2014 Fiscal Year Research-status Report
文化資本による地域再生のための理論と実証―日仏比較研究
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26380292
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Research Institution | National Graduate Institute for Policy Studies |
Principal Investigator |
垣内 恵美子 政策研究大学院大学, 政策研究科, 教授 (90263029)
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Project Period (FY) |
2014-04-01 – 2017-03-31
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Keywords | 文化資本のインパクト / 文化資本による地域再生 / 創造産業実態分析 / 日仏比較研究 |
Outline of Annual Research Achievements |
本研究は、芸術家・芸術団体、文化遺産(有形・無形の文化財、博物館や劇場等の文化施設を含む)等の文化資本を導入した地域再生に関し、3年間の期間において、①日本とフランスの比較研究を通じ、②その実態とメカニズムを定量的に明らかにし、③経済的に最適化する仕組みを理論的・実証的に示すことを目的として、文化資本の保護、活用、創出にかかる総合的な枠組みを経済学的かつ定量的な視点から考察するものである。このため、平成26年度では、既存の経済統計データ及び実態調査の結果を用いて、主として産業面からの分析を行い、日仏の文化資本関連データの収集(芸術活動、歴史的遺産保護、文化施設の活動等)及び文化資本に関わる活動が生産活動に与える影響の分析を行った。前半においては、既存研究の整理を行ない、産業構造の影響の分析に利用するデータの情報及び分析の着眼点について状況を整理、あわせて文化財に関する制度的な情報整理を行った。また、5月に国際会議に招聘されたことを機に、日本の事例分析を整理・発表、あわせてフランスのみならず、ドイツやイタリアなどヨーロッパ諸国の情報も盛り込んで創造産業及び創造都市事例を整理して刊行した。後半においては、韓国での国際会議への招聘を機に文化遺産の事例を取りまとめるとともに、9月にチェコで開催された国際学会においてオーケストラの社会的便益及びアウトリーチに関わる定量分析結果について口頭発表を行った。さらに、国内の利用可能なデータを収集し、文化的価値による産業活動への影響に着目した分析を行い、日本においてもフランスにおいても、創造産業を中心とする文化資源に関連する経済活動自体は、一定の規模はあるものの、中小ロットの比較的小さなマーケットを対象とする多様な産業構造を有していることが確認された。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
本年は、次年度につながる準備期間と位置付け、主として産業面でのインパクトに着目して、既存の研究成果を取りまとめて論文にするとともに、データ蓄積と分析を進めた。特に創造産業と位置付けられる産業群に関しては、包括的な統計データに基づき詳細分析を行うことで、各部門別の実態が明らかになった。ICT以外の部門については、それぞれ比較的小規模で多彩な産業構造を持ち、サービス系では付加価値も高いが、財の産出に関わる産業部門は従業員一人当たり付加価値が低く人材の吸収も少ないことが分かった。なお、文化活動の生産活動への影響については現在も分析中であり、この点が予定よりもやや遅れているものの、以下に述べるように研究計画当初に想定していなかった外部要因により、個別ケース分析を含む別の知見を得られたことから、研究全体としては概ね順調に進めることができたと判断する。5月には、イタリアトリノ大学での国際会議に招聘され、金沢市の文化的景観保護を含む創造産業の実態分析について口頭発表(この論文を含むプロシーディングスは国際学会誌のspecial editionとして取りまとめ中)、9月にはUNESCOと慶州市、国際組織OWHCが共催する国際会議に招聘され、世界遺産石見銀山保護体制及び課題について口頭発表を行い、チェコの国際会議においてオーケストラ活動の社会的インパクトに関する定量分析結果について口頭発表を行った。あわせて、日仏だけでなく、ドイツやイタリアなどの文化資本を活用した創造産業及び創造都市に関するこれまでの研究成果を取りまとめた。
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Strategy for Future Research Activity |
本研究は、日仏比較研究を通じ、文化資本による地域再生の実態とメカニズムを定量的に明らかにし、最適化する仕組みを理論的・実証的に示すことを目的としている。そのため、統計的分析手法により、文化資本の保護、活用、創出が、産業構造及び産業基盤形成に与える影響を分析し、これらを経済的に最適化するための仕組みの考察を行う。平成26年度には、既存の経済統計データ及び実態調査の結果を用いて、主として産業面でのインパクト分析を行ったことから、平成27年度は、教育や福祉等の非経済データも含むデータセットを作成し、統計解析に基づいて、文化資本に関わる活動が知的・人的発展等に焦点を当てた産業基盤形成に与える影響とそのメカニズムを分析する予定である。これにより、日仏両国の文化資本の特性の把握と両国の文化資本が特に知的・人的発展等に与える影響とメカニズムの分析を目指す。 文化資本の産業面でのインパクトは、創造産業を中心とする分析においても、既に記述したとおり、一定規模を有しつつも比較的控えめであり、ICT関連部門を除けば、中小ロットのマイクロマーケットを中心とする多彩な産業群であるといえる。しかしながら、近年の産業構造の高付加価値化の要請の下、価格競争にのみ依存するのではない新たな付加価値の創出が可能であり、この点で文化資本に関わる活動を通じて地域に蓄積共有される文化的な知識技術による産業基盤形へのインパクトは、直接的な産業面でのインパクトよりも大きいと考えている。そのため、特に、産業基盤形成の分析に関しては、知的・人的発展という非市場価値を扱う必要があり、経済データ以外の教育や福祉に関するデータや、ヨーロッパの事例にならい、中間支援組織(アソシエーションやNPOなど)の実態も変数として用意する予定である。
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[Presentation] Culture, Creativity and cities2014
Author(s)
Emiko Kakiuchi
Organizer
Governing Culture Workshop in memoriam of Walter Santagata
Place of Presentation
Aula Magna campus Luigi Einaudi, Univeristy of Torino, Torino (Italy)
Year and Date
2014-05-30 – 2014-05-31
Invited
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