2014 Fiscal Year Research-status Report
経営者の会計的裁量行動と実体的裁量行動の代替関係及び抑制に関する実証分析
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26380610
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Research Institution | Kobe University |
Principal Investigator |
榎本 正博 神戸大学, 経済経営研究所, 准教授 (70313921)
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Project Period (FY) |
2014-04-01 – 2017-03-31
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Keywords | 利益マネジメント / 会計的裁量行動 / 実体的裁量行動 |
Outline of Annual Research Achievements |
平成26年度は次の分析を行った。 ・いわゆる会計・監査の厳格化による会計的裁量行動から実体的裁量行動への移行を検討した。会計的裁量行動はJones (1991)のモデルを基礎に裁量的会計発生高を計算し,実体的裁量行動はRoychowdhury (2006)のモデルを使用して,売上高操作,裁量的費用の削減,過剰生産について推定し,統合した指標を作成した。そして,会計的裁量行動と実体的裁量行動の代理変数における時系列的変化を観察した。大きな裁量行動の転換点として考えられるものとして,2002年の米国サーベンス・オックスリー(SOX)法の成立,わが国では2006年の金融商品取引法の成立がある。この間にも会社法の改正,監査基準の改定等の企業会計に関する改革が行われている。本研究では(1)SOX法成立前,(2)SOX法成立後から金融商品取引法成立前,(3)金融商品取引法成立後の3期間にわけて,会計的裁量行動と実体的裁量行動を追跡した。まず,会計発生高,実体的裁量行動の指標の絶対値の動向を見ると,SOX法成立前に比べて成立後の方が絶対値が大きく,裁量行動が増加している傾向がうかがえたが,会計的裁量行動から実体的裁量行動への移行は観察されなかった。次に重回帰分析の結果は,SOX法成立後に会計的裁量行動が減少し,金融商品取引法制定後に実体的裁量行動が増加している結果が得られている。 ・上記とは別に会計的裁量行動の一つである会計方針の変更の基礎的分析を近年のデータを追加して行った。会計方針の変更について,利益マネジメント研究で検証されてきた仮説を確認し,会計方針の変更に関する研究を再考した。分析の結果は,新しいデータを加えても,会計方針の変更がこれまで検討されてきたいくつかの仮説と整合する可能性を示唆していた。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
・2014年度は,会計・監査の厳格化による会計的裁量行動から実体的裁量行動への全体的移行を取り扱った。2013年までのデータを用いて分析を行い主要な結果を導出しているが,2014年度末から2014年のデータを追加する作業を行っている。この移行の分析に関する分析は頑健性のチェックを残しているが主要部分の結果は導出されている。 ・また会計的裁量行動の一形態である会計方針の変更の分析については基礎的分析を終了した。 ・以上から,上記の評価とした。
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Strategy for Future Research Activity |
・今後の研究計画は以下の通りである。 ・2015年度は会計・監査の厳格化による会計的裁量行動から実体的裁量行動への全体的移行について,ディスカッション・ペーパーとした後で海外雑誌に投稿する予定である。 ・次に会計的裁量行動と実体的裁量行動の代替関係の成立について具体的な状況を設定して分析する。企業が目標利益への到達のため,2 つの裁量行動を組み合わせるとすると,片方が増えれば片方が減るので代替関係が成立する。例えば監査はその代替関係に影響を及ぼすとみられる。監査の制約が厳しいほど,会計的裁量行動が実施できず実体的裁量行動をするであろう。監査は会計処理に対して強い制約を課すものの,相対的に経営活動はその監視が及ばないためである。予測が正しければ,代替関係に加えて,監査の質が高いほど,会計的裁量行動よりも実体的裁量行動を選択するはずである。そして,会計的裁量行動と実体的裁量行動の代替関係が成立しない場合についても検討する。例えば,効果的なコーポレート・ガバナンスは会計的裁量行動と実体的裁量行動の両方を制約するかもしれない。 ・会計的裁量行動と実体的裁量行動の分析で留意すべきは,2つの裁量行動の順序である。本研究でも先行研究を参照に順序関係にも着目し,それを組み込んだ分析を考慮する。 ・必要な変数が入手できればDetastream(国際財務データベース)等を用いて国際比較を実施する。変数が計算できれば,同様の手続きで実施でき,国際的に裁量行動を分析可能である。
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Causes of Carryover |
購入予定のデータベースが,想定価格より安価であったため。
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Expenditure Plan for Carryover Budget |
意見徴収に関する旅費で使用する予定である。
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Remarks |
会計方針の変更に関するディスカッション・ペーパーのダウンロード先である。
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Research Products
(4 results)