2014 Fiscal Year Research-status Report
Project/Area Number |
26380663
|
Research Institution | Hokkaido University of Education |
Principal Investigator |
角 一典 北海道教育大学, 教育学部, 准教授 (10312323)
|
Project Period (FY) |
2014-04-01 – 2018-03-31
|
Keywords | 社会的企業 / 都市と周辺 / 自然環境保護活動 / 再生可能エネルギー |
Outline of Annual Research Achievements |
2014年度は、主に二つの調査を行い、以下のような知見が得られた。 第一に、釧路周辺で活動を行っている、NPOを中心とした社会的企業に関するデータ収集を行い、環境に関わる社会的企業に関する量的把握に向けての予備的調査・研究を行った。少なくとも釧路周辺では、釧路湿原など国際的にも高い評価を受けている自然環境保全活動や、身近な自然環境を保全する地道な活動を展開していた任意団体が、自治体の事業などを受託する関係で、必要に迫られてNPO化するような流れが目立ち、また、清掃活動などの地道な環境保護活動や環境教育が活動の中心になっており、また、団体規模も数十名程度が多数を占めることが、限定的なサンプルではあるが、確認された。 第二に、道北地域の稚内市・猿払村・浜頓別町における調査の結果、風況が良く、また、酪農などバイオマス資源に恵まれている同地域では、主に任意団体による再生可能エネルギー普及の活動が目立つことが確認された。他方、相対的に人口閑散地域である同地域では、人的・物的資本の相対的過少の影響で、NPOなどの組織化はあまり進んでおらず、市町村議会議員などの有力者が中心となった、法的人格を有しないレベルでの組織化にとどまっている傾向がみられた。 上記の傾向から判断すると、当然の結果ともいえるが、社会的企業の設立・運営には相応のスキルが必要となり、人的資本の集積に依存する度合いが高い傾向があり、相対的に人的資本に恵まれている都市部においては、地域住民の自主的で地道な活動から法的人格を得るような流れが作られ、相対的に人的資本に難点がある周辺地域での組織化は、有力者をコアにする傾向があり、また、組織化の水準も、法的人格の取得にまで発展することは稀で、任意団体としての活動にとどまる傾向がみられると考えられる。
|
Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
3: Progress in research has been slightly delayed.
Reason
究極の目標として、北海道における環境に関わる社会的企業の量的把握を目指した本研究計画は、残念ながら以下の3つの隘路に直面している。 第一に、計画段階では中間支援組織を主要なデータソースとすることを想定していたが、中間支援組織が把握している社会的企業の範囲は必ずしも広いものではなく、NPOに限っても、捕捉率は想定していた以上に低い。また、NPOのサポートが中心となってしまうために、一般社団法人や株式会社など、その他の形態で活動している組織に関するデータ収集は別の手段を考える必要がある点である。 第二に、データベースの構築にあたって必要な項目について、昨今の情報保護の観点から期待しているものが確実に入手できるわけでもなく、場合によっては代表者や事務所の連絡先すらも非公開になるケースも稀ではないことである。収集できる項目のブランクを埋めることが困難である場合には、調査・研究の範囲を縮小することも検討する必要があると思われる。 第三に、さらには、そもそも社会的企業をどのように定義するかという難しさもある。特に、一般社団法人や株式会社を想定した場合、どこまで網をかけるかを判断するのは簡単ではない。また、任意団体を社会的企業とみなすことが可能かどうかという点なども、明確に判断することは容易ではない。 これらが相俟って、当初想定していた研究を、計画通り忠実に続けていくには相応の困難が予想される状況にある。 その一方で、当初は想定していなかった、都市と周辺の比較や、日本における再生可能エネルギー普及という観点からの社会的企業の関わりという視座からの研究にも可能性を見いだせる状況が生じてきている。これらの可能性を活かした研究方針の見直しも考える必要があると思われる。
|
Strategy for Future Research Activity |
いくつかの困難を抱えている本研究であるが、まだ1年を経過したところでもあり、あらためて論点を整理しかつ課題のブレイクスルーを目指し、引き続き北海道における環境系の社会的企業に関するデータベースの構築に向けた調査・研究を進めていきたい。 他方、研究実績の概要にも記したように、都市と周辺の比較という、当初想定していなかった視点から一定の成果をまとめる方向性を見出すこともできており、また、国際的にも評価されるような豊かな自然環境があったり、環境あるいは産業の要因によって再生可能エネルギーに高い期待を持つことができる状況にあったり、地域環境のありように応じて、設立される組織の目的もかなり異なってくることも見受けられる。これらのような、新たな観点を導入して研究全体を再構成し直すことも検討して良いものと考えている。 さらには、道北地域における再生可能エネルギー開発に関わる事例については、ヨーロッパにおけるエネルギー協同組合のようなものと、日本における、市民のイニシアティヴによる再生可能エネルギー開発の比較という、かなり視点は異なるが、重要な知見を提供してくれるであろうテーマを内包している。したがって、重要なケーススタディのひとつとして、引き続き調査研究を進めていきたい。特に、再生可能エネルギーに関わる社会的企業については、過去に遂行してきた北海道空知地方における雪冷房を中心とした冷熱エネルギー利用に関する研究とも関連させることができるため、研究内容の発展の可能性は十分に見込めるものと考えられる。
|