2014 Fiscal Year Research-status Report
「誘惑と自制心」モデルにおけるリスク回避行動と最適政策に関する理論的・実証的研究
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26380381
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Research Institution | Doshisha University |
Principal Investigator |
宮澤 和俊 同志社大学, 経済学部, 教授 (00329749)
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Co-Investigator(Kenkyū-buntansha) |
北浦 康嗣 法政大学, 社会学部, 准教授 (90565300)
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Project Period (FY) |
2014-04-01 – 2017-03-31
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Keywords | 現在偏向 / 出生率 / 教育 / 健康投資 / 資本蓄積 / 経済成長 / 最適政策 |
Outline of Annual Research Achievements |
初年度は,出生率と教育投資に焦点を当てた理論研究をおこなった.進捗状況の把握と先行研究の共有のため,研究打合せを4回実施した.また,研究会を10回開催し,関連分野の研究者との意見交換をおこなった.研究成果の一部を国内の学会で2回(ともに日本応用経済学会),国際学会で2回報告した(International Institute of Public Finance, Western Economic Association International). 1. Grandparental Child care, Child Allowances, and Fertility 伝統的な経済学では,児童手当は子どもの価格を下げることにより出生率を引き上げると考えられてきた.しかし,児童手当の財源のための国民負担が大きくなると,子育てに必要な別の投入要素が減り,逆に出生率を下げる可能性がある.本研究では,子育てにおける祖父母の協力の重要性に着目して,児童手当の政策効果を分析した.祖父母の協力が子育ての重要な要素である場合,児童手当の導入は可処分所得を減らし,出生率を下げることが示された. 2. Child Labor, Fertility, and Income Inequality 途上国の貧困の罠の原因の1つに児童労働がある.児童労働は短期的には家計所得を増やすが,教育投資の不足により長期的な所得水準は停滞する.こうした状況を改善するため,一部の国では「条件つき現金給付」という政策が導入されている.本研究では,この政策の出生率,教育,所得格差に対する効果を分析した.長期的には出生率が低下するとともに1人あたり教育水準が上昇する一方,初期条件の違いにより短期的には所得格差が拡大することが示された.この結果は,政策が有効に実施されるためには,政策への長期的なコミットメントが必要であることを示唆している.
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
申請時の初年度の研究計画は,個人の若年期のリスク回避行動のうち出生,教育,健康投資の3つに焦点を当てた理論分析の基礎を確立することであった.出生と教育についてはおおむね計画通りに研究を進めることができた.また,研究計画では3年目におこなう予定であった政策評価について,初年度から児童手当と条件つき現金給付について一定の結果を出すことができた. 他方,健康投資のモデル化についてはアイディアの域を出ておらず,早急に研究を進める必要がある.また,現在偏向的な選好の経済効果については,シミュレーション分析による定性的な予想はできるものの,解析的に厳密な分析は完了していない.この点に関しては,基礎となる経済モデルの改良作業が必要である.
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Strategy for Future Research Activity |
初年度と同様,定期的に研究打合せをし,進捗状況の把握と先行研究の共有に努める. 研究会を10回程度開催し,関連分野の研究者との意見交換をおこなう. 国際学会で研究成果を報告する(現時点で2件受理.Western Economic Association International, International Institute of Public Finance). 研究成果を逐次,代表者が所属する研究センターのディスカッションペーパーとして発表し,改訂作業後,海外の専門誌に投稿する. 研究内容は当初の計画通りである.具体的には,宮澤が関連産業への波及効果と最適課税ルールについて並行して研究を進める.北浦は熟練-未熟練の二重労働市場での経済効果を研究する.
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