2014 Fiscal Year Research-status Report
政党システム変動期におけるイギリス二大政党の政党組織改革についての研究
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26380161
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Research Institution | University of Tsukuba |
Principal Investigator |
近藤 康史 筑波大学, 人文社会系, 准教授 (00323238)
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Project Period (FY) |
2014-04-01 – 2017-03-31
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Keywords | イギリス政治 / 比較政治 / 政党 |
Outline of Annual Research Achievements |
本研究の主な対象となるイギリス二大政党(労働党・保守党)について、本年度は以下のような研究を行った。 まず労働党に関しては、比較の観点からその政党組織の特徴と、変化を可能にした要因を分析すべく、特にドイツ社会民主党との比較研究を行った。その結果、1990年代末から2000年代以降において、イギリス労働党の路線転換が可能になった要因が、1990年台前半における政党組織改革によるものであるとの結論を得た。このことにより、政党の戦略的・政策的な柔軟性が、政党組織との関わりの中で変化することを比較の観点から分析した点は、本研究の持つ意義の一つである。しかし、労働党におけるこの変化は、その後、党員の減少などマイナス面を生み出していることにも言及し、今後の検討課題として明確化した。 第二に保守党に関しては、主に2010年以降のキャメロン政権以降を対象としながら、サッチャー期との連続性・非連続性を中心とする変化の観点から、検討を行った。その結果、緊縮財政の中での福祉削減などにおいて、サッチャー期との連続性が強く見られるが、社会や公共サービスを重視する点には、非連続性も存在することを確認した。このような政策的連続性と転換についての検討は、その政党組織の変化との関連についての分析へと進むための準備作業としての意味を持っている。 第三として、イギリスの二大政党制がどのようなダイナミクスを持っていたのかについて、戦後の福祉国家を事例としながら検討する作業を行った。その結果、この両党は広い観点でコンセンサス政治を形成してきたが、その要因の一つが以前の政権からの経路依存性にあることや、しかし各政党において独自に経路形成が行われるために、コンセンサス政治の中でも対立が顕在化し、その動態によって変化が生み出されている点について、言及した。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
本研究は、政党システムの変動が顕著となったイギリス二大政党(労働党・保守党)の政党組織改革を対象に、近年においていかなる方向性を有する組織改革が行われているのか、またそれが両党の統合能力の再生に対していかなる効果をもっているのかについて検討することを目的としている。 この目的に照らして、まず労働党に関しては、それが行った政党組織改革の特徴と変化の要因について、比較の観点から析出する作業が進んだ。今後は、より最近の組織改革について検討する必要があるが、その準備は整ったといえる。また、資料収集も順調に進んでいる。また保守党に関しては、それが置かれた現代的位置・歴史的位置についての検討を行い、それを政党組織との関連から分析する準備が整った状況である。資料収集も順調に進んでいる。 また、分析のための理論枠組について、主に政党論の観点からの検討が順調に進むとともに、イギリス二大政党制について位置づける作業も、福祉国家という政策に焦点を当てた形で行ってきた。これらは、今後、労働党・保守党をそれぞれ分析する際のマクロな歴史的文脈および制度的条件の影響力の強さを確定する作業として位置づけることができ、この観点からも、今後の研究の進展に向けた準備は整いつつある。 以上の観点から、本研究は、おおむね順調に進展していると言える。
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Strategy for Future Research Activity |
平成27年5月にはイギリス総選挙が行われるという点も念頭に置き、今後は、イギリス総選挙前後における各政党の政党組織の変化やそれへ向けた議論状況についての資料を収集・検討し、政党組織改革の最新の状況を踏まえた分析へと進む予定である。 労働党の政党組織については、これまでのところ一定の検討が進んだ状態にあるため、上記の資料に基づき最近の変化についての分析に進むことができる。国内ではすでに口頭発表を行ってきたが、今後はイギリスにおける労働党研究者ともコンタクトを取り、研究の状況についてディスカッションを行いたいと考えている。 保守党についても、特に2000年代中盤以降のにおける全般的な変化の傾向について分析が進行したため、今後は、保守党の政党組織に焦点を当てた形で、より詳細な資料の収集に努め、その特徴と変化を位置づける作業へと進む。総選挙前後の変化についても、労働党と同様に資料収集を行うが、その分析については、上記の作業が終了次第、開始することとする。 並行して、全体的な研究デザインや理論枠組みについて、これまでの研究から得られた結果とや収集された資料との整合性を取りながら、より精緻化していく作業も行う。国際的水準を目指すため、国外の最新の政党研究を積極的に摂取するとともに、政党論を中心とした数人の研究者とは直接にコンタクトを取り、本研究の方向性についてディスカッションを行うことを考えている。また、以上の資料収集や、その整理に関して、引き続き大学院生を雇用し、作業の効率化を図る。
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Causes of Carryover |
平成27年度においては、資料収集や口頭発表に伴う旅費として一定額を計上していたが、①本研究に関わる口頭発表などのための出張が予定よりも増加し、当初予定していた調査のための出張のスケジューリングが26年度内では困難になったこと、②海外の訪問先との日程調整が困難であったこと、③26年度における資料収集・調査は、主に国内機関などを通じて順調に進んでいたことなどを勘案し、調査計画の一部を次年度以降へと延期した。そのため、旅費の一部を次年度以降に繰り越したため、次年度使用額が発生している。
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Expenditure Plan for Carryover Budget |
当初の予定では、平成27年度において、保守党の政党組織についての調査と、総選挙後の結果を踏まえた保守党・労働党の両党における議論状況についての調査を行うことととしていたが、今回の次年度使用分を加えることによって、労働党についてもより詳細な資料収集、およびイギリスにおける政党研究者への訪問を行うことが可能になり、そのための旅費として使用を計画している。 その他に、比較政治理論や政党論を中心とした文献の収集を行い、その検討を通じて分析枠組の形成を行うとともに、それを踏まえてこれまで収集した資料をもとに分析を行い、国内を中心に口頭発表を行うこと、また収集した資料について、イギリス政治を専門とする大学院生を雇用し、資料整理を行う点については、当初の予定通り進めていく計画である。
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