2014 Fiscal Year Research-status Report
診療情報の保護と有効活用 ━処方箋データベースの構築と利活用に着目して
Project/Area Number |
26380158
|
Research Institution | Yamaguchi Prefectural University |
Principal Investigator |
増成 直美 山口県立大学, 看護栄養学部, 教授 (80538843)
|
Project Period (FY) |
2014-04-01 – 2017-03-31
|
Keywords | 個人情報保護 / プライバシー / 二次利用 / 診療情報 |
Outline of Annual Research Achievements |
初年度においては、世界的な医薬品有害作用報告の基盤となるデータベース等、診療情報の巨大なデータベースを有する、英国の状況を調査した。英国での現地調査は、2015年3月22日から同月29日に行った。臨床研究データリンク(Clinical Practice Research Datalink、以下CPRDという)運営部長のジョン・フォード博士を中心に、英国での診療情報の疫学研究への二次利用のしくみ、運営状況、問題点、今後の展望等について検討した。さらに、保健研究院(Health Research Authority、以下HRAという)の業務運営部長のアマンダ・フン氏らとHRAの背景と現状について、機密顧問団(Confidentiality Advisory Group、以下CAGという)副部長のクレア・エッジワース氏らとCAGの背景と現状等について検討し、CAG会議議長のマーク・テイラー博士のはからいで、3月のCAG会議にオブザーバーとして出席することができた。 英国の国民保健サービス(National Health Service、以下NHSという)は、1948年発足以降何度も改革を行っており、効率的で質の高い医療提供を目指してきた。2012年3月には「医療・社会福祉法(Health and Social Care Act 2012)」が制定され、その改革が2013年4月より本格的に施行されはじめ、現在その途中にあるということで、本研究領域においても、大きな変化が生じていた。 また、2013 年、NHS は病院・かかりつけ医・全てのソーシャルケアのデータを連結し、二次利用をめざす新プログラムcare.data を開始した。しかし、市民への周知等に問題があるとして、現在、計画留保の状態にあった。
|
Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
平成26年度途中で所属機関を変更したため、英国での現地調査が年度末になってしまったが、事前準備に十分な時間を費やしたことで、おおむね予定通りに進んでいると考える。 英国は、医療領域において、新法の制定や新機関の設立、改組等、大きな変化を呈していた。しかし、英国政府は、従来から世界をリードしてきた診療データベースの活用領域に関しては、従来と同様に将来的にも重要であるとの認識の下、英国の経済発展をも視野に入れた「成長のための計画」の一環として、電子医療記録データの使用に関するコンセンサスを構築するとし、医学研究における英国のユニークなポジションの獲得を目指している。 2012年4月からは、従来からのGPRD(General Practice Research Database)の活動を引き継ぐ形で、CPRDが、新しく英国全体のNHSの観察研究および介入研究サービスを開始した。2011年12月1日に特別保健局として設立されたHRAは、患者の利益と医学研究の公共性を保護・促進し、研究規制の合理化を目指す。HRAに設置された独立諮問グループのCAGは、同意なしに患者情報にアクセスするための研究用途が承認されるべきか否かについて、2002年の保健サービス(患者情報の管理)規則の下で審査し、HRAと保健国務長官に助言する。HRAは、CAGの助言を検討の基盤として、最終的な承認の決定を行うというしくみである。CPRD、HRA、CAGの活動は、わが国においても非常に参考になるものと思われた。
|
Strategy for Future Research Activity |
英国でのCAG会議においても、個人がコントロール可能な電子医療記録システムを導入しているオーストラリアが話題になる等を経験したので、今後の研究の推進方策に関しては、当初の計画通りに進めることにしたい。 2年目においては、患者個人で管理可能な電子医療記録としての投薬情報を医療関係者と共有しようとしているオーストラリアの法システムについて調査する。オーストラリアでは、2010年の医療識別番号法(Healthcare Identifiers Act)の導入により、医療分野においては患者個人のIDによって患者と医療関係者が医療情報を共有するHI(Health Identifier)サービス体制が整いつつある。すでに2005年には、eHealthの導入と普及を目的とした電子医療推進公社が設立されており、連邦政府、州政府、準州政府が共同して社会的基盤を構築する体制を整備している。電子医療推進公社は、とくに投薬情報と医療・介護システムとの高度の連携を模索しており、臨床コミュニケーションの観点から、処方箋の要求に対して、構造化文書テンプレートを用意している。そこで、電子医療推進公社を中心に、法的基盤、プライバシー保護対策等の運営・管理、患者の処方箋情報を含む診療情報の個人管理における問題点などについて、聴き取り調査を予定している。 3年目においては、個人情報保護法およびプライバシー原則に則って、医療情報化推進活動に個人の診療情報の保護を組み込むことに成功している、カナダの状況を調査する予定である。
|
Causes of Carryover |
平成26年度の途中で所属機関を変更したため、新所属機関である山口県立大学の行事との関係で、出張期間を十分に確保することができなかった。そのために、英国のデータ保護機関である情報コミッショナー事務局(Information Commissioner Office)への聞き取り調査等を断念せざるを得なかった。次年度からは、所属機関の行事を十分に把握し、調査に取りこぼしがないように調整したい。
|
Expenditure Plan for Carryover Budget |
本年度繰り越して次年度に使用する予定の研究費は、英国で収集した大量の資料を電子化して整理・保存するために充てる予定である。さらに、今年度の英国調査において、前述のcare.dataプロジェクトが暗礁にのりあげており、今後の展開が危惧される。医療におけるビッグデータにも関連する問題として、次年度も引き続き本プロジェクトの行方を追跡することにしたい。
|
Remarks |
年度途中の所属機関の変更により、英国での現地調査が年度末になってしまったため、当該年度内の成果発表は叶わなかったが、平成27年度に、第27回日本生命倫理学会での発表、本学紀要への投稿を予定している。
|