2015 Fiscal Year Research-status Report
開放経済下の環境戦略:セクター別規制から一律規制への移行過程に関する理論分析
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26380335
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Research Institution | Nanzan University |
Principal Investigator |
寳多 康弘 南山大学, 総合政策学部, 教授 (60327137)
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Project Period (FY) |
2014-04-01 – 2017-03-31
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Keywords | 貿易と環境 / セクター別規制 |
Outline of Annual Research Achievements |
本研究の目的は、各国が独自に環境規制を行う初期段階から、どのようなステップを経て最終的に望ましい排出源の一律規制に向かうのかを、貿易自由化の進展と関連させて考察することである。グローバリゼーションが深化する中、国際市場での公正な競争と炭素流出の防止の観点から、各国は産業(セクター)ごとに濃淡のある環境規制を課す傾向がある。特に輸出産業において環境規制が緩くなる傾向にある。しかし、汚染の限界削減費用が異なるため非効率な環境規制である。国際競争に直面する産業は、多くの場合関税などで保護されている。よって、貿易政策と環境政策の関連を考察することは極めて重要である。
セクターごとに異なる環境規制として、セクター特殊的な排出量取引制度をモデル化した。また、輸入産業を保護するために関税を課していると想定する。この枠組みで、セクター別の規制をやめて経済全体での一律規制に移行した際の効果を小国モデルで分析した。
主な結果として、関税を課している限り、輸出産業に対する環境規制が輸入産業よりも緩いとき、経済全体の一律規制は経済厚生を下げる可能性があることを示した。国際貿易がある場合は、交易条件がひどく悪化しない限りにおいて、一律規制は経済効率性を高めるのでよいことが既存研究で示されている。本研究では、交易条件効果がない小国モデルにおいて一律規制と関税政策の関連を分析して、経済厚生が改善する条件を導出したところに大きな意義がある。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
本研究の目的は、各国が独自に環境規制を行う初期段階から、どのようなステップを経て最終的に望ましい排出源の一律規制に向かうのかを、貿易自由化の進展と関連させて考察することである。国際市場での公正な競争の観点から、各国は産業(セクター)ごとに濃淡のある環境規制を課す傾向があり、特に輸出産業において環境規制が緩くなる傾向にあることが知られている。しかし、環境規制の観点からは、汚染の限界削減費用が異なるため非効率な環境規制である。国際競争に直面する産業は、多くの場合関税などで保護されている。よって、貿易政策と環境政策の関連を考察することは極めて重要である。
セクターごとに異なる環境規制として、セクター特殊的な排出量取引制度をモデル化した。これは各セクター内では自由に排出量を売買できるが、セクターをまたいでの売買ができず、セクター内では排出量価格は同一だがセクター間では価格が異なる。また、輸入産業を保護するために関税を課していると想定する。この枠組みで、セクター別の規制から経済全体での一律規制に移行した際の効果を小国モデルで分析した。
主な結果として、関税を課している限り、それがかなり低い税率であっても、輸出産業に対する環境規制が輸入産業よりも緩いとき、経済全体の一律規制は経済厚生を下げる場合があることを示した。厚生悪化を回避するためには、一律規制に向かうにつれて関税率を下げて、最終的には自由貿易にする必要がある。この結果の意義は、経済全体の一律環境規制と貿易政策の関連を示したことにある。一律規制は一般によいといわれているが、貿易がある場合は交易条件がひどく悪化しない限りにおいてよいことが既存研究で示されている。本研究では、交易条件効果がない小国モデルにおいて一律規制と関税政策を分析して、経済厚生が改善するための条件を導出したところに大きな意義がある。
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Strategy for Future Research Activity |
セクター別の環境規制をモデル化して、経済全体の一律規制への移行効果を明らかにできた。特に国際競争に直面する輸出産業とそれ以外の産業との環境規制の違いを考慮に入れて、一律規制と関税政策の関連を分析し、経済厚生が改善する条件を大国モデルで明らかにする予定である。環境の一律規制は、一般に汚染削減の限界費用を均一化するので経済にとってマイナスの効果はないといわれているが、国際貿易がある場合は異なることが知られている。特に交易条件効果のある大国では、一律規制による産業構造の変化が、財の供給量を変化させ、世界価格に影響を与え、自国の交易条件が不利になる場合があることが知られている。
経済全体の一律環境規制の効果を小国貿易モデルで分析して、結果を論文にまとめて、査読付きの学術雑誌に論文の掲載が決定した。これは小国モデルであるため交易条件が変化する副次的効果は考慮できていない。この副次的効果は、一律規制自体のメリットを上回る可能性があることが既存研究で示されている。そのため、一般的には、交易条件効果も含んだセクター別規制から一律規制への移行効果を考察する必要がある。これにより、一律規制がどのような条件の下で導入すべきかについて新たな知見を得ることができる。
具体的には、最終年度において、当初はセクター別の環境規制であった国が、経済全体の一律環境規制に移行した場合の効果を2国2産業の大国モデルに拡張して分析して、交易条件効果が結果にどのように作用するのかを明らかにする。そして、一律規制により経済厚生が改善するための条件を明示して、政策的インプリケーションを説明する。交易条件効果がある場合には、一律環境規制の効果が不確定となり、明確な経済厚生改善の条件の導出ができないことが危惧される。その場合はモデルのより特定化などによって明確な条件を導出できるような工夫を行う。
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Causes of Carryover |
研究成果の英文校正を行う予定であったが行わなかったため。
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Expenditure Plan for Carryover Budget |
研究成果の英文校正を行う。
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Research Products
(1 results)