2015 Fiscal Year Research-status Report
役員報酬と企業不祥事抑止に関する実証研究-日米英の比較-
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26380466
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Research Institution | Kagawa University |
Principal Investigator |
三好 祐輔 香川大学, その他の研究科, 准教授 (80372598)
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Project Period (FY) |
2014-04-01 – 2018-03-31
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Keywords | 不祥事 / 情報漏洩 / コンプライアンス / 逆選択 |
Outline of Annual Research Achievements |
本年度の研究成果は、まず、査読付の雑誌である『情報処理学会論文誌』第56巻12号において、2015年12月で「情報漏えいにつながる行動に関する実証分析」という題で発表したことである。その内容は、情報セキュリティの観点から問題となる行動の中でも情報漏えいにつながる個人の行動に着目し、その行動がどのような要因に直接的・間接的に影響を受けているかなどについて分析を行い、そこからこの種の行動を防止・抑止するために組織がとるべき効果的な施策について考察を行った。分析結果から、情報漏えいにつながる行動をとらせないようにするためには、不祥事容認風土を改善することが最も大きな効果があること、またコンプライアンス意識の向上は直接的な効果はそれほど大きくないものの、様々な要因を介した間接的な効果を踏まえた総合効果は不正容認風土の改善に次ぐ効果があることが示唆された。さらに、不正容認風土に影響を与える要因としてコンプライアンス意識および従業員満足度の向上があることから、職場環境の改善とともに従業員満足度の向上策の実施やコンプライアンス教育の実施がより大きな効果を生む可能性があることがわかった。 また、前年度の消費者金融からの借入れをした人を対象としたアンケート分析の結果を踏まえ、消費者金融会社の有価証券報告書を用い、企業の不祥事の背景に焦点を当てた研究成果を『経済論叢』第88巻4号で発表した。その内容は、都道府県データに基づき、消費者金融市場において、実際に逆選択の問題があったのかどうか、市場の失敗が起こっているのかどうかを検証したものである。計量分析した結果から、情報の非対称性に伴う逆選択の問題が発生している可能性が高いことが示唆された。さらに、消費者金融市場は競争的市場に近く、業者による過少貸出しが原因で自己破産を促進している可能性は低いといえることがわかった。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
今年度は、「労働者の情報セキュリティ意識および行動に関する調査」と題したインターネットアンケート調査によって収集した個票データを用いて分析を行った。具体的には、モニターパネル(ポータルサイトやアフィリエイトプログラムを通じてアンケートに協力してくれる回答者)などを利用し彼らの情報を基にサンプリングを行ってアンケートを実施した。調査対象者は2年以上同一の企業で働いており、日常業務でパソコンや電子メールなどを利用している一般的な労働者である。そのため、まず調査対象者であるかを調べるための事前調査を約2万人に対して実施し、その中から条件を満たす1500人を抽出し、本調査に回答してもらうという2段階の方式を採用した。また、オーバーサンプリングや、計測している回答時間から一般的な回答者と比べて回答時間が早い者を不良回答者として取り扱いサンプルから外すなどの手続きを踏み、1507人の有効回答数を得た。こうした一連の手間隙をかけて作成したアンケートデータを元に論文を作成し、学会の査読付雑誌に研究成果を公表することができた。 また、上記の論文と平行して進めてきた研究は、不祥事が起こっている企業を対象とし、不祥事が起こっている背景(競争的市場か寡占的市場か)に焦点を当てた論文を公表することができた。前年度のアンケート結果を元に推計した研究成果を踏まえて論じるならば、個人消費者向けの貸出額を減らす傾向にあるのは、需要サイドに原因があると解釈することができる。ただし、消費者金融市場において市場の失敗が実際に起こっていることを論じるのであれば、供給サイドの側面についても注意を払い、市場メカニズムが働いていない要因についても考察する必要もある。それゆえ、次年度以降は、消費者金融の資金繰りの程度を測る指標、資金調達構造に関するメカニズムを包含した貸出供給関数を推計する予定である。
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Strategy for Future Research Activity |
次年度以降は、以下のような計画を考えている。まず、情報漏えいに関する研究については、今年の研究成果を敷衍する方向で研究を進めてゆくことを検討している。具体的には、不正容認風土に影響を与える要因、たとえば、コンプライアンス意識および従業員満足度の向上等に着目し、他の企業不祥事の事象についても構造方程式モデリングによって分析・検証を行う予定である。今年用いたアンケート調査には情報漏えいにつながる行動の他にも、情報セキュリティの観点から問題となる行動(著作権侵害、業務と関係ないインターネット利用など)に関する質問項目がある。これらの事象ごとにその構造が同じなのか、あるいは異なるのかを明らかにしたい。また、不正容認風土と組織規模(従業員数)について今年度の分析では考慮していなかったが、これらの関係についても分析を行なう。そして、これまで継続的に実施されてきた調査結果を用い、今年に掲載された研究論文で扱ったモデルの頑健性の検証を行う予定である。 また、消費者金融に関する研究については、次年度では、銀行の傘下に入って以降、消費者金融の資金調達構造に関する研究を進めてゆく予定である。今年度の研究結果(消費者金融市場においては価格メカニズムが働いていない可能性が高い)を踏まえ、消費者金融の貸出行動関数を推計することを考えている。ただし、銀行と異なり、消費者金融市場は、金利規制が大きく貸出行動に影響を与えている可能性がある。そのため、従来の研究では着目されていなかった資金調達に関する側面からも考察を進めてゆく予定である。ただし、企業の資金調達に関する議論と金融機関の資金調達行動に関する議論は異なるため、両者に共通する因子を抽出し、先行研究の仮説と整合性を持たせる必要がある。以上のように、資金調達行動にも注意を払い、消費者金融の貸出行動が市場に与える影響についての研究を進めて行く予定である。
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Causes of Carryover |
今年度は、大学に転職した一年目であり、研究と学内業務のスケジュールとの折り合いがつかず、一週間以上大学を離れることができないなど、時間配分の自由度がほとんどなかった。次年度は、講義の時間や学内業務の日程が予め知ることができるため、時間を作って海外に行き、ヒアリング活動や研究会に参加することで、今年できなかった研究活動を行う予定である。 具体的には、以下の作業を次年度は遂行する。アンケートデータや統計資料を用いて計量分析結果を解釈する際、日本に特有の現象と解釈するのであれば、海外の先行研究と比較検証する必要がある。しかし、各国で行われている調査の連携がほとんど取れていないため、現状では国際比較は遅れている。そのため、2013年にWEIS(Workshop on the Economics of Information Security)に参加していた海外の研究者と共同研究の準備を進めてゆく。
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Expenditure Plan for Carryover Budget |
今年度は、企業の不祥事、特に情報漏えい問題に焦点を当て、情報セキュリティ対策として、ルールの策定・整備の実態ならびに意識調査に関するヒアリングを主に行った。これは、次年度において実施する予定のアンケート調査のため、モデリングを構築する際に必要となる、①情報セキュリティ対策の観点から問題となる行動に影響を与える要因、②情報セキュリティポリシーの遵守に影響を与える要因、③情報セキュリティポリシー違反に影響を与える要因等を探索するのが目的である。今後は、組織論の分野で扱われている「個人の意識・感情」と「人間関係も含む個人を取り巻く環境」にも注意を払い(ただし、これらは組織文化(organizational culture)とは厳密には異なる概念である)、従業員意識に関するヒアリングを進めつつ、アンケート調査のための準備を進め、実施してゆく予定である。
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Research Products
(3 results)