2014 Fiscal Year Research-status Report
役員報酬と企業不祥事抑止に関する実証研究-日米英の比較-
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26380466
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Research Institution | Saga University |
Principal Investigator |
三好 祐輔 佐賀大学, 経済学部, 准教授 (80372598)
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Project Period (FY) |
2014-04-01 – 2018-03-31
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Keywords | 法と経済学 / 総量規制 / ファイナンス / 企業不祥事 |
Outline of Annual Research Achievements |
本年度の成果は、「破壊しない金利を求めて─利息制限法等の上限金利の見直しを考える─」99号の2014年で発表をした。その内容は、熊本県及び大分県の貸金業者を利用した人を対象に、回収できた有効なアンケート調査結果 (個票データ)を用い、消費者金融から借入れをする個人の特徴を明らかにすることを目的としたものであった。個人の属性に関する因子分析に留まらず、企業のマネジメントの観点から企業組織としてなすべきことについても考察を行った。これまで消費者金融から借入れる個人の行動分析については行動ファイナンス等でいくつか研究が行われているが、違法な貸出しを行ってきた企業に目を向けられることはあっても、業務に携わった個人に注目している研究はほとんど行われてこなかった。 違法な貸出しであれば個人の責任で済まず、所属組織の責任も問われかねない。そのように考えると、違法な貸出しを行った個人だけの問題でなく、そのような不正行動をとる個人の存在が企業にとってはリスクの1つと考えることができる。もっとも、組織としての活動が引き起こす不祥事とはどのような特徴を備えているのかについても考えなくてはならない。こうしたアプローチを進めるにあたり、利害関係者に信頼される企業を目指すためにはコンプライアンスを基礎にした企業倫理の確立が不可欠であると唱える星野(2003)、不正行動の原因は個人の意識だけでなく、その個人が直面している環境からも大きな影響を受けていると主張する竹村(2011)等が参考になる。次年度以降、企業の正社員・非正規社員への質問表の作成をし、組織不正をどのように分析するのか研究打ち合わせを行ってゆく。さらに、インターネットアンケート調査によって収集した個票データを用い、不正行為を行った個人を対象とするだけでなく、一般労働者への不祥事への意識調査分析を行う予定である。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
研究計画の初年度において、今年度公表したシュミレーションの結果を踏まえれば、不祥事を行ったことのある組織(企業)から、一般労働者(個人)に対象を移行するという方針転換をせざるを得ない結果となった。そのため、次年度以降は不祥事に対する個人、特に労働者の意識調査に関するデータ整備のための質問作りに時間を割くことになりそうである。 初年度の貸金業者を利用した人を対象にアンケート調査結果を用いたシミュレーションの結果によると、貸金業者は貸出約定金利が市場均衡水準になるまでは貸出額を増加させるが、それを超える水準になると貸倒れリスクを考慮して徐々に貸出額を減らす傾向になる。その結果、法令で定める上限金利を超えて貸し出す不正行為は、大口の顧客ではなくむしろ個人消費者向けの貸出し業務に顕在化する可能性は高いことが予想される。 つまり、小口の貸出しを主とする業者ほど貸出金利が高くなる傾向にあり、貸出しの際に法定利息以上の金利で貸出そうとする違法行為への誘因が十分に働く。こうした金利の決定要因を供給サイドの企業の財務諸表の分析に着目するだけでは不十分で、むしろ企業の組織構成員の属性にも左右されている。したがって、不祥事の実態を知るためには企業の公表している有価証券報告書等の開示資料では伺うことのできない現場で働く労働者の意識と強く相関している。また不正の温床となる職場環境等にも大きく影響を受けていることが十分に予想される。 ただし、数万人もの一般労働者を対象にしたアンケート結果を用いる研究は、申請者には未経験の領域でもある。しかし、共同研究者からサポートしてもらえる機会に恵まれ、一般労働者の不正に関する意識調査および行動を把握することに重点をおいた研究を進める環境が、来年度までには整う目処がたった。その甲斐もあり、次年度以降にアンケート調査を行うといった研究の流れを一応形成するに至っている。
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Strategy for Future Research Activity |
上記の研究を進めるにあたり、これまで申請者が専門としていたファイナンス分野以外の専門領域からのアプローチが必要不可欠になっている。たとえば、企業不祥事について、J. Reason(1997)は、「仕事の内容が、高度化・複雑化している現代、一定の頻度で過誤が起きてしまうことは避けられない。また、実際に事故につながる「穴(過誤)」は一つではなく複数個ある。いくつかの「穴」は個人の行動によるものかもしれないが、他の「穴」は気づかない現場の状況によるものであると組織の仕組みそのものに原因がある」と指摘している。こうした海外の先行研究の成果を反映するように研究を進めてゆくならば、組織文化、組織風土といった観点から説明するという分析の切り口の習得も必要不可欠になるであろう。 次年度以降は、インタネット会社に依頼できる段階まで質問内容を詰めて整理し、項目等を整備することに専念するつもりであるが、その際、企業の不正行動がどのような要因に直接的・間接的に影響を受けているかなどについて因子分析を行い、そこから不正を防止・抑止するために組織がとるべき効果的な施策について考察を行う方向に話を詰めてゆく予定である。具体的には、法知識の欠如、組織の不正容認風土、個人のコンプライアンス意識との間に相関があることを考慮にいれ、多重クラス構造や複数の構成概念間の関係を検討する構造方程式モデルによる分析をする予定である。ただし、こうした分析を行う際、モデルの構築はもちろん、推定結果の間接効果および総合効果についての解釈についても十分に注意を払う必要がある。そのため、海外の関連する異分野の先行研究を適宜参照しながら、今後は共同研究者との意見交換を進め、論文作成のための打ち合わせを月2回ほど行うことで合意できている。
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Causes of Carryover |
今年度の研究成果は、前回の科研(2011-2013)の時に用いた数千人を対象としたアンケートデータを用いているので、アンケート調査を実施する際にかかる諸費用は直接はかかっていない。しかし、今年度の研究成果が普遍性を持つことを示すには、不祥事企業を対象とするだけではセレクション・バイアスの問題が発生するため、アンケートの対象を一般労働者にまで広げる必要がある。次年度以降は、アンケート調査にかかる直接的費用だけでなく、質問項目の作成のための打ち合わせに関わる出張旅費、データベースの構築及び計算ソフトの購入及び先行研究に関する文献複写等の費用がさらに生じる。そのため、今年の財源を来年度の予算に振り分けることにより、次年度以降の大規模な労働者2万人を対象としたアンケート調査に向け、今年度と次年度以降の研究費の双方を合わすことで、最低限の予算を確保することが可能になる。
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Expenditure Plan for Carryover Budget |
アンケート調査を実施するにあたり、インターネット業者macromill等の数社から見積もりを取る予定である。ただし、共同研究者の一人から現在の研究課題を進めるためのアンケートの質問項目を実施するには最低金額でも見積もりは200万円超えになると指摘されている。単年度(来年度)の研究費ではもちろん支払いができず、今年度の研究費を加算しても十分とはいえない。そこでまず、予定では30項目あった質問項目を20以下に減らす作業をしなければならないが、質問の内容から読み取れる情報が大幅に減らないように工夫しなければならない。次年度以降、ネット業者と価格交渉を粘り強く行いながら、共同研究者との打ち合わせ、研究会への出席、アンケート回収から電子データに移行する作業(打ち込み等)のための研究補助費用、論文作成のためのデータベースの管理、参考文献の複写等の諸費用が発生するため、これらに財源を使用する予定である。
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Research Products
(1 results)