2016 Fiscal Year Research-status Report
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26380621
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Research Institution | Hosei University |
Principal Investigator |
川島 健司 法政大学, 経営学部, 教授 (80406652)
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Project Period (FY) |
2014-04-01 – 2018-03-31
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Keywords | 財務報告 / 自然災害 / 熊本地震 |
Outline of Annual Research Achievements |
本科研費の課題は「東日本大震災の財務報告に関する研究」であるが、本年度初頭の2016年4月に「平成28年(2016年)熊本地震」が発生し、その際に本研究と関係が強い企業の財務報告実務が観察された。災害の規模、および社会的な意義の大きさを鑑み、当該地震における財務報告を本研究の対象に含めることに意義があると考え、本年度は当初の研究計画を修正し、当該地震に係る日本企業の財務報告実務を分析の対象に加えた。 当該分析では、熊本地震発生後に開示された適時開示情報を対象に、①開示が行われたタイミング、開示情報の内容、および開示企業の属性を記述し、②その適時開示情報が証券市場にどのような効果を与えたかに関するイベント・スタディを行った。地震発生から1週間に204件の開示があり、2016年9月末までには297件の開示があり、開示情報を全体でみると正の証券市場反応が確認された。情報内容別には、地震による被害がなかったことを報告するものや、復旧を報告するものに対して証券市場は正の有意な反応を示すことが確認された。一方、被害による具体的な業績への影響額を報告する開示に対して市場は負の反応を示したが、有意性は確認できなかった。影響額の開示は地震発生から最短で26日後にみられ、被災企業が業績への影響額を推計するには少なくとも約1ヶ月の時間を要することが示唆された。 開示の適時性の観点では、地震発生直後の開示に対して証券市場は正の反応を示したが、有意性は確認できなかった。このことは、証券市場は情報開示が早ければ良いということだけでなく、開示される情報の内容まで評価していることを示唆する。また、フィランソロピーに関する情報に対して、証券市場の有意な反応はみられなかった。義援金の拠出金額に着目すると、金額が多いほど証券市場は負に有意に反応することが示された。これは海外の先行研究とは逆の結果であった。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
3: Progress in research has been slightly delayed.
Reason
現在までの進捗状況は、当初の計画に対してやや遅れている。この理由は次のとおりである。本科研費の課題は「東日本大震災の財務報告に関する研究」であるが、本年度初頭の2016年4月に「平成28年(2016年)熊本地震」が発生し、その際に本研究と関係が強い企業の財務報告実務が観察された。災害の規模、および社会的な意義の大きさを鑑み、当該地震における財務報告を本研究の対象に含めることに意義があると考え、本年度は当初の研究計画を修正し、当該地震に係る日本企業の財務報告実務を分析の対象に加えた。当初の研究計画では想定していなかった事象が発生し、これを本研究課題に反映させるために、研究期間を1年間延長した上で、2016年度に当初に予定していた研究を翌年度に繰越すことにした。なお、その分析結果は、本年度において下記の学会、および雑誌において公表した。 ・Kenji Kawashima, Capital Market Reaction to Disclosure in Disaster:A Case Study of the 2016 Kumamoto Earthquakes, 28th Asian Pacific Conference on International Accounting Issues, Maui, 8th November, 2016. ・川島健司「平成28年(2016年)熊本地震における適時開示情報の分析」『産業経理』Vol.76, No.4, pp.58-81.
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Strategy for Future Research Activity |
当初の計画通り、東日本大震災後の財務報告に関して、会計手続き選択における自由度を経理担当者はどのように活用しているかを分析するとともに、それを証券市場はどのように評価しているかについて分析する。会計手続き選択における自由度の活用に関する現段階での仮説は次のとおりである。東日本大震災の発生後、上場企業のなかには、いわゆる復興特需によって業績が震災前より好況の企業が存在する。この好業績の報告にあたり、平常時では一般に好業績は企業外部の利害関係者にとって好材料であることから、積極的かつ強調的に報告されると考えられる。一方、東日本大震災の状況下においては、災害に関わる様々な事情や被災者への心情に鑑み、好業績でも保守的な会計手続き選択が行われていたのではないかと推察する。 以上を定性的調査法または会計発生高等にもとづく定量的調査によって分析する。会計手続き選択におけるシステマティックな傾向が確認できれば、これに対する証券市場の反応を併せて調査する。証券市場の反応については、適時開示情報の効果も別途分析を行い、東日本大震災における情報開示の有用性を検証する。筆者がすでに行った情報開示の実務担当者へのヒアリングによれば、東日本大震災時における適時開示情報は暫定的な内容にならざるを得ず、投資家に対してどれほど有益であったのか感触が得られなかったという発言が複数聞かれている。一方、投資家の立場からすれば、たとえ情報内容が価値関連的でなかったとしても、情報開示に対する姿勢を評価している可能性がある。そこで、この実態がどうであったかを一般的なイベント・スタディの手法によって分析する。
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Causes of Carryover |
本科研費の課題は「東日本大震災の財務報告に関する研究」であるが、本年度初頭の2016年4月に「平成28年(2016年)熊本地震」が発生し、その際に本研究と関係が強い企業の財務報告実務が観察された。災害の規模、および社会的な意義の大きさを鑑み、当該地震における財務報告を本研究の対象に含めることに意義があると考え、本年度は当初の研究計画を修正し、当該地震に係る日本企業の財務報告実務を分析の対象に加えた。当初の研究計画では想定していなかった事象が発生し、これを本研究課題に反映させるために、研究期間を1年間延長した上で、2016年度に当初に予定していた研究を翌年度に繰越すことにした。
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Expenditure Plan for Carryover Budget |
当初に予定していた最終年度の研究を実施するために使用する予定である。すなわち、東日本大震災後の財務報告に関して、会計手続き選択における自由度を経理担当者はどのように活用しているかを分析するとともに、それを証券市場はどのように評価しているかについて分析する。
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Research Products
(2 results)