2016 Fiscal Year Research-status Report
最低賃金が雇用、失業、経済成長、経済厚生に与える影響
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26380343
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Research Institution | Osaka University of Economics |
Principal Investigator |
山口 雅生 大阪経済大学, 経済学部, 准教授 (50511002)
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Project Period (FY) |
2014-04-01 – 2018-03-31
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Keywords | 最低賃金 / 処置効果 / 自然実験 / 雇用 / 賃金 / 在職期間 / 離職 |
Outline of Annual Research Achievements |
2000年代以降アメリカやイギリスの研究で、最低賃金の政策効果がより正確に識別されるようになって、最低賃金の引き上げが、雇用に有意な影響を与えないが、賃金を有意に増加させる効果があることが多くの実証研究で示されている。これらの先行研究に学びながら、2016年度は、政策効果をより正確に識別するための計量経済学的手法(準自然実験)を用いて、日本での最低賃金引上げが、飲食店事業所(中産業分類76)の雇用、平均賃金、勤続年数、離職率等に与える影響を分析した。 分析では、2008年から2011年の『賃金構造基本統計調査』の飲食店産業の個票データから、事業所コード、市町村コード、地域コードを用いて、同一事業所の追跡データを構築した。その追跡データを用いて、事業所内の最低賃金に抵触する労働者の割合を説明変数として、また最低賃金の引き上げ前後の雇用者数、賃金、賃金総額、勤続年数の対数差分などを被説明変数として、最低賃金の引き上げが事業所に対してどのような影響を与えるのかを分析した。その際、地域や県の異質性や経済ショックのコントロールや、処置の割り当てがよりランダムになることなどに注意を払うために、7つのモデルを推計した。 分析の結果、賃金を有意に引き上げること、飲食店事業所の雇用に有意ではないが、正の効果を与えること、短時間労働者の賃金総額と全体の賃金総額を有意に押し上げること、短時間労働者の平均勤続年数を伸ばす可能性があること、事業所の離職者数を減少させる可能性があることなどが示された。この結果を"Minimum Wage Effects: Empirical Evidence from Japan"として国際シンポジウムで報告し、また論文「最低賃金の引き上げが飲食店事業所の雇用にどう影響するのか」にまとめた。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
4: Progress in research has been delayed.
Reason
一昨年度までの最低賃金マクロモデルの研究の遅れが影響し、最低賃金の政策効果の実証研究に取り掛かった時期が遅くなったために、研究が遅れている。同時に昨年度の地域別最低賃金の所得分布に与える影響についての研究で、最低賃金が賃金所得上位層に影響が与えるという、内生性の問題が生じて可能性が高く、この問題を解決できていないまま、研究がとん挫している。さらに2016年1月からは、最低賃金が事業所の雇用等に与える研究を準備するために、事業所コードを用いて、同一事業所の複数年度にわたるデータ接続等、準自然実験の環境を整えるためのデータベース構築を行ったが、この作業が予想以上に時間がかかってしまった。以上の理由により、下記の研究業績しか出せなかった。
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Strategy for Future Research Activity |
論文「最低賃金の引き上げが飲食店事業所の雇用にどう影響するのか」では、飲食店事業所だけを対象にしたためにデータ数が1700程度と小さく、特に離職率の影響については、頑健な結果が得られていない。また、最低賃金の政策効果を、Dube et al (2007)のTreatment intensity(最低賃金に抵触する労働者の割合)のみを用いて分析している点で、やや頑健性を欠く。そこでより頑健な結果を得るために、Guliano(2013)やHirsh et atl(2015)の指標を用いた分析も必要だと考えている。今後の研究では、以上の点を考慮して、飲食店事業所に加えて宿泊業も加えて、データ数を4100程度にまで増やして、最低賃金の処置効果をより正確に識別する予定である。 同時に2017年1月ごろに経済成長率と賃金・消費について研究仲間と議論する機会を受けて、マクロ経済の成長モデルを用いて、需要不足時と完全雇用時における実質賃金率(実質最低賃金)の経済成長率に与える影響についての研究を、短期間に集中的に進めた。現在その論文の加筆修正を進めており、2017年度中に成果を出すことを目指している。
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Causes of Carryover |
国際シンポジウムへの出張経費を、科研費ではなく、ほかの経費から捻出できたこともあり、出張経費が余ったことと、人件費の支出が少なかったことが要因である。
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Expenditure Plan for Carryover Budget |
英文校正費用、文献購入費用等に用いる予定である。
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