5月号に原稿を公表予定である。最近の担保法学において、最も重要な研究であると評価でき、その書評も、この研究テーマとの関連では重要であると判断できる。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
担保法における「機能主義」・「形式主義」の用語は、元々アメリカUCC第9編やそのカナダ版のPPSAの論者が用いた概念である。『研究実績の概要』で述べたように、初年度ながら既に4本の原稿を脱稿済みである。これらのうちの最初に挙げた2本は、研究計画書に挙げたイングランド法の研究に対応するものである。もっとも、未公刊の書籍が何時発刊されるかについては、なお流動的ではあるが、未公刊のまま残り2年の科研費の研究期間が推移するとは考えにくい。 以上の4本の論稿は、他の著者の論文集の書評を除けば、私自身のこれまでの研究の積み重ねと問題関心の延長線上にあるものである。「ニュージーランドPPSA1999年法について」および「イングランド法におけるUCC第9編型立法採用の動向」は、これまで論点としては自覚していたものの、十分検討する機会を逸していた論点である。他方、「学史・集合債権譲渡担保」は、構想としては抽象的に考えていたことはあるが、実際に検討を試みたのは初めてである。 担保法学の分野は、契約法や不法行為法等の他の民法学関連とは異なり、金融における実務的なニーズや実務そのもののやり方を抜きにして論じることができない学問分野である。『比較法のマトリクス』に投稿した2本の拙稿は、純粋に理論的な検討を比較法的に行うものである。これに対して「学史・集合債権譲渡担保」は、実務のニーズに裁判所がどう答え、単に学説が理論を進めるだけでは限界があり、立法(動産・債権譲渡特例法)が為されなければその後の実務の発展もなし得なかった領域である。拙稿は、そのダイナミックな展開を時系列を追って明らかにすることができたものと自負するものである。
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Strategy for Future Research Activity |
全体としてみて、交付申請書に記載した「平成26年度の研究計画」のうち、「イングランド法の実務についてのインタビュー調査」は、既にABL協会の研究会で、他の研究メンバーによって実施され、研究成果の中に反映されている。よって、申請者自身が改めてインタビュー調査を行う必要はないと考えられ、この点の研究計画は変更を要することになる。むしろ、所有権留保につき、所有権という法形式と、担保という実質との乖離について比較法的な検討を進めることに重点を移していきたいと考えている。 例えば、イングランド法は、他方で所有権留保に関してはあくまでその「所有権が売主等に留保され、債務者が担保権を設定(grant)したわけではない」という法形式に拘泥する。これが、「形式主義」がイングランド法において強いとされる理由である。もっとも、信託の利用は「機能主義」の現れの一つともいえるから、その活用によって「形式主義」を回避することも可能である。では、その「形式主義」がなぜ一方で重視されるのについて、イングランド法の検討を行った研究はこれまで見当たらない。おそらくは信託を利用して、形式面と担保としての実質面を接合させているものと予想されるから、信託法の領域を掘り下げてみたいと考えている。 加えて、書評として検討した和田勝行論文に見られるように、集合債権譲渡担保や流動集合動産譲渡担保の倒産手続の効力の検討が必要である。ただ、これらの担保権が第三者によって違法に侵害されて不法行為に基づく損害賠償請求権が担保権者に生じる場合は、どのような要件の下でその救済が与えられるかについて、担保設定者の担保価値維持義務との関係も含めて検討することを考えている。倒産手続の開始以前に「担保権侵害」が生じ、その救済が倒産手続の下でどのように扱われるという論点は、手続法学者の論文等では検討が為されていないようである。
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Causes of Carryover |
2014年度末までに当該年度の予算を完全に執行しようとしたが、7546円の端数を生じた。コピーカードや文具類の購入で処理をしようとしたものの、今回の科研費では以前には認められていなかった次年度への繰越が認められることを知り、無理に数字を合わせて執行するよりも、次年度に繰り越して執行することを選択した。
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Expenditure Plan for Carryover Budget |
繰越額は7546円と少額であり、書籍の購入や学会・研究会への出張旅費等に充当して使用する予定である。これらの支出により、2015年度分と合わせて問題なく執行を完了することができる。
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Research Products
(4 results)