2015 Fiscal Year Research-status Report
事業再生における担保手段の効力の差別化――担保法の機能主義と形式主義の視点から
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26380128
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Research Institution | Sophia University |
Principal Investigator |
小山 泰史 上智大学, 法学(政治学)研究科(研究院), 教授 (00278756)
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Project Period (FY) |
2014-04-01 – 2017-03-31
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Keywords | 形式主義 / 機能主義 / 担保価値維持義務 / 担保価値維持請求権 / 流動動産担保 / 流動債権担保 / 譲渡担保 |
Outline of Annual Research Achievements |
昨年度は「民法学史・流動(集合)債権譲渡担保」平井一雄・清水元編『日本民法学史・続編』(信山社・2015年)217~255頁(第1論文)、「流動動産・債権担保における「担保権の侵害」と設定者の処分権――担保設定者の担保価値維持義務の視点から――」立命館法学363・364号=2015年5・6号)219~241頁(第2論文)、および「イングランド法におけるUCC第9編型立法採用の動向」池田真朗・中島雅弘・森田修編『動産債権担保 比較法のマトリクス』(商事法務・2014年)503~520頁(第3論文)、および「ニュージーランドPPSA1999年法について」同『動産債権担保』521~532頁(第4論文)、の4本の原稿を公表した。 第1論文は、戦後の集合債権譲渡担保の理論史を辿るものである。次に、第2の論文では、流動動産・債権担保について「担保権の侵害」は「どのような態様で」、「誰によって」、「どのような内容で」等について、この種の担保手段については、設定者による「担保価値の補充の懈怠」(担保価値維持義務の懈怠)という態様で担保権の侵害が生じ得ることに鑑みて、「担保権の侵害」と、設定者の担保目的財産の処分権とを関連づけて論じる。 第4の論文は、これまで筆者が日買う法的な検討を行ってきたアメリカ・カナダの動産担保立法が、カナダを経由してニュージーランドやオーストラリア等の旧英連邦諸国で継受され立法化されている動向を紹介する(オーストラリアについては前掲書の田頭論文を参照)。他方で、イングランドにおいては、対照的に、頑なに従来の法的な伝統と取引形態を維持しようとする(第3論文)。その動きは、イングランド本国が担保の「形式主義」(formalism)に固執するに対して、旧英連邦諸国は「機能主義」(functionalism)に傾斜するものといえる。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
「研究実績の概要」欄で示したように、「機能主義」と「形式主義」の視点からの検討は、比較法的な面では一定の成果を収めつつある。筆者は以前にカナダ法についてアメリカ統一商事法典第9編と同様の担保立法が継受された経緯を検討した(『流動財産担保論』(誠文堂・2009年))。上記第3論文は、その検討を前提として、カナダ法の動産債権担保の枠組みがニュージーランド等で継受され、土着化をしていく過程を検証している。他方、第2論文は、それら旧連邦諸国の動向を横目に見つつも、旧宗主国であるイングランドが、他の英連邦諸国の動産債権担保立法を拒絶する様を描写する。その対比自体が「機能主義」・「形式主義」のアプローチの違いを浮き彫りにしているといい得る。 日本法の検討も順調に推移している。第1論文では、集合債権譲渡担保を通史的に検討し、動産・債権譲渡特例法による対抗要件立法がなければ、債権譲渡担保の発展があり得なかったことを明らかにした。すなわち、研究者がいかように解釈を展開しても、新たな立法がきっかけになって実務が一変するプロセスをまとめることができたのである。また、第2論文では、例えば、将来債権が譲渡担保の目的とされた後、債権譲渡人(譲渡担保設定者)が譲渡債権の債務者から要請されて譲渡禁止特約を結ぶことは、譲渡担保権の侵害となるのか、等未検討出会った場面類型を検討した。その結果、未発生の将来債権について、「担保権を侵害する」ないし「侵害の恐れを惹起する」ことが観念できるのは、その具体的な発生を妨げる行為を指すことが明確になった。流動動産譲渡担保では、設定者ないし第三者の行為がその「侵害」に当たるかを検討するに際して、流動(集合)債権譲渡担保と同様に、設定者の「担保価値維持義務」とその処分権の範囲(「通常の営業の範囲」内の処分であるかどうか)が関係することが明確になった。
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Strategy for Future Research Activity |
森田修によれば、「担保権を機能的に分析すると、そこには①優先弁済を確保する機能、②責任財産を分離する機能、③目的物を管理支配する機能(コントロール機能)がある。・・在庫担保権においては③の機能が①の機能を実現するうえで決定的に重要であるという。流動動産譲渡担保権にあって、担保価値維持義務の概念は、上記③の機能の具体化であって、譲渡担保設定者の中途処分権の認められる「通常の営業の範囲」の確定や、補充義務・場所的な保管義務違反の判定に用いられるものであり、また設定者の事業の環境、状況によって通時的に変化する。すなわち、譲渡担保権設定者は、少なくともある時点で存在していた担保対象資産の「担保価値」を「通常の営業の範囲」を超えて減じてはならないという意味において、「担保価値維持義務」を負っている。これらの検討を前提とすれば、上記第1・第2の各論文において、日本法における倒産手続下の流動動産・債権担保の効力の検討は一通り終了したといってよい。しかし、外国法、とりわけカナダ法における動産・債権担保の倒産手続における効力は、未だ検討の着手に至っていない。 今後は、残された1年間の研究期間は、カナダ法における民事再生法に相当するCompanies Creditors' Arrangement Act(CCAA)において、将来の債権譲渡に対して相殺の抗弁がどの程度対抗できるのか(日本法の民法468条1項の問題)、将来債権譲渡の否認の問題、同じく流動動産譲渡担保に相当する担保手段の偏頗行為性(一部の債権者に対する優先弁済に当たり否認されるのか)等の問題を検討していく必要がある。
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Causes of Carryover |
3月に研究会での京都出張を計画していたが、法科大学院の校務との関係や、京都大学での研究会の日程が出張を許さない形で示されたため、出張日程をうまく組むことができなかった。そのため、物品購入のみで2015年度予算を使い切ることができるかどうか、伝票の締切ぎりぎりまで明確にすることができなかった。結果として、15368円という中途半端な金額が残ってしまうことになった。
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Expenditure Plan for Carryover Budget |
2016年度配分の予算額に合算して、消耗品としての図書の購入や出張旅費の一部に充当する予定。金額が僅少であるだけに、それほど消費することは困難ではない。
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Research Products
(4 results)