2014 Fiscal Year Research-status Report
不完全競争下での戦略的な貯蓄行動:排出権バンキングと電力蓄電行動の動学的分析
Project/Area Number |
26380291
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Research Institution | National Graduate Institute for Policy Studies |
Principal Investigator |
田中 誠 政策研究大学院大学, 政策研究科, 教授 (10377137)
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Project Period (FY) |
2014-04-01 – 2018-03-31
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Keywords | 環境政策 / エネルギー政策 / 排出権バンキング / 不完全競争 / 動学 |
Outline of Annual Research Achievements |
平成26年度には、排出権バンキングに関して、不完全競争下での戦略的・動学的な意思決定を説明する経済理論モデルを構築・分析した。特に、環境・エネルギー分野の生産活動で大きな比重を占める電力産業を念頭に置き、電力財市場と排出権市場の両者を含むモデルを考察した。このモデルは不完全競争下の動学的最適化問題として定式化され、電力産業の企業は割引率を考慮した長期にわたる利潤を最大化するように、各期の電力の供給量と排出権の取引量の二つの変数を意思決定する。モデルを解析的に解くことにより、不完全な競争、不完全な裁定のもとで、支配的企業が以下の戦略的行動を取りうることを示した: (1)ある期に排出権価格を下げる方向に操作して、排出権を安い価格で購入して使用せずにバンキングをしておく。 (2)そして、後の期に今度は逆に排出権価格を吊り上げる方向に操作して、以前の期にバンキングしておいた排出権を高い価格で売却する。 上記の結果は、不完全競争・不完全裁定のもとで、企業が排出権バンキングを活用して市場支配力を行使することで、企業の利潤を高めるように排出権の取引を異時点間で戦略的に配分しうることを示している。従来の完全競争と完全な裁定を仮定した諸研究では、排出権価格がホテリングのルールに従い利子率で上昇する帰結を示している。これに対して、本研究では、不完全競争・不完全裁定のもとでは、市場支配力行使の結果として、排出権価格が利子率よりも高い率で上昇しうることを示し、ホテリングのルールが成り立たない可能性を示唆する。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
年度当初の計画に沿って、理論モデルを構築し、それを解析的に解くことでいくつかの理論的結果を得て、研究目的を着実に達成しつつある。
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Strategy for Future Research Activity |
平成27年度は、平成26年度の理論分析に基づき、現実の市場データを使った排出権バンキングのシミュレーション分析により、理論的な分析結果を検証する予定である。
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Causes of Carryover |
主な理由は、シミュレーション分析のためのデータ収集事前準備や数値計算モデリングの事前準備に関して海外出張により専門家と意見交換をする予定であったものを、次年度に繰り越したためである。
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Expenditure Plan for Carryover Budget |
平成27年度に、シミュレーション分析のためのデータ収集準備や数値計算モデリングの準備に関して、専門家との意見交換等を目的として海外出張を実施予定である。
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