2014 Fiscal Year Research-status Report
ポスト「原発依存」社会に向けた地域公共圏の構築についての研究
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26380673
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Research Institution | Niigata University |
Principal Investigator |
渡邊 登 新潟大学, 人文社会・教育科学系, 教授 (50250395)
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Project Period (FY) |
2014-04-01 – 2017-03-31
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Keywords | 公共圏 / コミュニティ / 原発 / ポストフクイチ |
Outline of Annual Research Achievements |
「ポスト福一調査」(立地地域として柏崎市・刈羽村有権者、周辺地域として長岡市有権者への意識調査)の検討を行い、事故後の原発問題への認識に大きな変化が見られること、地域間に原発再稼働をめぐる意識の格差があり、立地自治体では隣接地域より賛成意見が多いが、その内容は安全性の問題や雇用・経済問題だけでなく、地域の住民感情、アイデンティティとも関係しており、原発政策の見直しがコミュニティの再構築の問題と直接的に結びついていることが明らかとなった。 さらに、住民リーダーの認識を明らかにするために、2002年の同原発のトラブル隠しをきっかけに推進派・反対派を含めた討論の場として設立された他の立地地域に類例のない「地域の会」の委員(推進派、反対派、中間派リーダー)及び行政関係者に対する聴き取り調査を行い、以下のことを明らかにした。福島第一原発事故は住民の立ち位置の自明性を暴露する上では非常に重要な契機となったが、多くの場合、柏崎市の経済状況が原発に依存する側面が極めて大きいとの認識によって、現在の原発についての立場を変更する契機にはなり得ていないこと=原発再稼働を求める議論が多数であること、ただし、将来構想については「脱原発」と「脱原発依存」、「現状維持」に分かれるが、「現状維持」派でも過度な原発への依存を脱却する必要を説くこと、その意味では「脱原発依存」との距離が近いこと、「脱原発」「脱原発依存」もその地点への到達にどの程度のタイムスパンを考えるかで態度として重なりうることを把握した。彼らがほぼ共通して、多様な立場の市民が柏崎市の現状を見据えた上で討論を交わせる場の存在の重要性と、将来を構想しうる可能性をどのように高めていくかという認識に至っていることは注目すべきである。福島第一原発事故を受け止めつつ、地域社会の持続的可能性を現実化するための展望が一定程度開かれていると見ることが出来る。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
本研究は、国、地域社会が「脱原発」「原発維持」に様々揺れ動き、エネルギー政策、原発政策が変容しつつある過程のなかで、ポスト「原発依存」社会に向けた地域公共圏構築の可能性を検討することにある。そのために、第一にエネルギー政策の変容過程に規定されつつ、他方でそうした政策に影響を与える住民の生活意識、また今後の地域開発の在り方、コミュニティ意識などの変化を明らかにし、第2にそれらを基底とする地域公共圏の場として機能する具体的可能態における討議過程を詳細に検討する。前者の点については「ポスト福一調査」でのファインディングスで明らかにしつつあり、これに裏づけられた具体的可能態としての存立条件の検討を「地域の会」を事例として考察している。 本年度は、(「ポスト福一調査」と並行して行ってきた)「地域の会」メンバーに対する詳細な生活史に関する聴き取り調査によって、それぞれの生活史の中で(原発建設計画前後、プルサーマル導入に関する住民投票運動、原発震災前後に焦点をあてつつ)原発がもつ意味と場での立ち位置を明らかにしたが、この場がその諸主体の立ち位置の違いによる相克や反発の中でそれを了解しつつ、この場の成立・維持をどのように可能にしてきたのかを、141回に及ぶ定例会、148回の運営委員会の会議録の分析、それを裏づけるための聴き取り調査によって考察中である。 なお、比較対照としての韓国事例については原発関連施設計画地域、消費地域に関して、現地の地域リーダー、行政関係者への聴き取り調査や、収集してきた文献資料に関する分析を行ってきたが、日程の都合上、継続的な現地調査の実施が出来なかった。
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Strategy for Future Research Activity |
1 柏崎・刈羽地域において前年度と同様に「地域の会」を中心として行政関係者、原発推進派、反対派、中間派等のリーダー、サブ・リーダーへの聴き取り調査を継続する。さらに「地域の会」の議事録の詳細な検討を特に前年度に引き続いて行う。ここでは、同地域に関わる原発問題についての様々なイシュー(数次の原発トラブル隠し、中越地震、中越沖地震、東日本大震災(福島第一原発事故)等々)に焦点を絞り、時系列的な変容過程を考察する。 2 前年度の詳細な聴き取り調査に基づいて、周辺自治体(新潟市等)の住民に対して、生活意識、コミュニケーション行動、コミュニティ意識・行動、政治意識・行動、原発問題に関する態度等々についてサンプル数1,500 程度の郵送調査を行う。 3 福島県からの同地域への避難者の定着・移動等について聴き取り調査等で考察する 4 韓国での全羅北道扶安郡、「脱核首長の会」自治体への事例調査(行政関係者、地域リーダー、環境運動関係者への聴き取り調査)を継続して行う。 5 各地域住民の住民意識調査データの集計、分析を行い、当該地域(同士)また周辺地域との共通点、相違点を明らかにし、住民特性を押さえる。
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Causes of Carryover |
日本と同様に従来から積極的な原発推進路線をとり、電力の実質的な自由化を行っていない韓国を対象とし、原発立地地域・建設予定地域に焦点をあて、地域社会の住民の生活意識・生活構造、社会構造の「揺らぎ」(の可能性)を考察し、日本の事例の相対化を図るための対象地域としては、研究代表である渡邊が従来から調査研究を行ってきた全羅北道扶安郡(=放射性廃棄物処理場建設反対運動を自主管理の住民投票で白紙撤回させ、その後独自の地域づくりを展開しつつある)と「ポスト福一調」で明らかにした脱原発政策への地域政策を展開しつつある「脱核・エネルギー転換のための首長の会」(以下、「脱核首長の会」)の構成自治体とし、行政関係者、地域リーダー、環境運動関係者への聴き取り調査を今年度後半に予定していたが、本科研での現地調査は対象地域の事情等によって、今年度前半に行った「ポスト福一調査」のみとし、次年度に延期することとした。
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Expenditure Plan for Carryover Budget |
次年度に、今年度予定していた全羅北道扶安郡(=放射性廃棄物処理場建設反対運動を自主管理の住民投票で白紙撤回させ、その後独自の地域づくりを展開しつつある)と「ポスト福一調」で明らかにした脱原発政策への地域政策を展開しつつある「脱核・エネルギー転換のための首長の会」(以下、「脱核首長の会」)の構成自治体(ソウル市、順天市等)の行政関係者、地域リーダー、環境運動関係者への聴き取り調査を実施する。
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