2014 Fiscal Year Research-status Report
信託における「情報の不正利用」~利得吐き出し論の再構築を目指して
Project/Area Number |
26380151
|
Research Institution | Waseda University |
Principal Investigator |
三枝 健治 早稲田大学, 法学学術院, 教授 (80287929)
|
Project Period (FY) |
2014-04-01 – 2017-03-31
|
Keywords | 信託 / 情報 / 忠実義務 / 利得の吐き出し |
Outline of Annual Research Achievements |
信託における「情報」の不正利用を規律する規範を明確にすることを目標とする本研究の実施にあたり、(1)情報の不正利用の実態把握、(2)比較の対象となる「物」の不正利用の場合の規範の同定と分析、(3)「物」の不正利用の規範を「情報」の不正利用にも応用することの是非の考察の3つのステップを予定している。 まず(1)に関して、調査により、顧客名簿やノウハウの無断売買や盗用の実例が実際上少なくないこと、不正競争防止法により一定の対応が予定されていること、インサイダー防止の観点からチャイニーズウォールをもうけて同一企業内での情報遮断を確保していること等を確認し、事業信託でも同じ実態が認められうることを認識した。 次いで(2)に関して、忠実義務、物上代位、介入権の諸制度の要件・効果の異同を整理した。資料調査により、信託法改正過程において、忠実義務と物上代位については両者の関係が言及されていたものの、むしろ同一の結果をもたらすものと位置づけられ、それ以上の検討がされていなかったこと、また、介入権については会社法の対応規定が意識されていたものの、忠実義務や物上代位との関係が十分議論されていなかったことを確認した。 そして(3)に関して、(1)及び(2)の成果を踏まえながら、現在進行中である比較法研究の知見や物概念の再検討も背景にして、ひとまずワーキングペーパーという形で、後の修正可能性を留保したうえ、本研究の成果となりうる論文の草稿案を執筆し、その公表に備えた。
|
Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
本年度の研究計画は、大別すると、(a)情報の不正利用の実態調査と、それに対処する規範枠組みの策定のための文献調査から成り立っている。後者は、(b)信託法改正の審議過程の整理も含む、我が国の信託法制下における関連諸制度の相互関係の分析と、(c)同じ問題に対応する各国法、とりわけ英米法の比較法研究の二つを含む。 このうち、(a)(b)については、概ね予定通りに進行した。その成果はそれ自体を論文という形で公表する予定はないが、本研究の最終的な業績となる論文の下支えとなるほか、勤務校で担当する信託法の講義に反映された。 他方、(c)については、本年度に計画した我が国の物上代位に相当する英米法のtracingの法理の調査が時間切れで十分に捗らなかったものの、反面、この問題に関する議論の出発点と位置づけられるべきBoardman判決の詳細な分析を当初の実施時期である来年度から前倒しにして本年度着手できた。 以上より、本研究は、総合すれば概ね予定通り順調に進行したものと評価しうる。
|
Strategy for Future Research Activity |
情報の不正利用に関する比較法研究をさら進行させつつ、信託における物の不正利用と情報の不正利用の各規範のより詳細な分析を試み、本研究の成果となる論文の完成に向けて執筆作業を進める。その際、本年度の研究で重要性を一層強く認識するに至った、不正競争防止法の規範との関係の整理や、新たな物概念の調査にも時間を割くことにする。
|