2015 Fiscal Year Research-status Report
現代イギリス労働市場における国外出身労働者への継続的な依存と移民第二世代の成長
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26380433
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Research Institution | Nagoya City University |
Principal Investigator |
奥田 伸子 名古屋市立大学, 人文社会系研究科, 教授 (00192675)
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Project Period (FY) |
2014-04-01 – 2018-03-31
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Keywords | イギリス労働市場 / 外国人労働者 / 分断労働市場 / 経路依存性 / ヨーロッパ経済共同体(EC) |
Outline of Annual Research Achievements |
27年度は1970年代から80年代のイギリスにおける外国生まれ労働者を中心に研究を行った. イギリス移民史研究において,新英連邦からの移民は多大な研究蓄積が存在するが,彼らに対する政策は労働力の需給とは無関係に決定されたと言うのが通説となっている.一方,労働力の確保のみを目的とした労働許可書による外国人(英連邦市民以外)移民およびEC(EU)内の労働者の移動がイギリス労働市場に与えた影響については,近年まで十分に研究されてきたとはいえない.また,近年の研究はEUの東方拡大によるイギリスへの東欧からの移民の増大を念頭においた研究であり,研究の出発点を1990年代(多くは90年代後半)とするのが一般的である.時代的には異なるものの,現代の移民を対象とした研究は,「分断された労働市場(segmented labour Markets)」,「(移民労働者の雇用における)経路依存性(path dependence)」といった1970,80年代を分析するための重要な概念を提供している. 27年度は研究史の整理を行い概念を整理した.また,UK Data Serviceから電子媒体として利用可能な労働力調査の個別データを利用し,1975,79,83,87,91年のイギリス労働市場における外国生まれ労働者の状況の把握を行った.1970年代以降,労働許可証の発行が急速に縮小し,労働許可を得られるのは金融関係者など経済へのプラスが大きい職種に限られたとされているが,分析を行った期間を通して,労働市場における外国生まれ労働者の比率は男女を問わず,7%前後を維持していた.発行された労働許可証数の急速な減少は国内の外国生まれ労働者数の減少にはつながらなかった.この理由について,現在のところ,1980年代のEUの南欧への拡大が最大の理由とい仮設をたているが,労働市場に与えた影響をさらに検討する必要がある.
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
3: Progress in research has been slightly delayed.
Reason
「やや遅れている」」としたのは,当初研究計画において27年度に予定していた,資料収集と招聘予定研究者との面会のための国外出張(28年2月に予定)を家族の急病のために,出発直前にキャセルをせざるをえなくなったという理由による.そのために,イギリスにおける資料収集が必要な研究にかわって,電子媒体で提供されるデータの分析を先に進めることとした.研究計画上の変更ではあるが,このことによって移民第2世代に関する研究を相対化することが可能となった.これまで27年度に予定していた研究をさらに深化させる意義があると考える. 招聘予定研究者とはE-mailによって連絡が取れており,招聘の時期を29年秋とすることで同意した.招聘計画のうち国内で行う準備については順調に進んでおり,27年度には研究会の開催についての国内研究者との協力関係の構築を行った.
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Strategy for Future Research Activity |
28年度は,以下の2つを推進する予定である.第1は研究課題にかかわる個人研究を一層進展させることであり,第2は招聘計画の具体化である. 研究課題にかかわる研究の推進については27年度行った,労働力調査の分析をまとめ,早期に論文として発表する.なお,上記にあげた5ヵ年の分析はほぼ終了しているが,外国生まれ労働者に限った分析を行うためには単年度のデータはサンプル数が小さいという問題がある.今年度はこの問題への対応を行う.昨年度延期せざるを得なかった国外調査を今年度行い,労働市場における移民第2世の成長について研究を進展させることも今年度の研究課題である. 招聘についてはイースト・アングリア・ラスキン大学のブロンワェン・ウィルタ名誉教授と28年度秋の来日で合意ができている.来日の際には名古屋で移民第2世代にかんする研究集会(ウィルタ名誉教授がアイルランド移民第2世代の研究成果を多くあげているので),東京で他の研究者集団と共同で「ディアスポラ」をキーワードに研究会を行うことで合意している.28年度は,これらの研究会の具体的な日程,研究会のコンセプト,報告者を決定することを本年度の目標とする.
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Causes of Carryover |
研究初年次より,最終年度の招聘およびそれに伴う研究集会に十分な予算をつけることが可能なように計画をしている,27年度において次年度使用額が非常に多くなったのは,28年2月に予定していた国外における資料収集(約2週間で,37万円を計上)を家族の急病のために中止せざるを得なかったためである.それ以外の支出については概ね計画通りに進んでいる.物品費が当初予定よりもやや多くなっているのは,洋書の価格の上昇による.
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Expenditure Plan for Carryover Budget |
28年度は,27年度にできなかった国外出張を予定しているので,27年度の残額はそれに充当することを予定している.28年度の助成金は本年度予定している研究および29年度の招聘計画のための国内研究者との打ち合わせのための国内旅行に利用する.それゆえ,28年度の助成金は,国外出張(40万円を予定)および,国内旅行(10万円),物品費(書籍を中心に5万)を予定している. ただし,29年度の招聘のための国外旅費(招聘研究者の旅費)を確保するために,28年度の助成金の一部を29年度に使用することを予定している(研究当初からの計画).
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