2014 Fiscal Year Research-status Report
人本主義企業をめざす管理会計の研究ー付加価値管理会計の展開ー
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26380636
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Research Institution | Kansai University |
Principal Investigator |
水野 一郎 関西大学, 商学部, 教授 (70174034)
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Project Period (FY) |
2014-04-01 – 2018-03-31
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Keywords | 人本主義 / 日本的経営 / 付加価値管理会計 / 論語と算盤 / 復旦大学日本研究センター / 松下幸之助 / 日本生産性本部 |
Outline of Annual Research Achievements |
本研究は、筆者が永年研究してきた付加価値管理会計を基礎としつつ、平成23年度~25年度科研費で実施した「ハイアールと京セラの管理会計システムに関する比較研究」の成果を踏まえて新たな構想の下で発展させるものである。平成26年度ではまず人本主義と日本的経営に関するこれまでの先行研究を歴史的文献的に整理し、各種資料や論文、著書も新たに収集した。そして日本資本主義の父と呼ばれ、「論語と算盤」を理念に掲げ日本的経営の基盤形成に尽力してきた渋沢栄一氏の記念館(東京)、「人間尊重経営」を標榜し独特の経営スタイルを貫いてきた出光興産の出光佐三氏の記念館(門司)、「モノづくりの前にヒトづくり」を提唱し、戦後の日本的経営の代表とされるパナソニックの松下幸之助氏の歴史舘(大阪)にも足を運び、各種資料の補足的な調査も行ってきた。 またこうした研究の過程で日本生産性本部と生産性運動が人本主義と日本的経営の確立にあたって重要な役割を果たしてきたことにも注目し、日本生産性本部と地方生産性本部(沖縄、北海道、九州、大阪)を訪問し、意見交換、インタビュー調査も実施してきた。さらに多くの日系企業が進出している中国上海を訪問し、日系企業関係者(日機装、三菱商事、三和シャッター、ニッサンなど)と意見交換も行い、人本主義と日本的経営の普遍性について考究してきた。 これらの研究の一端は、「市場経済と倫理―論語と算盤一」(第5回復旦・関大経済フォーラム)、「人本主義管理会計の構想」(会計学サマーセミナーin 九州2014)で報告し、さらに復旦大学日本研究センターから招聘を受けた第24回国際シンポジウムで「日中経済交流の課題と展望―松下幸之助の足跡を中心にー」というテーマで講演し、また日本生産性運動との関わりについては「日本における生産性運動と人本主義経営」というテーマで日本財務管理学会第39回秋季全国大会で報告した。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
本研究は、平成25年度まで科研費を受給し実施してきた「ハイアールと京セラの管理会計システムに関する比較研究」の成果を踏まえた新たな構想の下で開始した研究である。京セラのアメーバ経営とその採算計算制度については近年多くの研究がなされてきているが、管理会計領域では「ミニプロフィットセンター」の一形態として理解されることが多い。しかし研究代表者はかねてより付加価値会計からのアプローチが重要であり、同時にその基盤形成では明治期の渋沢栄一など一部の経営者思想および戦後の日本生産性運動に注目する必要性を感じていた。とくに生産性運動の3原則(①雇用の維持拡大②労使の協力と協議③成果の公正な配分)は付加価値管理会計との親和性が高く、人本主義企業をめざす管理会計にとって日本の生産性運動が果たしてきた役割を解明し、評価することが要請されている。 上記の研究実績の項目で述べてきたように平成26年度の研究活動では、資料収集と文献研究に加えて、渋沢栄一、出光佐三、松下幸之助の記念館を訪問し、また各地の生産性本部のヒアリング調査を実施してきた。そしてそれまでの研究成果については学会その他で報告し、コメントをいただき、議論を展開することができた。さらに中国上海にも訪問し、日系企業の関係者と意見交換を実施し、国際シンポジウムでの発表も実現した。なおこうした研究活動の成果の一部として査読付き論文を含む研究論文を公表することができた。 こうした活動によって「研究の目的」の達成度はおおむね順調に進展していると評価するものである。ただ平成26年度調査では中国のハイアールと京セラへの訪問が残念ながら実現しなかった。次年度以降には定点観測としてインタビュー調査を実現させ、この数年間の変化を整理することが課題として残っている。
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Strategy for Future Research Activity |
本研究の第2年度(平成27年度)も資料の収集と文献研究は継続して行い、インタビュー調査も前年度に訪問できなかったハイアールや京セラの関係企業や工場を訪問する。日本生産性本部の設立に至る経緯や初期の活動について日本生産性本部の各年史資料を参照したが、それによって日本生産性本部の活動内容がきわめて多岐にわたっていたことがわかった。それは、①アメリカを中心とする海外視察団の派遣と新たな管理技法の導入、紹介 、翻訳、出版、②各国生産性本部との交流、とくにアジア諸国との技術交流・指導、③労使関係の近代化(労使協議制の研究・普及、労使関係教育、労働関係の国内交流)、④生産性の向上と成果配分の研究、生産性本部方式の付加価値指標の確立と普及、⑤各種経営セミナーによる経営教育、⑥中小企業指導(中小企業の調査、統一原価計算方式の開発・教育、経営指導)などであった。引き続き日本生産性本部と生産性運動の具体的な解明が必要である。 人本主義経営や日本的経営は、大企業だけではなく、中堅、中小企業においても「人を大切にする経営」として一部では定着して展開されている。寒天メーカーとして有名な伊那食品工業は、パナソニックや京セラ以上に人本主義的な経営を進めている。昨年9月に「人を大切にする経営学会」が誕生したが、そこでの表彰制度は中堅、中小企業経営者に勇気を与えている。平成27年度では大企業だけではなく、こうした中堅、中小企業にも関心を持ってフォローしていきたい。 また中国ではハイアール以外でも人本主義的経営を進め、成功している企業が出てきている。今後はこうした中国の人本主義企業にも注目し、同時に反日暴動で多大な損害を受けたにもかかわらず湖南省で人本主義的な経営を定着させている平和堂など日系企業がどのように中国でこうした日本的経営を展開しているのかを調査し、人本主義経営の普遍性を探求していく。
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Causes of Carryover |
購入した物品が予定よりも安く済んだため。
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Expenditure Plan for Carryover Budget |
平成26年度繰り越し分を含めて平成27年度では主として物品費と旅費に使用する。物品費では出張で携帯できる軽量のノートパソコンとスキャナーを購入する。旅費では人本主義を実践している企業の調査、中国を中心にした外国出張のための旅費を計上している。
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Research Products
(10 results)