2015 Fiscal Year Research-status Report
予算編成過程における権限の分割と政府支出拡大との関連性
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26380370
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Research Institution | Keio University |
Principal Investigator |
寺井 公子 慶應義塾大学, 経済学部, 教授 (80350213)
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Project Period (FY) |
2014-04-01 – 2017-03-31
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Keywords | プリンシパル・エージェント問題 / 委任 / 予算編成 / 分権的財政制度 / インセンティブとしての予算配分 |
Outline of Annual Research Achievements |
本研究は、組織内でプリンシパルがエージェントに配分する予算が、エージェントに、プリンシパルにとって望ましい行動をとらせるためのインセンティブとなり得る点に着目し、予算編成過程において、プリンシパルあるいはエージェントの政策に対する選好や、政策の費用について、情報の非対称性が存在する場合、組織内の予算配分がどのような影響を受けるのかについて考察することを目的とする。 平成26年度は、プリンシパルとエージェントで政策に対する選好が異なる場合の均衡予算配分を求めることができる基本モデルを構築した。そのうえで完全情報を仮定し、予算過程の分割、複数のエージェントに対する意思決定の委任の効果を明らかにした。 平成27年度は基本モデルをさらに拡張し、プリンシパルがエージェントの選好を知らない場合、エージェントがプリンシパルの選好を知らない場合に、どのような帰結が予想されるかを分析した。分析の結果、政府内、あるいは分権的財政制度下の上位政府と下位政府の間で情報の非対称性が存在することが、非効率な予算配分につながることが明らかになった。 このような理論分析の結果は、組織内の各部門が、管掌する政策分野についての情報を独占することが、非効率性の発生につながることを示唆している。財政赤字に苦しむわが国においては、特に、省庁間、あるいは中央政府・地方政府間の人事交流、事業評価の実施と結果の公表、補正予算へのシーリング設定などの方策によって、非効率な予算配分をコントロールできる可能性があることが推察される。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
平成26年度に構築した基本モデルは、プリンシパルによる予算上限設定に続き、エージェントが上限範囲内で、複数の政策分野に予算配分を行う1期間モデルである。基本モデルをさらに、2期にわたって予算が配分される2期間モデル、複数のエージェントを含むモデルに拡張し、完全情報を仮定して分析を行った。 平成27年度は、プリンシパルとエージェントの間に情報の非対称性が存在することを仮定した。エージェントには、1期目に自分の真の選好や、政策の費用を偽り、2期目に大規模な予算を獲得しようとする誘因がある。プリンシパルにも、1期目に自分の真の選好を隠し、あるいは1期目に大きな予算を与えることによって、エージェントに真の選好を明らかにさせようとする誘因がある。このようなプリンシパルとエージェントの意思決定の相互依存が、予算配分、政策のパフォーマンスにどのような影響をもたらすかを検証し、望ましい予算制度の在り方を探るための理論的示唆を得た。 平成26年度の分析結果を”Insufficient Experimentation Because Agents Herd,”平成27年度の分析結果を“Principal-Agent Problems When Principal Allocates a Budget”という論文にまとめ、Keio-IES Discussion Paper Series のディスカッション・ペーパーとして公開した。現在学術雑誌に投稿中である。また、これらの論文をヨーロッパ公共選択学会2015年大会と2016年大会でそれぞれ発表した。“Principal-Agent Problems When Principal Allocates a Budget”については、日本経済学会2016年度春季大会でも発表する予定である。
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Strategy for Future Research Activity |
平成28 年度は、これまでの理論モデル分析の成果を、以下の二つの方向に拡張して、さらに分析を進展させる。 まず、これまでの理論モデル分析から導かれる含意は普遍的なものであり、様々な国の予算編成過程に応用して解釈することが可能であるが、特に、分析の結果導かれる示唆に基づいて、我が国の予算編成の実際を概観し、具体的にどのような制度の修正が望ましいかについて考察する。特に情報の非対称性がもたらす問題への対応に焦点を絞る。我が国の政府支出、財政赤字が拡大し、財政再建の必要性が高まっている折に、分析結果に基づいて、制度設計についての新しい視座を提供することができれば、本研究の意義は大いに高まると考えられる。 次に、エージェントが各期に予算獲得を目指して行うシグナリングの結果、現状維持に見える保守的な政策執行、あるいは革新的な政策実験が観察されることになる。理論モデルの分析結果をより深く検証・解釈し、革新的な政策実験の可能性について考察する。 分析の結果は論文にまとめ、国内外の学会での発表、学術雑誌への投稿を通して、順次公開していく予定である。
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Causes of Carryover |
国外で開催された学会参加のための旅費が、予定していたよりも若干低い金額であったため。
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Expenditure Plan for Carryover Budget |
本課題と関連する公共経済学・政治経済学分野の書籍の購入に充てる予定である。
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Research Products
(6 results)