2015 Fiscal Year Research-status Report
バルト諸国の移民と政治:「メモリーとアイデンティティ」に関する問題の考察を通して
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26380210
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Research Institution | Okayama University |
Principal Investigator |
河原 祐馬 岡山大学, 社会文化科学研究科, 教授 (50234109)
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Project Period (FY) |
2014-04-01 – 2017-03-31
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Keywords | メモリー / アイデンティティ / 移民と政治 / 歴史認識 / エストニア / ラトヴィア / ロシア / バルト三国 |
Outline of Annual Research Achievements |
本研究は、エストニアとラトヴィアの事例を主たる対象としたバルト諸国の政情に対するこれら両国に居住するロシア語系住民の政治行動の影響について、学究的な観点からの考察を試みようとするものである。これらバルト諸国がソ連からの独立後に進めている社会統合政策についてのこれまでの主要な経緯を踏まえつつ、こうした社会統合政策の進展が国内に居住するロシア語系住民の政治行動の展開プロセスにどのような影響を及ぼし、また、これらロシア語系住民の政治行動をめぐる問題が、受け入れ側のバルト諸国と送り出し側のロシア双方の政情および両国間関係にどのような外交上の政治的影響を及ぼすものであるのかということについて考察することが本研究の主眼とするところである。特に、政治的主体としての移民という着眼点に基づきつつ、受け入れ国における移民の政治行動をメモリーとアイデンティティをめぐる問題との関連において考察しようとするところに本研究の研究上の斬新さと独創性があると考えられ、こうした基本的な研究手法を踏まえつつ、本年度は、昨年度における研究を発展的に継続する形で、バルト諸国における社会統合政策の進展について、主として、これら諸国とロシアとの間の歴史認識問題をめぐる議論に焦点を当てつつ、現地調査および同調査を踏まえた関係各国の政情についての研究分析を行った。こうした研究上の取り組みは、単にバルト諸国とロシアとの間の外交関係のみならず、現在、日本と、中国および韓国との間に存在する異なる歴史認識をめぐる諸問題を検討・考察する上でも有益な示唆を与え得るものであると考えられる。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
3: Progress in research has been slightly delayed.
Reason
本年度は、バルト諸国に居住するロシア語系住民の政治行動とその影響および歴史認識をめぐる議論を踏まえたこれら諸国におけるロシア人を中心とした移民外国人のメモリーとアイデンティティに関わる問題についての調査と分析に比重を置きつつ、研究計画書において提起した研究課題に取り組んだ。本年度の研究段階では、基本的に前年度の平成26年度に収集された調査資料および研究データに基づきつつ、エストニアとラトヴィア両国におけるロシア語系住民のメモリーとアイデンティティおよび政治行動に関わる問題についての調査分析を進め、また、補助的資料の収集を目的とする調査研究活動を通じて、本研究において着眼すべき問題についての把握に努めた。これとの関係で、本年度は、本研究課題の研究対象をエストニアとラトヴィア両国の社会統合政策とは異なる進展プロセスをたどったリトアニアの事例に着目し、同国のクライペダ大学等の学術機関において資料収集および調査活動を行った。本年度の研究段階では、特に、エストニアとラトヴィア両国におけるロシア語系住民の政治意識に関わる彼ら(彼女ら)の政治行動をめぐる問題に目を向け、これら両国における移民の適応戦略および国政・地方両レベルでのその政治的影響についての分析・考察を中心とする研究活動に取り組んだ。当初の予定では、本年度において、特に、昨年度から着手しているバルト諸国におけるロシア語系住民のメモリーとアイデンティティをめぐる問題を主たる考察対象としたこれら諸国の社会統合および歴史認識問題に関する研究成果を学術論文の形で何点か公表する予定であったが、本研究論文に関わる資料の取り纏めおよび分析作業等の遅れもあり、研究成果のアウトプットという点において、当初の計画通りには研究が進捗してはいない状況にあると考えられる。
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Strategy for Future Research Activity |
本研究の最終年度となる平成28年度においては、先ず前年度にやり残したバルト諸国におけるロシア語系住民のメモリーとアイデンティティをめぐる問題を主たる考察対象とするこれら諸国の社会統合および歴史認識問題に関する学術論文を執筆・公表する予定である。この研究作業と並行して、調査・研究データの分析に基づくバルト諸国におけるロシア語系住民の政治行動とその影響およびメモリーとアイデンティティをめぐる問題とのバルト諸国における移民の政治行動との関連性についての比較的視点を踏まえた実証分析に比重を移しつつ、併せて、先行の研究年度における具体的な調査と分析を踏まえた上で、総合的な観点から研究成果の最終的な取り纏めの作業を進める。この研究段階では、バルト諸国におけるロシア語系住民のメモリーとアイデンティティおよび政治行動をめぐる問題の現状と課題についての考察を中心とした実証分析に基づきつつ、わが国のそれを含めた、いわゆる「メモリーの民主化」をめぐる問題との関連において、バルト諸国におけるアイデンティティ・ポリティクスを中心としたロシア語系住民に対する当該政府のあるべき社会統合政策についての具体的な考察を導くための総括的な取り組みを行う。また、当初には予定していなかった本研究に関わる研究上の補完的な活動として、平成28年度においても、前年度にひき続き、比較的視点を交えて、主たる研究対象となっているエストニアとラトヴィア両国のこうした総括的な研究作業との関連において、隣国リトアニアの事例に関する研究活動を行う予定である。最後に、以上のような本研究に関わる研究成果の公表を目的とした研究会や関連学会等での報告や研究成果報告書の作成などを通じて、本研究に関わる最終的な研究成果のアウトプットに努める予定である。
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