2014 Fiscal Year Research-status Report
Project/Area Number |
26380398
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Research Institution | International Christian University |
Principal Investigator |
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Project Period (FY) |
2014-04-01 – 2017-03-31
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Keywords | 合併 / イベントスタディー法 / 銀行 / 銀行と企業の関係 |
Outline of Annual Research Achievements |
当初初年度に予定していた銀行合併の動機と長期のパフォーマンスへの影響の分析は取りやめ、銀行合併の銀行自体の株価(Abnormal Return)への影響と倒産(デフォルト)までの時間への影響の分析を行った。既存の研究から、株価の分析にはまだまだ分析する余地が多くあること、また倒産までの時間の分析は既存研究が少なく、研究する余地が多く残っていることが分かったためである。また株価と倒産までの時間の分析を合わせて、市場の評価ミスを分析することができるためである。 分析するために、(1)合併のアナウンスメント・データ(2)銀行の財務データ(3)株価データを集めて整理し、イベントスタディー法とduration analysisを用いた。分析の結果、銀行合併のアナウンスメント前後1週間で、合併行のabnormal return は統計的に有意に上昇することが分かった。一方、非合併行のabnormal returnの上昇は見られなかった。ただし株価の分析結果と異なり、倒産までの時間は合併行の場合短くなり、非合併行の場合長くなることが分かった。この結果は市場の評価ミスを示唆しており、今後より深く分析する必要がある。 また、銀行や合併の特徴によって合併が株価や倒産までの時間に与える影響が異なることも分かった。たとえば資産規模80兆円を超える「メガ合併」の場合、abnormal returnの上昇が大きいことが分かった。また、資本比率の低い銀行のabnormal returnが合併によって上昇することも分かった。ただし、資本比率の低い銀行は倒産までの時間が短くなることも分かった。この点も市場の評価ミスを示唆しており、より深く分析すべき点である。 次年度への準備として、次年度の研究計画に必要な(1)銀行の顧客企業の財務データ(2)銀行の顧客企業の株価データと(3)銀行の顧客企業とメインバンク(主要取引銀行)のmatchingデータを集め、すぐに分析に使えるように整理した。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
上述の通り、当初の計画を変更し、銀行の合併の動機と長期のパフォーマンスへの影響の代わりに銀行合併の銀行自体の株価(Abnormal Return)への影響と倒産(デフォルト)までの時間への影響の分析を行った。 計画の変更の理由の1つは、銀行合併の銀行自体の株価(Abnormal Return)への影響の分析の既存研究は当初考えていたよりも少なく、銀行合併の効果を考える上でまだ多くの実証分析が必要であることが分かったためである。具体的には銀行や合併の特徴による株価への影響にはまだまだ分析する余地があった。また、銀行合併は合併行のみでなく、銀行セクター全体に影響を与える可能性があるため、合併行のみでなく、非合併行も合わせて分析する必要があると考えた。そして、最近の研究で株価の分析にはclusteringの問題(異なる銀行や企業のabnormal returnが相関し、標準誤差が過小推定される問題)があることが指摘されており、この問題に対処する推定法を考える必要もあった。 また、倒産までの時間の推定に新しい手法を使う余地があったことも計画変更の理由の1つである。たとえばHarada and Ito (2011) やVeronesi and Zingales (2010)がMertonモデルを用いて倒産までの時間を推定している。本研究は医学の分野などで用いられてきたsurvival analysisを用いての推定を試みた。 3つめの計画変更の理由は、銀行合併の株価への影響と倒産までの時間への影響を合わせて市場の評価ミスを分析できることである。市場の評価ミスはBouwman et al. (2009)が短期と長期の株価への影響の違いをもとに分析しているが、本研究は長期の株価の代わりに倒産までの時間を用いた。市場の評価ミスの既存研究は少なく、銀行合併の際の市場の評価ミスの既存研究はほとんどない。よってこの点の分析が銀行合併を考える上で重要だと考えた。
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Strategy for Future Research Activity |
当初は、次年度以降に銀行合併が顧客企業への貸し付けに与える影響のみを分析する予定であったが、それに加えて(1)銀行合併の銀行の顧客企業の株価と(2)倒産までの時間への影響、そして(3)銀行合併の銀行と顧客企業の関係への影響を分析する。 平成27年度は銀行合併の銀行の顧客企業の株価と倒産までの時間への影響の分析を行う。銀行合併の影響を顧客企業の側から分析することで、銀行合併の株価と倒産までの時間への影響の全体像をつかむことが目的である。市場の評価ミスの分析も行う予定である。銀行側の分析と同じくイベントスタディー法とduration analysisを用いる。またclusteringの問題にも対処する。また銀行、顧客企業、合併の特徴によって影響がどう違うかも分析する。たとえば、いわゆるゾンビ企業への影響はどうかなどである。ゾンビ企業の問題はCaballero et al. (2008) やPeek and Rosengren (2005)、そしてPeek (2010)が指摘している。本研究は銀行合併、株価や倒産までの時間の分析からこの問題に光を当てる。 本年度の研究実績の概要に述べた通り、この分析に必要なデータはすでに集めており、また分析に使えるように整理してある。銀行の顧客企業とメインバンク(主要取引銀行)のmatchingデータは入手が難しく、この点に関する既存研究は少ないため、本研究は既存研究への貢献が大きいと考えている。また平成27年度に株価と倒産までの時間の分析を行うことで、平成28年度の分析の意義をより明確にすることができる。 平成28年度はなぜ銀行合併が銀行の顧客企業の株価や倒産までの時間へ影響を与えるのかを分析する。具体的には、銀行合併が顧客企業への貸し付けに与える影響と、銀行合併の銀行と顧客企業の関係への影響を分析する。株価と倒産までの時間の分析と同じく、銀行、顧客企業、合併の特徴による影響の違いも分析する。
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Causes of Carryover |
データの購入:初年度中に非上場企業のデータを購入予定だったが、当初の研究計画を変更したためまだ購入していない。
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Expenditure Plan for Carryover Budget |
初年度に計画していた通り、データの購入を行う。
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