2016 Fiscal Year Research-status Report
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26380376
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Research Institution | Nihon University |
Principal Investigator |
川出 真清 日本大学, 経済学部, 教授 (00361890)
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Project Period (FY) |
2014-04-01 – 2018-03-31
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Keywords | 財政スタンス / 構造的財政収支 / 財政規律 / マイクロ・シミュレーション / 所得税制 |
Outline of Annual Research Achievements |
本年度は日本の政策態度の足元として重要と考えられる経済状況の把握として、マイクロシミュレーション分析に利用してきた「慶應義塾家計パネル」を、昨年度の検討会で論文報告したことを受けて改定を行い、財務省財務総合政策研究所の機関誌「フィナンシャル・レビュー」で「経済格差と税・社会保障負担に関するマイクロ・シミュレーション」として公刊した。同論文は、個票を用いて、2008年度から2011年度の所得に対して税制及び社会保険制度を適用し、公的負担や可処分所得を所得階層別に集計し、その状況を把握するとともに、2015年度の税制および社会保障制度を適用した場合に公的負担がどう変化するかを評価している。その結果、経年的に低所得世帯の公的負担が高所得世帯に比べて相対的に見て過大になっている点を確認した。それらを改善するために、各所得控除の縮減のインパクトを評価し、所得控除は低所得世帯の公的負担増を是正するには有効だが、所得控除だけでの限界もあることを確認した。なお、同論文を英文翻訳したものを財務総合政策研究所の英文機関誌"Public Policy Review"にて公刊予定であり、執筆自体を完了した上で、校正を進めている。 また、民主主義的な政治決定の際に重要となる価値判断に関して、経済状況との関係を「慶應義塾家計パネル」を用いて分析した論文を「経済状態と価値観に関する研究」として執筆し、日本大学経済科学研究所紀要において公刊予定である。同論文は所得階層別の健康状態や価値判断についてその特徴を調査し、高所得世帯ほど、心身の実感、幸福感を肯定的に捉えている傾向にあること、政治的価値判断では支持政党などは所得階層に大きく影響されないものの、政治的関心は所得階層が高いほど高まること、再分配による効果は所得水準や回答者の属性に比べて、統計的有意性を持つには至らないことが明らかとなった。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
3: Progress in research has been slightly delayed.
Reason
全体的に見れば、個票データによる経済状況の把握、価値観に関する分析が進んでいるものの、構造的財政収支に関する分析が遅れており、研究を集中的に進める必要がある。構造的財政収支については、フレームワークの開発については、過去の公刊された研究成果が存在しており、それらについての課題は、構造的税収の計測についてはほぼ完了しているが、構造的支出については、国際的に一般的に行われているような失業手当等の特定分野に限った支出に弾性値推計を行うことも考えられるが、我が国では諸外国の財政支出の実態と異なる部分が考えられ、建設事業費等との代替も検討する必要がある。しかしながら、その点について十分な検討ができておらず、その検討が必要である。さらに、データの更新についても、まだ行われていないが、それによって、結果が変わる可能性もあるので、それらについても対処する必要がある。
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Strategy for Future Research Activity |
分析について、個票データによる所得状況の把握や価値判断の分析など、特定の分野に偏りが生じており、遅れている部分の分析をすすめる必要がある。具体的には、分析が遅れている構造的財政収支について、都道府県レベルの分析上のフレームワークの再検討を終えた上で、データ更新を行う。そのうえで、そのフレームワークで得られた知見を用いて、国際的な枠組みで、適用を試みる。構造的財政収支から得られる、日本の都道府県内および国際的な傾向を把握した上で、現在進捗している個票データによる評価を、構造的財政収支の議論と結びつける形で、分析フレームワークの改定を行った上で、両者の関係に一定の傾向が見られるかどうかを分析する。なお、現在分析途中の内容でも、ある程度の成果が出ていることから、海外での報告等を通じて、研究成果の紹介と、議論に務める。
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Causes of Carryover |
本年度はサバティカルであったが、海外研究をする機会があり、予算執行できないことも多かった。
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Expenditure Plan for Carryover Budget |
来年度は本研究の最終年度にあたるため、海外における研究報告を中心に予算執行する予定である。
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