2014 Fiscal Year Research-status Report
大災害のリスクファイナンス 資本市場を通じた大災害リスクの測定と管理
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26380406
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Research Institution | Waseda University |
Principal Investigator |
森平 爽一郎 早稲田大学, 商学学術院, 教授 (50082871)
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Project Period (FY) |
2014-04-01 – 2017-03-31
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Keywords | 大災害 / リスク / カルマンフィルター / 大災害債券 / オプション価格 / リスク回避度 / インプライド確率密度関数 / ベータ |
Outline of Annual Research Achievements |
研究計画調書でのべた2015年度の研究内容に関しては、次のような研究をおこない、その進捗をみた。
(1)「大災害債券の発行データを収集」。当初の計画通り、2011年までのデータに加え、2014年第4四半期までの新規発行の大災害債券の発行利回りや格付等のデータの収集をおこなった。また発行利回りの分析を非完備市場価格決定モデルであるWang変換を用いて行い、実績利回りを説明かつ予測と投資家のリスクプレミアム推定が可能であるモデルの開発を行った。近年の世界的な大災害リスクの頻発による再保険価格の上昇と大災害債券の発行額の増加にともない、市場に明らかな変化が生じていることがわかった。 (2)「オプション・先物価格から投資家の予想と危険回避度を推定」。東日本大震災前後の日経平均現物とオプション価格の日次データともう一つの非完備市場価格決定モデルであるEsscher変換を用いて、投資家が予想するインプライド確率を、日次データを用いた限定的な推定結果ではあるが、オプション市場は少なくとも1日前から大震災と予見していた可能性があることがわかった. (3)「新しいイベント研究の方法論の考察」。カルマンフィルターと個別企業の株価データを用い、動的かつ不確実に変化する企業のシステマティックおよび非システマティックリスクを同時に推定できるモデルを開発した。モデルは状態変数であるベータリスクに関し線形であるが、固定パラメータに関しては非線形であり、初期値問題を克服することが重要であったが、シミュレーション方法を考案しこの問題に対処した。こうした試みにより大災害の発生前後に企業のリスクの変化を可視化できると共に、統計的に厳密な検証を行うことが可能になった。日本の電力企業とガス会社の株式投資収益率データを用いた実証分析を行い、地震よりもそれにより引き起こされた原発事故の影響が大きいことがわかった。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
研究計画調書でのべた2015年度の研究内容に関しては、概ね当初の計画とおりの進行、部分的にはそれ以上の進捗をみた。
(1)「大災害債券の発行データを収集」 新規発行の大災害債券の利回りや格付け、大災害生起確率などのデータについての入手とそのデータベース化をおこない当初の目的を達成することができたが、既発行の大災害債券についての過去の市場価格や利回りなどのデータについては、企業秘密であり、入手が困難であった。この点をどう克服するかが今後の課題である。しかし、新規発行債券のデータによる分析であっても、27年度の予定であった分析を一部前倒しておこない概ね大災害債券パズルを投資家のリスク回避度の大小によって説明できることを示した。 (2)「オプション・先物価格から投資家の予想と危険回避度を推定」。日次データによる分析結果をおこない、日経平均オプション価格は、東日本大震災を少なくとも1日前には予測していたのではないかとう非常に興味ある結果を得た。この点に関し多くの研究者からより詳細な分析を行うことが必要であるとのコメントを得た。 (3)「新しいイベント研究の方法論の考察」。カルマンフィルターを用いイベント研究に新しい方法論を提供することができた。これは大災害研究だけでなく、どのようなイベント研究に対しても適用可能な研究方法であり、その点については既存研究のサーベーを含め別途論文としてまとめる予定である。平生26年度では方法論だけの検証を行うはずであったが、更に進んで、本来は27年度に実施予定であった電力会社を対象とする分析をおこない、こうした新しい方法が大災害リスクの分析にあたっても極めて有効であることを示すことができた。
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Strategy for Future Research Activity |
平成26年度の研究も概ね順調に進捗をし、一部については、27年度の計画を前倒しで実行できたが、27年度の新規の研究に加えて更に次のような点について検討を試みるつもりである。
(1)「大災害債券の分析」。最尤法に基づきWang変換の推定方法を改善する。また、大災害債券の格付けがどのように行われているかを、プライシングモデルの改善と並行して行う。 (2)「オプション・先物価格から投資家の予想と危険回避度を推定」。平成26年度の実証分析では、日次データとEsscher変換を用いた分析を行ったが、これを、Intradayあるいはかのうであれば、Ticデータを用い、さらにEsscher変換を特別な場合としてふくむより広い価格決定モデルであるSDF(確率割引関数)アプローチにもとづく分析に拡張をおこないたい。これにより「オプション市場は少なくとも1日前から大震災と予見していた可能性」をより厳密に検証できるともに、東日本大震災が発生した2011年3月11日以前の地震頻度データと組み合わせ、なぜオプション市場が震災を予測できたのかを明らかにしたい。 (3)「カルマンフィルターにもとづく大災害リスクが及ぼす企業のリスク変化」。平成26年では方法論の研究に加え、前倒しで、電力企業を対象にする分析をおこなった。平成27年度では大震災後売り上げの増加を見た企業をとりだして、そのリスクがどのような変化を見せたかを分析する。そうした産業として保険会社と建設会社の株価を用いた分析をおこなう。また、カルマンフィルターに加え、多変量GARCHを用い同様な分析が可能であるかどうかの検討を行う。
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Causes of Carryover |
平成26年度では、学会発表が国内、特に関東エリアに限られていたことにより、国内旅費支出は私費でおこなった。またデータ収集は、データの精査が必要であるため自分で行ったため人件費の支出を行う必要がなかった。
また理論研究に必要は文献としては、すでに他の委託研究費や個人研究費で用いたものによったため、新たな支出を行わなかった。
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Expenditure Plan for Carryover Budget |
27年度は、特殊な研究として、幕末における安政の大地震等の影響を調べるために、特殊な古文書の複写とデータの収集とそのデータベース化を行う予定であり、そのための特別な機器の購入と人件費の支出を予定している。
また海外(ドイツ)での国際学会の発表を予定しており、そのための支出をおこなう。
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