2016 Fiscal Year Research-status Report
役員報酬と企業不祥事抑止に関する実証研究-日米英の比較-
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26380466
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Research Institution | Kagawa University |
Principal Investigator |
三好 祐輔 香川大学, 地域マネジメント研究科, 准教授 (80372598)
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Project Period (FY) |
2014-04-01 – 2018-03-31
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Keywords | 不祥事 / 法と経済学 / 金融機関 / 民事訴訟 |
Outline of Annual Research Achievements |
司法制度改革による急激な弁護士数の増加や弁護士報酬の改定が訴訟にもたらした影響は、民事訴訟の件数の増加や弁護士利用率の増加につながっていると言われている。しかし,日本の民事訴訟制度が有効に機能しているかどうかに関する研究は,理論、実証の両面において十分に研究されているとは言い難い。分析結果から,弁護士の数は司法制度改革が進められて以降格段に増加傾向にあるなか,地方裁判では増加傾向には見えない。つまり,弁護士の数を増加させても,地裁で扱われる訴訟件数は増加しておらず,訴訟サービスを有効利用できているわけではない。この理由は,地裁で扱う訴訟金額が多いため,弁護士のリスク・プレミアムは増大し,弁護士の参加制約を満足しにくい。その結果,地裁の訴訟件数は増加していないことを明らかにした。 一方,貸金業者の絶対数が最近は減少する傾向にあるため,担保なしで利用できる貸金業者の数に限りがあり,取引先を変更する選択肢が限定されるため,融資契約における取引当事者間の交渉力の格差が存在することは珍しいことではない。それが原因で貸し渋り問題に代表されるような,市場メカニズムが機能していない可能性があるなど,市場機能が有効に働く取引環境にあるか再検証する余地が残されている。そこで,支払い金利の引き下げの最高裁判決が経済学的にも是認できるか,上限金利の引き下げにより社会的余剰が増加するかどうかについて考察してゆく。その結果,例えば大分県の貸金業者の場合は,貸出約定金利が14.8%の水準になるまでは貸出額を増加させる傾向にあるが,それを超える水準になると,貸し倒れリスクを考慮して徐々に貸出額を減らす。つまり,貸出金利が高いと貸出額を増加させると考える従来の右上がり一辺倒の供給曲線の想定が,現実の貸金市場においてはあてはまらず,実際のデータによって,昨年構築した理論モデルが正しかったことが補強された。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
金利規制の水準が引き下げられる場合,貸金市場の生産者余剰は,個別企業の生産者余剰減少分を市場に存在する企業の数だけ加えただけ減少するが,消費者余剰の増加分が生産者余剰の減少分を上回り,社会的余剰は増加することが起こる場合がある。特定の仮定を満たした最適化条件を実際のデータから求めることにより,金利規制水準が均衡金利水準を上回る場合,規制水準を引き下げる政策が望ましいという政策的インプリケーションを導くことができる。上記の分析を踏まえ,実際の借入れのアンケート調査のデータを用いてbackward bending supply curveを導出することができた。 また,構築した仮説[地裁レベルの案件では,依頼主利益のために訴訟遂行を行うインセンティブを弁護士が十分に持てていない]ことを示すため,データ解析にとどまらず,理論モデルを構築する必要があった。つまり,経済学的に上記の仮説を説明するため,請求金額が高額になる地裁レベルの訴訟案件では,依頼人のみならず代理人にとっても訴訟リスクが高くなるため,訴訟制度を政策的に活用する必要性が著しく減衰することを証明した。その結果,法曹人口が増加することにより,これまで紛争の対象にならなかったところに弁護士が紛争を掘り起こすことになれば,訴訟件数を増加させる傾向が「望ましい」訴訟拡大を導いているとは言えないという理論モデルの帰結を導くことができた。さらに,弁護士報酬に関するアンケートデータを用いて,弁護士のリスク・プレミアムを計算し,簡裁と地裁では弁護士の参加制約に与える影響が現れるか否かを確認した。 上記のような二本の論文の分析を精緻化した研究成果により,日本法社会学会と九州経済学会で学会での研究報告を実施することができた。さらに,参考にした関連研究をサーベイしたものに一部データ解析し,海外との比較考察したものを紀要に掲載した。
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Strategy for Future Research Activity |
これまでの研究成果を国際的学術誌への公刊を目指す予定である。英語で出版した業績も一部あるが,それ以外についても積極的に実施する予定である。また,郵送等で協力を得て集めたアンケートデータを元に,個人向け融資だけに着目した分析を今年度は行ってきたが,考察対象を個人だけでなく,中小・零細企業にも広げ,貸倒れリスクを考慮した貸金業者の貸出行動を明らかにする分析を進めてゆく予定である。また地域別にみてゆくことで,民事訴訟件数にどのような違いが都市部と地方で見られるのかについて,ケーススタディを実施することで,今年度に明らかにしたマクロ分析の結果が個別の事案についても当てはまるのかを確かめる。さらに,フィードバックインタビュー等を通して理論・実証分析結果の頑健性を確かめる予定である。また,後者の学会発表した論文については,英語に翻訳し投稿する予定であり,次年度の使用計画には学術誌への投稿料として支出することを計上している。
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Causes of Carryover |
今年度は,出版の締め切りが迫っていた英語論文の作成を優先する必要があった。そのため,前年度の研究成果を早急に公表しなければならず,その作業に専念した。また,次年度にインターネット会社に委託する資金を次年度の予算に繰り越す必要もあった。さらに,現在の予算ではデータを購入するだけの資金が不足しており,その資金を捻出するため,今年度実施したアンケート収集に用いる郵送料や謝礼,データ整理に関わる備品及び専門家に支払う謝金については,幸いにも他の民間財団から研究助成金を得ることができた。以上のように,当該予算の不足分をカバーするため,今年度アンケートを実施した時にかかった費用は,資金調達先の開拓等で賄うことで努力した。
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Expenditure Plan for Carryover Budget |
今年度は,これまでの人的ネットワークを活かし,郵送によるアンケート収集を元にしたデータを利用し,公開統計データによる分析結果を補完する形での実証分析を行ってきた。次年度は,アンケート収集のデータ整備については,macromill等の会社に委託し,より規模の大きいアンケートデータを用いる予定である。具体的には,2015年に情報処理学会に掲載された時に匹敵する大規模なクロスセクションデータ(インターネットアンケート調査によって収集した個票データ)を利用することになると思われる。 さらに,今年度秋にはSpringerに掲載されることになっているので,その掲載料にも充てる予定である。
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Research Products
(5 results)