2015 Fiscal Year Research-status Report
ITベース・イノベーションを実現する企業経営に関する実証研究
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26380498
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Research Institution | University of Tsukuba |
Principal Investigator |
生稲 史彦 筑波大学, システム情報系, 准教授 (10377046)
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Project Period (FY) |
2014-04-01 – 2017-03-31
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Keywords | 情報通信技術 (IT) / イノベーション / 技術経営 / 開発活動 / プラットフォーム / コンテンツ / サービス / 適度な差別化 |
Outline of Annual Research Achievements |
平成26年度に引き続いて共同研究を進めつつ研究会に参加し、予備調査を実施した。現時点での研究成果を発表することもでき、今後の実証研究で検証可能な仮説の見通しも得られた。 現時点では概ね既存研究と整合的な知見、仮説を得ている。研究対象企業は継続的に開発活動を行い、運用に入ってからも不断に改善を続けて製品サービスをブラッシュアップしている。そうした継続的な開発・運用によって、良い顧客コミュニティを形成し、維持することが可能になる。さらに、支払を求めない要素と支払を求める要素を混在させるビジネスモデルを構築することで、顧客基盤の拡大と収益化の同時達成が可能になる。こうしたITベースのビジネスの特徴は調査対象の事例でも確認されている。 既存研究と異なる仮説を強いて挙げれば、それは「適度な差別化」という概念に集約される。企業は既にある製品サービスに相対し、違いすぎないものの同じではない製品サービスを創り出す。IT利用を前提とした場合(ITベースの場合)には、製品サービスの提供後に顧客からフィードバックを得たり、データによって顧客の挙動を把握したりできるため、そうでない場合よりも差別化の程度が小さくなる傾向が生じるのではないかと考えられる。「小さすぎる」差別化の程度であっても事後的な判断に基づいて差別化要素を追加すれば良いと考え、むしろ差別化の程度が大きすぎては顧客が製品サービスとはなにかを理解できない危険性があると企業が考えるからである。言い換えれば、差別化程度が大きいことのリスクを過大に評価する可能性が示唆されている。 イノベーションは大きな変化を想起させるが、それは事後的な評価である。企業などのイノベーションの担い手、当事者の視点では適度もしくは小さな変化を起こすことを目指しており、ITベースの状況下では小さな変化を志向する傾向が強まる可能性があると考えられる。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
A社との共同研究ではインタビューに基づく事例調査、顧客を対象としたアンケート調査の実施に携わった。いずれも共同研究者、本学サービス工学学位プログラムの指導学生と共に進めた研究である。平成26年度同様、開発・運用のマネジメント、企業と顧客の関係性、技術変化への対応やビジネスモデルに焦点を当てて考察および分析を進めた。同時に、Glocomや同志社大学創造経済研究センターの研究会に参加し、A社の事例から得られる知見が他企業でも適用可能なものか否かを検討してきた。さらに、A社と同一グループに属する企業、海外企業を対象とした予備的調査も開始し、既に得た研究成果の一般化可能性も検討した。 以上の調査研究はITベース・イノベーションを目指す企業そのものの研究である。これにくわえ、企業を取り巻く産業や社会の状況を調査し、ITベース・イノベーションを促進もしくは制約する要因に関する仮説の構築を目指している。具体的にはゲーム産業の歴史研究と、企業内の開発活動および営業活動の研究を開始した。ゲーム産業の歴史研究は、過去のITベース・イノベーションの事例を改めて検討し、適度な差別化がどのような経緯を経て波及効果を及ぼし、産業および社会を変えていくのかを明らかにしようとしている。他方、企業内の開発活動と営業活動は人的要素が色濃く残っているため、IT化の進展によっても包摂が難しいのではないかという見通しを持っている。そこでこの2つの活動とそれを担う人材の育成に焦点を当てて研究し、ITベース・イノベーションで変化しうる現象の境界を見定めようと意図している。 現在の企業そのものの調査研究、過去のITベース・イノベーションの事例研究、将来を視野に入れたITベース・イノベーションの影響範囲に関する研究は順調に推移しており、萌芽的な成果も得られている。それゆえ「おおむね順調に進展している」と言える。
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Strategy for Future Research Activity |
A社との共同研究が順調に進み、補完的な研究活動も進められたことで、ITベース・イノベーションに関する知見を積み重ねられている。その成果には既存研究と整合的な知見や仮説もあるが、新しい知見もある。研究プロジェクトの最終年度に当たる平成28年年度は、調査研究を継続することと並行して過去2年間の研究成果を積極的に発表していく。それによって、研究成果の一般性、現実妥当性を高めると共に、ITベース・イノベーションに関する研究アジェンダを提示する。そして、今後のより長いスパンの研究のプログラム立案、特にITベース・イノベーションに関する長期的な仮説検証型実証研究の実現を目指していく。 ITベース・イノベーションを目指す企業そのものの研究ではA社社との共同研究が中心となる。既に収集したアンケート・データやインタビュー調査の結果、あるいは必要に応じて実施する追加的な調査に基づいて、企業が適度な差別化をいかに遂行するのか、その差別化の程度がITベースではない場合よりも小さくなる傾向があるのかを検討していく。また、ゲーム産業の歴史に関する研究ではオーラル・ヒストリーの収集を開始し、イノベーションを実現した当事者の視点から目指した差別化とその程度を再構成してみる。さらに、開発や営業といった活動を担う人材育成の研究を進め、他社との差別化を担う人の役割がITシステムによっていかにして補完、代替されるのかを検討していく。 いずれの調査研究においても、鍵となる概念は適度な差別化である。企業がいかなる形で適度な差別化を実現し、適度な差別化がどのようにして波及効果を及ぼして経済社会を変え、適度な差別化を支える人材はどのようにして企業の中で育まれるのか。複数のサブテーマに沿った実証研究を通じて、適度な差別化を巡るこれらの問いに答えることが、本研究プロジェクトの当面の課題である。
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Causes of Carryover |
平成26年度にかなり多くの繰越額があったことにくわえて、企業との共同研究を遂行するに当たって共同研究という形を取れたために調査実施費の執行がなかった。さらに、当初執行予定のインタビューやアンケート調査のテープ起こしやデータ整理を業者に委託せずに済んだ。この2つの理由により、研究を進めるための支出をかなり抑えることができた。
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Expenditure Plan for Carryover Budget |
本研究の計画最終年度は発表に値する研究成果が見込める。それゆえ、国内外の学会、カンファレンスで発表をし、他の研究者からのフィードバックを受けて研究成果の一般性、妥当性を高めたいと考えている。 したがって、平成27年度からの繰越金は主に国内外の学会に参加するために支出する。国内の学会で1回の発表、海外の学会で1回の発表を行う予定である。
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Research Products
(6 results)