2016 Fiscal Year Research-status Report
低所得者への食料支援におけるアメリカ農務省の役割に関する社会経済史研究
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26380418
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Research Institution | University of Tsukuba |
Principal Investigator |
佐藤 千登勢 筑波大学, 人文社会系, 教授 (70309863)
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Project Period (FY) |
2014-04-01 – 2018-03-31
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Keywords | 社会保障 / 社会福祉 / 食糧支援 |
Outline of Annual Research Achievements |
本研究は、アメリカ合衆国(以下、アメリカ)における社会保障・社会福祉制度の発展において、経済的な困窮者に対する食糧支援がどのように行なわれてきたのかという問題を社会経済史的に考察することを目的としている。今年度は、主に1980年代以降の社会福祉制度の再編を取り上げ、フードスタンプを中心とした食糧支援に焦点を当てながら研究を進めた。 まず、アメリカでは1981年に始まったレーガン政権の下で、財政赤字の削減という大義の下で社会福祉改革が始められた。削減の最大のターゲットはAFDC(要扶養児童家族支援)であったが、フードスタンプをはじめとする食糧支援も、AFDCに次いで低所得者の就労意欲を削ぎ、福祉への依存を助長しているプログラムとして大幅な削減の対象とされた。本年度の研究では、レーガン政権による社会福祉改革の基本的な考え方を、当時の政権の資料や連邦議会の議事録などを中心に考察し、低所得者への食糧支援がどのように捉えられていたのかを明らかにした。 そこから明らかになってのは、フードスタンプが連邦政府が主導する社会福祉プログラムであったため、州の役割が大きいAFDCと比べると、削減への着手が比較的容易だったという点である。そうしたことから、政権の強い意気込みにもかかわらず、実態面ではAFDCの受給者数や総給付額が、それほど減らなかったのに対し、フードスタンプはレーガン政権下での福祉改革で、ある程度の削減が実現した。 しかし、その一方で、経済的な困窮者への食糧支援を、現行の社会福祉制度の中にどのように位置づけていくのかをめぐり、レーガン政権は明確なビジョンを持たなかったため、連邦政府の主導の下でのフードスタンプ改革には限界が見られた。そうした状況は、1990年代に入り、クリントン政権の下で再び福祉改革が始動するまで続くことになった。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
3: Progress in research has been slightly delayed.
Reason
今年度は主にレーガン政権下で進められた福祉改革の内実と結果に焦点を当てて、いわゆる新保守主義的なイデオロギーとの関連で、フードスタンプをめぐる政策がどのように変化していったのかを追うことに多くの時間を割いた。だが、農務省が管轄しているフードスタンプ制度が、連邦政府の財政政策の中で、どのように捉えられていたのかという、より大きな視点からの考察については、まだ十分に研究が進んでいない。この点に関しては今後、より長期的な観点から把握するように努めていく必要があると感じている。 研究が当初の予定より若干遅れている理由としては、この研究を始めた当初予想していたよりも、農務省のフードスタンプに関する資料が少ないことと、入手可能な資料の閲覧が予定よりも進んでいないことがあげられる。最終年度は農務省関連の資料をさらに詳しく見ていかなければならないと考えている。 これまで、1990年代後半にクリントン政権の下で進められた福祉改革については、AFDCを中心に政策の転換とその影響を研究し、論文や書籍を発表してきた。そうしたこれまでの自分の研究をもとに、1990年代以降、低所得者への食糧支援がどのように変わったのか、フードスタンプに焦点を当てて考察を進めていきたい。
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Strategy for Future Research Activity |
今後は1990年代とそれ以降に時代を移し、福祉改革の潮流の中で経済的な困窮者に対する食糧支援がどのように進められていったのかを考察していきたい。特にフードスタンプ制度の新たな方向性として、どのような提言がなされているのかという問題について、さまざまなシンクタンクや研究所が行っている実証的な調査や分析を参照しながら研究を進めていきたい。 さらに、低所得者への食糧支援という政策に、栄養学の知識が応用されて栄養指導が行われ、健康的な生活をサポートするという立場が強調され出したのが、この時期であるので、そうした新しい側面にも目を向けていきたい。福祉改革をめぐる政治という枠組みの中で、民間団体が低所得者を対象とした食糧支援を目的に行っている活動にも着目して、多角的に分析していきたい。最終年度は全体の成果をまとめ、論文を執筆していく予定である。
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Research Products
(2 results)