2015 Fiscal Year Research-status Report
診療情報の保護と有効活用 ━処方箋データベースの構築と利活用に着目して
Project/Area Number |
26380158
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Research Institution | Yamaguchi Prefectural University |
Principal Investigator |
増成 直美 山口県立大学, 看護栄養学部, 教授 (80538843)
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Project Period (FY) |
2014-04-01 – 2017-03-31
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Keywords | 個人情報保護 / 疫学研究 / 医事法 / 社会医学 / 医療・福祉 |
Outline of Annual Research Achievements |
本研究課題の2年目においては、患者等の消費者が自身の診療記録について、どの医療機関がどの情報にアクセスできるかを管理することができ、また自身の記録へのアクセス履歴を見ることができるという、世界に類を見ない、患者の自己情報コントロール権を重視したシステムを持つとして注目を集めていたオーストラリアの実状と法制度を調査研究した。現地調査は、2016年3月18日から同月28日に、個人的にコントロールされる電子医療記録(Personally Controlled Electronic Health Records: PCEHR)システムの運用が上手く進んでいるとされるダーウィン(北部準州)と、多くの課題をかかえるメルボルン(ビクトリア州)で行った。 アボリジニ等の住民の健康管理が重要な課題であるダーウィンでは、PCEHRシステム導入前から、患者データの電子化、医療機関間での患者の診療情報の共有が進んでいたため、当該システムは上手く機能していた。一方、メルボルンでは、患者や医療機関の当該システムへの登録が進んでいないことから、患者が自己の診療データを見たくても、医療機関によるデータの登録が行われていないといった悲惨な結果が生じていた。連邦としても、消費者および医療専門職者の登録率の低迷(10%)が問題となり、昨年後半に、当該システムの再構築が宣言され、本年3月の初めに再建が始まったところであった。 帰国後、日本とオーストラリアとの社会システムの違い等を考慮しながら、オーストラリアの不成功に至った経験を分析しつつ、わが国における診療情報の保護と有効活用に関する意見をまとめ、平成27年度の研究成果として、平成28年12月3日-4日に開催予定の第28回日本生命倫理学会年次大会にて発表予定である。また、本研究の詳細に関しては、平成28年度の山口県立大学紀要に投稿すべく、準備を進める。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
本年度は、世界に類を見ない、患者の自己情報コントロール権を重視したシステムを持つとして注目を集めていたオーストラリアの実状と法制度を予定通りに調査研究できた。特に、2つのまったく状況の異なる地域の現状を垣間見ることができたことは、有意義であった。訪豪中には、行政関係者、医療関係者、一般住民等に直接話をする機会を持つこともでき、貴重な意見や視点を得ることができた。
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Strategy for Future Research Activity |
最終年度にあたる平成28年度は、計画に則って、個人情報保護法およびプライバシー原則に従って、医療情報化推進活動に個人の診療情報の保護を組み込むことに成功している、カナダの状況の調査研究を進めたい。2011年4月に組織された、医療者と薬局を結ぶ電子処方箋システムの開発と実装を促進し患者安全を強化するためのワーキンググループであるインフォウエイは、包括的長期計画に基づき、専門家集団が政治と一線を画して運営しており、他方で、「電子医療情報とプライバシー」をテーマに世論調査も実施してきている。また、医学研究のために行政データの利用を支援する組織も存在し、多くの研究成果につながっているようで、大変興味深い。これらを中心に、渡航前の資料調査、現地での実態調査、帰国後のまとめと報告を予定している。 さらに、初年度の英国、本年度のオーストラリアとの比較検討を行い、わが国の現状を把握しながら、わが国におけるeHealthのあり方を検討する予定である。
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Causes of Carryover |
オーストラリアでの現地調査において、移動費(ダーウィン~キャサリン間約300km往復)、会議費等において、チャールズダ-ウイン大学側のご協力を賜った。
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Expenditure Plan for Carryover Budget |
わが国においても、行政データの二次的な研究利用が開始されているので、その実態と医学研究における普及の可能性についての検討に使用する予定である。
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