2014 Fiscal Year Research-status Report
財政政策が雇用・失業に与える影響についての理論・実証分析
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26380248
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Research Institution | The University of Tokyo |
Principal Investigator |
宮本 弘暁 東京大学, 大学院公共政策学連携研究部, 特任准教授 (10348831)
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Project Period (FY) |
2014-04-01 – 2017-03-31
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Keywords | マクロ経済学 / 雇用 / 財政政策 / サーチ理論 / DSGEモデル / 失業変動 |
Outline of Annual Research Achievements |
本研究の目的は財政政策が労働市場、とりわけ雇用・失業に与える影響を実証分析により明らかにし、その背後にあるメカニズムを労働市場の摩擦を考慮した動学的確率的一般均衡(DSGE)モデルを用いて、カリブレーション、構造推計ならびにシミュレーションの手法で体系的に分析することである。 近年,欧米諸国を中心に景気刺激型の財政政策が労働市場に与える影響について分析が行われているが、これらの先行研究を整理すると同時に、日本において財政政策がどのように労働市場に影響を与えるかを理論、実証の両面から分析し、その成果を2本の論文(宮本弘曉・加藤竜太「財政政策が労働市場に与える影響について」『フィナンシャルレビュー』平成26年第4号、pp.45-67および"Effects of Fiscal Stimulus on the Labor Market" with Ryuta Kato, Public Policy Review. 2015 Vol. 11, 277-302.)としてまとめた。 一般に財政刺激は政府支出の拡大や減税などを通じて行われるが、最近では労働市場を直接の対象とした財政刺激策も実施されている。そこで、伝統的な政府支出拡大と雇用助成の形をとる財政政策のどちらがより労働市場の状況を改善させるかを失業が存在するDSGEモデルを用いて理論・数量的に分析を行った。この研究成果は"Fiscal Stimuli in the Form of Job Creation Subsidies"という論文として査読付海外学術雑誌Journal of Macroeconomicsに掲載された。 また、財政政策が労働市場に与える影響を分析するためには、そもそも労働市場に関するファクトの整理、また、それらを説明しうる理論モデルの構築が不可欠である。そこで、日本における雇用変動・賃金動向について分析を進めた。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
平成26年度は主に財政政策が労働市場に与える影響を実証的に分析することを目指した。財政政策が雇用・失業を与える影響を実証的に分析する際には、時系列分析の手法である構造型VARモデルが用いられるのが通常であるが、本研究では、日本のマクロ経済および労働市場に関するデータを収集・整理し、構造型VARモデルを使用して、財政政策が雇用・失業変動に与える影響についての実証分析を進めた。また、これらの実証研究を進めると同時に、労働者のサーチ活動を考慮した動学的確率的一般均衡(DSGE)モデルによって財政政策が労働市場に与える影響について分析した既存の研究文献を再度レビューし、理論モデル構築を行った。これらの研究成果の一部は学術雑誌『フィナンシャルレビュー』やPublic Policy Reviewに掲載されるなど、当初の計画に沿った形で研究は順調に進んでいる。 また、財政政策が労働市場に与える影響を厳密に分析するためには、そもそも労働市場に関するファクトの整理、また、それらのファクトを説明しうる理論モデルの構築が必要となる。そこで、日本における雇用変動および賃金動向について理論、実証の両面からいくつかの分析を進めた。これらの成果のひとつとして、日本における景気循環上の賃金の動きを分析した論文"Cyclical behavior of real wages in Japan"を査読付海外学術雑誌Economics Lettersに掲載した。また、他の分析については現在、論文としてその成果をまとめ査読付学術雑誌に投稿準備を進めている。
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Strategy for Future Research Activity |
平成27年度は、平成26年度に引き続き動学的確率的一般均衡(DSGE)モデルにより財政政策が雇用・失業変動に与えるメカニズムを分析する。その際に、失業変動の背後にある労働力フローに注目して分析をすすめる。失業量は失業プールへの流入(インフロー)および流出(アウトフロー)によって決定されるため、これらの2つの労働力フローを考慮に入れてモデルを構築する。近年、欧米諸国および日本において失業へのインフローが失業変動の多くを説明することが実証研究によって明らかにされているものの、財政政策が失業変動に与える影響を分析する際に、労働者の失業プールへの流入を考慮した分析は少ない。そこで、まず、失業へのインフローおよびアウトフローが内生的に決定されるモデルの構築を行い、その後、財政政策が失業変動に与える影響について定性的な分析をすることを試みる。その後、カリブレーション、構造推計およびシミュレーションによる定量的な分析を開始する。 また、財政政策が労働市場に与える影響を厳密に分析するためには、そもそも労働市場に関するファクトの整理、また、それらのファクトを説明しうる理論モデルの構築が不可欠である。そこで、平成26年度に引き続き、日本における雇用変動および賃金動向について理論、実証の両面から分析を進める予定である。とりわけ、日本の労働市場の動きを捉えるためには単に雇用者数のみならず労働時間の変動や雇用形態の違いが重要であると考えられるため、この点に注目して分析を進める予定である。
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Causes of Carryover |
かなり複雑なプログラムによる莫大な計算処理を要するため、既存コンピュータの大幅なバージョンアップ、あるいは更新が必要である。当初の計画では平成26年度にこれらの研究環境の整備を行う予定であったが、購入予定のコンピュータやソフトフェアの発売遅れたことや、研究の進捗状況に応じ、これらの予算を次年度に繰り越すこととした。
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Expenditure Plan for Carryover Budget |
当初の予定通り、生じた次年度使用額はコンピュータ、ソフトフェアの更新に当てる予定である。複雑なプログラムによる膨大な計算処理が可能なデスクトップコンピュータおよびノートブックコンピュータを購入すると同時に、研究に必要となる専門ソフトフェアの更新を同時に行う予定である。また、これまでの研究成果や、今後、執筆予定の論文を国内外で発表するために、出張費として使用する予定である。
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