2015 Fiscal Year Research-status Report
17-19世紀イギリスの簿記理論と会計実務における複式簿記の比較研究
Project/Area Number |
26380631
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Research Institution | Osaka University of Economics |
Principal Investigator |
杉田 武志 大阪経済大学, 情報社会科学部, 准教授 (80509117)
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Co-Investigator(Kenkyū-buntansha) |
渡辺 泉 大阪経済大学, その他部局等, 名誉教授 (40066832)
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Project Period (FY) |
2014-04-01 – 2017-03-31
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Keywords | 単式簿記 / イタリア式簿記 / 複式簿記 / 現金収支簿記 / 東インド会社 / 商品輸出 / Stock per Computation / 商館 |
Outline of Annual Research Achievements |
代表者の杉田は,本研究の目的でもあるイギリス東インド会社の会計実務,簿記手続きの全体像を明らかにするため,本年度も,主に同社の会計帳簿等の収集と考察を行った。同社の史料の収集としては,これまでと同じく,ロンドンにある大英図書館へ所蔵史料についてCD-Rへの複写依頼を実施した。 入手した史料を対象として,17世紀から18世紀前半にかけてのイギリス東インド会社の会計実務について検討を進めた。同社の会計実務の中でもこれまで先行研究であまり取り上げられることのなかった,17世紀後半から18世紀前半における海外商館への商品輸出の会計処理に焦点をあてて,同社の会計帳簿(元帳,仕訳帳など)の考察を行った。加えて,18世紀中葉の同社の財務表(報告書)の分析や同社における私貿易の会計処理についても検討した。これらのうち17世紀後半の商品輸出と1757年のStock per Computation(財務表)に関する考察結果をまとめて論文としてそれぞれ刊行した。18世紀前半の商品輸出に関する研究成果は,平成28年度に論文として刊行する予定である。なお,私貿易の会計処理については検討していたものの,論文などの成果としてまとめる段階までには至らなかった。 分担者の渡邉は,主に研究成果を多くの会計学の研究者が参加する「会計学サマーセミナーin九州 2015」で報告するとともに,論文,書籍としても発表している。 簿記は,13世紀初頭のイタリアで生成したというのが定説である。しかし,福澤諭吉の影響下であろうか,複式簿記に先立って単式簿記(シングル・エントリー)が登場していたのではないかとする考え方や現金収支簿記が複式簿記に先行して誕生したという解釈が一部に見られる。この解釈の誤りに応えるために,まず初めに,簿記・会計の役割を再検討し,次いで複式簿記と単式簿記ないしは現金収支簿記との関係を明らかにしている。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
本年度の作業として,代表者の杉田は史料の入手と史料の検討に時間を割いた。昨年度に引き続き,東インド会社の会計実務について検討を進めた。貿易を主たる経営活動としている同社にとって,商品の輸出入はコアな事業であった。このうち商品輸出に関する会計処理の検討を進め,既述のように17世紀後半における検討結果は,論文にて公表した。18世紀前半に関する検討結果の一部については,専門家が集まる神戸大学会計史研究会(平成28年2月)で報告を行った。さらに,これらの検討結果の一部については,平成28年度において論文を刊行予定としている。このほか,18世紀中葉以降における同社の財務表の分析や17世紀後半の私貿易に関する会計処理の考察も行った。 分担者の渡邉は,会計ならびにその利益計算構造を支えている複式簿記の第1義的な役割が意思決定に有用な情報の提供ではなく,客観的で検証可能な事実にもとづく信頼される情報の提供にあることを確認した。本年度は,この信頼性こそが会計にとって最も重要であり,複式簿記を誕生せしめた第1義的な要因であることを明らかにすると共に,単式簿記が複式簿記に先行して誕生した事実がないことも再度検証した。 このように,ある程度研究計画に則り進められるとともに研究成果をペーパーなどで刊行することができている。それゆえ,今のところ研究は順調に進んでいると考えられる。
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Strategy for Future Research Activity |
次年度は最終年度であるため,代表者の杉田は,イギリス東インド会社の会計実務の全容を明らかにするため,同社の関連史料の入手を行うとともに,これまでに続いて会計帳簿などの史料を対象とした考察を進める。特に,18世紀中葉以降における同社の商品輸出などの会計処理を体系的に明らかにする。その他にも,17世紀後半以降における私貿易の会計処理を検討するとともに,同社の会計帳簿と財務表(報告書)の考察から,18世紀中葉以降から19世紀初頭頃までの財務表作成手続きや利益計算の変容などについても検討していく。研究成果については,関連する研究会及び学会などで報告する予定であるとともに,その成果なども論文として作成する予定である。 分担者の渡邉は、本年度までの研究で,単式簿記は,複式簿記の簡便法として18世紀に誕生し,決して複式簿記に先行して登場したのではないことを明らかにしてきた。しかし,まだ多くの人は,現金収支簿記を単式簿記と見なし,現金収支簿記が複式簿記に先行して誕生していたと見なしているように思われる。次年度は,この誤りを明らかにし,簿記,すなわち複式簿記の誕生が13世紀のイタリアであることを再確認する。
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Causes of Carryover |
当該年度では,代表者は主に東インド会社の史料の収集に予算を割いたが,昨年度までと同じく,史料そのものの複写料金は,複写依頼の注文を行った後にしか確認できない。会計帳簿であれば1冊当たりの複写代金は数万円に上るため,複数の史料を注文する際には,金額の多寡に注意する必要があった。それゆえ,予算額に合うような史料の一括した複写依頼が容易ではないため,注文を複数回にわけて,その都度の金額を確認しながら行った。しかも,一度の注文から複写の金額明細が送られてくるまで,少なくとも1,2か月かかることが多い。そのため注文に際して時間がかかり,結果的におおよその使用額と予算額には差異が生じてしまった。
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Expenditure Plan for Carryover Budget |
次年度では,これまでに引き続いて関係史料の入手のために,代表者は主に東インド会社史料の複写代に使用するつもりである。分担者は出張旅費等や関連する文献等の入手等に充てる予定である。
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