2016 Fiscal Year Research-status Report
人本主義企業をめざす管理会計の研究ー付加価値管理会計の展開ー
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26380636
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Research Institution | Kansai University |
Principal Investigator |
水野 一郎 関西大学, 商学部, 教授 (70174034)
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Project Period (FY) |
2014-04-01 – 2018-03-31
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Keywords | 人本主義経営 / 付加価値会計 / 労働生産性 / サービス産業生産性協議会 / 中小企業 / 日本経営 / 喜久屋クリーニング / 道頓堀ホテル |
Outline of Annual Research Achievements |
本研究の目的は、筆者のこれまでの付加価値管理会計研究を基礎としつつ、人本主義経営をめざす企業の実態調査と理論的研究であった。平成28年度では、前年度の研究において取り組んできた人本主義と日本的経営に関する先行研究の歴史的・文献的な整理を引き続き実施し、各種資料や論文、著書も新たに収集してきた。それに加えて大企業だけではなく、中小企業、中堅企業において「人を大切にする経営」すなわち人本主義経営をめざしている企業にも焦点を当てて研究してきた。『2017年版中小企業白書』によれば,我が国の中小企業の企業数は380.9万者,従業者数は3,361万人であり,企業数では全事業者数の99.7%,従業者数では全従業者数の70.1%を占めている。 そのため平成28年度においても中小企業・中堅企業の実態を把握するため、中小企業に関する先行研究、各種資料をフォローし、インタビュー調査もいくつか実施してきた。医療分野のコンサルティングで存在感を高めている(株)日本経営、クリーニング業界で注目され、サービス産業生産性協議会が主催する「第1回日本サービス大賞優秀賞」を受賞された(株)喜久屋クリーニング、第6回「日本で一番大切にしたい会社」大賞審査委員会特別賞を受賞された(株)島田、ホテル業界でこれらと同様の各種の賞を受賞された(株)道頓堀ホテルなどいずれも中小企業・中堅企業であるが、人を大切にする人本主義経営で成果をあげている企業である。平成28年度ではこれらの会社を調査、研究してきた。とくに(株)日本経営では人本主義経営と同時に付加価値を重要な経営指標として利用していることがわかった。またTKCや政策金融公庫でも付加価値指標を利用して労働生産性の測定に今なお活用していた。なお人本主義と日本的経営の確立に重要な役割を果たしてきた日本生産性本部に設立されたサービス産業生産性協議会の活動にも注目してきた。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
平成26年度の研究では、明治期の渋沢栄一、昭和の出光佐三や松下幸之助など一部の経営者思想および戦後の日本生産性運動に注目し、とくに生産性運動の3原則(①雇用の維持拡大②労使の協力と協議③成果の公正な配分)が付加価値管理会計や人本主義企業をめざす管理会計との親和性が高く、日本の生産性運動が果たしてきた役割を評価してきた。平成27年度ではこれらを踏まえて、さらに中小企業、中堅企業にも目を向けて「人を大切にする経営」すなわち人本主義経営をめざしている企業を探求してきた。 平成28年度の研究活動では、上記の研究実績の項目で述べてきたように、過去2年間の研究活動を継承し、資料収集と文献研究に加えて、いくつかのヒアリング調査を実施してきた。そしてこれらの研究成果については論文発表だけではなく、学会やその他の研究会で積極的に報告し、議論を展開してきた。こうした研究成果の一部は、中小企業の管理会計に関する日本管理会計学会スタディ・グループや付加価値会計に関する日本社会関連会計学会のスタディ・グループの最終報告にも反映されている。さらに中小企業会計学会の課題研究員会にも引き継がれている。いずれの共同研究も筆者が研究代表を務めている。 また平成29年2月には国士舘大学で開催された「第2回優良中堅・中小企業研究シンポジウム」に出席し、研究報告を実施すると共に多数の中小企業経営者との意見交換をおこなってきた。 こうした活動によって「研究の目的」の達成度は、「おおむね順調に進展している」と評価できると判断することにした。ただ平成27年度調査では中国のハイアールへの訪問が残念ながら実現しなかった。そのため最終年度である本年6月には、安徽省合肥市に立地しているハイアールの冷蔵庫工場を再訪し、人本主義経営を中国で標榜しているハイアールのインタビュー調査を実現させ、この数年間の変化を調査する予定である。
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Strategy for Future Research Activity |
本研究の最終年度も資料の収集と文献研究は継続して行い、インタビュー調査も前年度に訪問できなかった関係企業や工場を訪問する。 日本生産性本部の設立に至る経緯や初期の活動について、これまでの日本生産性本部の各年史資料の研究によって、日本生産性本部の活動内容がきわめて多岐にわたっていたことがわかってきた。特に中小企業に対する日本生産性本部の理論的・実証的研究は、従来あまり取り上げられることがなかった。付加価値指標を重視し、付加価値計算書を提案した当時の日本生産性本部の取り組みをさらに解明することも重要である。またサービス産業生産性協議会を生産製本部内に設立させ、サービス産業の生産性向上に取り組んでいることにも注目したい。 人本主義経営や日本的経営は、大企業だけではなく、中堅、中小企業においても「人を大切にする経営」として一部では定着してきている。平成26年9月に「人を大切にする経営学会」が誕生したが、そこでの表彰制度は中堅、中小企業経営者に勇気を与えている。マスコミに広く取り上げられた伊那食品工業や未来工業だけではなく、喜久屋クリーニング、島田、日本経営、道頓堀ホテルなどに続く中小企業・中堅企業にも関心を持って研究していきたい。とくに日本は200年以上の長寿企業が世界のどこよりも多いことで有名であるが、短期的な利益の追求ではなくて家族主義的経営をベースにした長期的・持続的経営が長寿を可能にしたように思われるが、この長寿企業の研究も最終年度の研究課題の一つとしている。 また中国ではハイアール以外でも人本主義的経営を進め、成功している企業が出てきている。こうした中国の人本主義企業にも注目し、同時に反日暴動で多大な損害を受けたにもかかわらず人本主義的な経営を定着させている平和堂などの日系企業も引き続き調査し、人本主義経営とその会計的な表現としての付加価値管理会計の普遍性を探求していく。
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Causes of Carryover |
海外研究での調査研究が実現できなかったため。
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Expenditure Plan for Carryover Budget |
旅費で使用します。
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Research Products
(6 results)