2015 Fiscal Year Research-status Report
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26380524
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Research Institution | Gakushuin University |
Principal Investigator |
森田 道也 学習院大学, 経済学部, 教授 (10095490)
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Project Period (FY) |
2014-04-01 – 2017-03-31
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Keywords | 戦略的適合 / サプライチェーン戦略 / 戦略的変化の障害 / 経営の戦略的風土 / 戦略とオペレーションの整合化 |
Outline of Annual Research Achievements |
あるべき戦略行動の概念はあっても、それを実践するための理論的研究は極めて少ないことが経営戦略論の進展を妨げている。本研究はその戦略実践論に絶対的サプライチェーンの概念を提示し、その意味合いをより現実の企業の戦略的行動へと昇華することを目的としていた。昨年までの研究では、まず絶対的サプライチェーン戦略の概念を提示すると共に、その概念が製品/市場戦略に対してもプラスの貢献をするという実証分析をおこなった。特に、後者は企業のオペレーショナルな活動に対して指針を与えるという色彩が濃いが、そのことによって、環境変化への戦略的適応(製品/市場戦略)に対してもマイナスではなくプラスの貢献をするというデータ分析結果は意義があった。戦略的適合の最大の問題は市場を含めた環境の変化に対して現状のオペレーションおよびその仕組み(生産、物流など)がそれ自身の慣性を持っていて戦略的変化を適時に行えないというところにあった。戦略的適合はその柔軟な行動変化をいかに容易におこなうかで左右される。絶対的サプライチェーン戦略はそれが企業のすべての職能がその自身の活動の方向や優先順位を判断する基準を与えるもので、それがすべての企業の成員に共有されることで基準対立や職能の裁量的行動を軽減するように働くものと考えられる。企業はいかに機会や脅威に対処して自らを変革していくかで経営の業績が左右されるわけで、その柔軟かつ効率的な変化対応を可能にする経営風土としての絶対的サプライチェーンの意味合いがデータ的にも裏付けられたという点は上の課題に対する一つの可能性を提示してものと考えられる。 今後は、これらの研究成果を踏まえ、戦略的適合のモデル化を図ることが大きな課題になる。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
戦略的適合を可能にする経営行動に関する仮説として提示した絶対的サプライチェーン戦略の概念が、データ的にその存在の可能性を裏付ける分析ができたことは大きな成果であった。またその絶対的サプライチェーン戦略がオペレーショナルな行動側面に偏っているため、新製品あるいは新市場開発などの戦略的変化に対して負に作用する可能性を秘めていたが、逆にプラスに作用しているという分析結果も昨年得た。それによって本概念の意義がより大きくなったと考えられる。戦略的適合の難しさは、いわゆる効率性と効果性の対峙関係で生まれ、両者を統合することの論理として組織の職能および成員間の行動基準を統合化することでその対峙関係をより建設的な解決にもっていくことができるという意味合いをより確実なものにすることができた。言い換えれば、今までの研究成果は、その共有すべき行動基準が絶対的サプライチェーン戦略に内包されることを示唆している。 戦略的適合は従来は、その意味合いが抽象的で実際の企業の実践論理としてはかならずしも適切ではない。実際の企業では現状の製品/市場における時間経過あるいは製品ライフサイクルの上での市場競争の変化への対応が大きな課題でもある。戦略的適応は新製品導入や新市場開発だけの問題ではない。日々の市場対応、競争基準(QCD)のライフサイクル上での変化に対する対応、そして市場飽和や新技術、新ビジネスモデルの台頭などへの対応などさまざまな対応を含んでいる。そのような戦略的適応を企図するのが真の戦略的適合の意味合いであると考えると、連続的な変化への適応を説明できる可能性が出てきたという意味で絶対的サプライチェーン戦略の検証が意義があったし、その連続的な変化への適応を絶対的サプライチェーン戦略概念でさらに説明する研究へと昇華していく意義がある。
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Strategy for Future Research Activity |
今後の本研究の推進は2つの方向で考えている。 (1)戦略的適合のダイナミックスのモデルの構築:絶対的サプライチェーン戦略概念に基づき、企業の競争環境への適応のダイナミクスをモデル化することである。これは、企業の日々の(短期的)適応から新製品や新市場の変化への適応までの適応行動の推移をモデルとして検討し、その推移の望ましいパターンあるいは行動論を展開することである。このような適応をハイパフォーマンス・サイクルの実現という概念でモデル化することが目的になる。この研究にあたっては、最新の国際共同研究データベースを活用することができると期待している。その他に実際企業への訪問調査を企図している。研究仮説の検証では質的なデータも重要だからである。 (2)戦略的適合の実践モデルの可能性の研究:上記のような連続的な戦略的適合に絶対的サプライチェーン戦略概念を適用していくことの実践的可能性を検討することである。この研究課題は、近年のIndustry4.0やIOTなどの情報技術の発展を鑑みるとより意味合いが高くなる。絶対的サプライチェーン戦略を経営の機軸に据えるべきことの重要性を今までの本研究の成果は示唆しているが、それが風土として定着することが実践的意味合いを考えるときには重要になる。今までの研究では優れた企業はそのような風土性が高いことが示唆されているが、そのような風土をいち早く醸成することが一般的企業では大きな課題になる。上述の情報技術の進展を適正に経営に採り入れることでその課題に対して有効かつ迅速に取り組むことができる可能性をこの(2)の研究課題で示唆することが狙いである。絶対的サプライチェーン戦略はその基準が操作可能な形で述べられるとことに特徴がある。それがITの環境でより明示化され、経営全般に展開される可能性がある。(2)の研究は戦略的適応の実践的知見を提示することを目的にする。
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Causes of Carryover |
2016年3月中旬に予定していたフィリッピンにおける日系企業サプライチェーン調査への参加を体調不良のため見送ったため、2015年度の助成額の残額が発生した。
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Expenditure Plan for Carryover Budget |
2016年度では2回の国際学会(キューバのハバナでのThe 6th World Conference on Production and Operations Management、およびアメリカのオーランドでのCouncil of Supply Chain Management Professionals 2016 Annual Conference)での成果発表が採択されており、それへの参加と、数回の海外を含む企業訪問調査旅行を予定している。その旅費が100万円近くかかる。また論文共同執筆者である研究協力者を海外から招聘する(Jose A. D. Machuca教授、セビリア大学)予定であり、その滞在費を一部補助する。これらに要する額は2016年度交付予定額以上になる可能性があり、そのための一部を繰越額で補填する予定。
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Research Products
(6 results)