2015 Fiscal Year Research-status Report
医療技術の発展に対する司法の応答性と司法判断の政策形成への影響
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26380148
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Research Institution | The University of Tokyo |
Principal Investigator |
畑中 綾子 東京大学, 高齢社会総合研究機構, 客員研究員 (10436503)
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Project Period (FY) |
2014-04-01 – 2017-03-31
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Keywords | 賠償訴訟 / 医療訴訟 / 積極的司法 / 被害者救済 / 利益衡量 / 司法の役割 |
Outline of Annual Research Achievements |
今年度の研究では、医薬品副作用や医療過誤訴訟では被告医師の義務違反を過失責任の立証を緩和する法解釈を用いて緩やかな賠償責任の認定を行ってきた一方、これら訴訟では賠償額は低額に抑えられ、責任の認定を被害者救済に傾けバランスを図ろうとしてきた司法の動きを司法の積極的機能と位置付けた。そのうえで理論的にそのような運用が可能になってきた背景として、民法学における利益衡量(考量)論が実務上広く受け入れられ、しかもその内容は、裁判官の裁量による柔軟な法解釈が可能であったことがあると考え、利益衡量論の展開との関係を考察した。同時に日米の医療分野の訴訟機能を比較すると、米国の訴訟件数は圧倒的に多いことに注目した。米国の賠償額の制限や出訴制限といった原告からの訴訟提起を抑止する方向でなされてきている。背景には、賠償訴訟による保険危機といった政治的要素に加え、懲罰的損害賠償制度や陪審制などの訴訟制度により訴訟結果の不確実性が日本に比較して高いことがある。この違いには、日本が緩やかな過失認定のもとで損害を薄く広く分担する意味での平等志向があったのに対し、米国では懲罰賠償や陪審制のもとで個別的正義の実現を前提としながらも、形式的、客観的基準によりそれを制限する方向があったと説明できる。この研究結果については、「医療分野における賠償訴訟における積極的司法とその影響ー米国の医薬品・医療の事例との比較を基に」としてまとめた。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
医療分野の賠償訴訟に焦点をあてて、裁判所における被害者救済の論理と低額賠償の傾向を積極的司法と位置付け、論文にまとめたことで当初の計画は達成できている。
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Strategy for Future Research Activity |
今後の研究の推進方策は、これまでの研究結果を国内外の学会等で報告し、これまでの研究内容をさらに強化、補強していくこと、また他国での動向をもとに日本の司法の特徴について、さらなる検討を加えることにある。今年度の研究の中では、賠償訴訟の役割の課題について、医薬品被害救済制度をはじめとする各種救済制度と司法の相互影響や、近年の医療事故調査制度の創設による司法運営との相互関係を研究対象とし、従来の司法の役割とともに司法の限界についても考察した。この点、医療事故調査制度はまだ緒についたばかりの制度であり、今後の研究の中でその動向を見守っていく必要がある。 また同時に次年度は、賠償訴訟以外の分野に目を向け、高度に倫理的な課題について司法はどのような役割を果たすかについて、研究を行う。想定される課題は複数あるが、主に終末期における延命治療の中止、生殖補助医療により出生した子との法的親子関係の決定について重点的に扱う。 終末期医療については、事前意思決定支援や延命治療の中止に関するガイドラインや法制度の整備がアジア諸国で急速に進んでいる。これらガイドラインや法制度の制定経緯やその際の裁判所の役割についても注目しながら、日本の司法の役割について検討していくことが課題である。 夫死亡後の生殖補助医療で出生した子(いわゆる死後生殖)の法的親子関係については、初年度の論文で日米比較を行っているが、様々な倫理的課題の中でなぜ死後生殖だけを扱うのかという点で、理論的な説明ができておらず、この点が今後の課題として残されている。
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Causes of Carryover |
国際共同研究を前提に、年度末に国際学会誌への論文掲載を複数検討し、英文校正等への支出が重なったため。
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Expenditure Plan for Carryover Budget |
次年度に予定していた支出の前倒しのため、計画通りの使用を行う。
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Research Products
(4 results)