2014 Fiscal Year Research-status Report
熟練を要する専門的人材育成を組織横断的に行うための制度設計に関する研究
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26380482
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Research Institution | Kanagawa University |
Principal Investigator |
湯川 恵子 神奈川大学, 経営学部, 准教授 (20420763)
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Project Period (FY) |
2014-04-01 – 2017-03-31
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Keywords | 熟練技能 / 組織横断型人材育成 / 作業プロセス可視化 / 生産文化論 |
Outline of Annual Research Achievements |
本研究では,初年度は熟練を要する専門的人材育成のための制度設計をめざし,まずものづくり産業を中心に熟練技能者の思考ないしは経験のプロセスをモデル化することは可能か,可能であればどのような方法があり得るかを検討した.結果,熟練技能を工程や作業との間を関連付けることで,「作業プロセスの一部可視化」を行うことができた.このことから現場において熟練技能者が数ある作業の中で「なに(what)」を「どのように(how)」教育していくかを抽出し,それらを関連付けていくことができればその思考モデルを共有することで業界内での教育システム標準化の可能性があることが明らかにされた. 次に,我が国のものづくり現場のおかれた環境を先行研究から整理し,組織横断的な制度設計は可能か否かを探った.現状,大別して3つの困難性があることが整理された.第一に,部品や作業の標準化の取り組みは社内的には行われてきたものの,企業間や業界内ではこうした取り組みは自前主義や閉鎖的体質が原因でほとんど進んでいないこと.第二に,組織横断型の共通モデルを構築したとしても,技能獲得が過去の経験値の上に新たな経験値を蓄積して発展するものであるため,モデル化の更新も頻繁に必要となること.第三に,熟練技能はそれらを取りまく文化や風土と密接なかかわりをもつという生産文化論の視点に立てば厳格な標準化は成立しないこと.これらの困難性を考慮すると,適度なばらつきのある「ゆるやかな標準化」が実現可能性を帯びる.この「ゆるやかな標準化」を部品や作業のみならず人材育成に援用することが,インダストリー4.0をはじめとする新しいタイプのグローバル競争を生き抜く手段となり得るだろう. 本年度の研究では,そうした新しい潮流も意識しながら,熟練技能人材育成における企業横断型,組織横断型(企業と大学)教育システムの連携可能性を多面的に検証したものである.
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
当初,研究計画では研究目的の第一にあげた組織横断的な人材育成制度設計のための個別的人材育成制度の業界比較を行うつもりでいたが,研究を進めたところドイツ政府主導のIndustry4.0に代表される国際競争環境の変化を鑑み,この未知の脅威に対する迅速な対応の必要性を強く感じたため熟練を要する専門的人材育成制度設計を組織横断的に行い,そのガイドラインを提示するという第二の研究目的を優先した.本年度は制度設計の可能性模索に終始したが,これを検証できた点で研究はおおむね順調に進展したと考えている.
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Strategy for Future Research Activity |
初年度に明らかにされた「ゆるやかな標準化」に焦点を当て,企業を超えた同期的人材育成のための制度設計のガイドラインを提案していきたい.そのために2年目は「組織化」をキーワードに企業と企業が人材育成システムによって柔軟につながり,企業の枠を超えて緊密に連携することでわが国ものづくり産業の競争優位性を担保する理論を構築したい.よってものづくり現場の熟練技能者の作業プロセスの可視化を継続しながら研究対象範囲を,企業間さらには業界間・外部教育機関としての大学などへ広げつつ,人材育成の標準策定作業と同時に個別企業独自の生産文化強化という一見すると相矛盾する要素の統合点を見つけていきたいと考えている.
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Causes of Carryover |
研究成果として採録はすでに決定しているが,学会誌掲載にかかる作業が事務局方で遅延しており,そこにかかる諸費用請求が年度をまたぐこととなっていることが理由として考えられます.
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Expenditure Plan for Carryover Budget |
上述の学会誌掲載にかかる費用を支出するとともに,実りある成果に向けた情報収集ならびに学会報告を積極的に実施していき,助成を有効に使用していきたいと考えています.
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Research Products
(8 results)