2015 Fiscal Year Research-status Report
ポスト「原発依存」社会に向けた地域公共圏の構築についての研究
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26380673
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Research Institution | Niigata University |
Principal Investigator |
渡邊 登 新潟大学, 人文社会・教育科学系, 教授 (50250395)
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Project Period (FY) |
2014-04-01 – 2017-03-31
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Keywords | 公共圏 / コミュニティ / 原発 / ポストフクイチ |
Outline of Annual Research Achievements |
1.本年度は、周辺自治体として新潟市有権者に対して、生活意識、コミュニティ意識・行動、政治意識・行動、原発問題に関する態度等々について郵送調査を行い、「ポストフクイチ調査」(立地地域として柏崎市・刈羽村有権者、周辺地域として長岡市有権者への意識調査)との比較検討を行った。原発を容認する意見とリスクを重視し再稼働に反対する意見と個人の属性(年齢、性別、職業、学歴、年収、居住年数)との関連をみたところ、年齢による差異(この高年層より若年層で、また女性より男性で原発支持が強いという傾向)が見られた。これはポストフクイチ調査で見られた、立地地域(柏崎市・刈羽村)、周辺地域(長岡市)にかかわらず確認できた傾向と同様であった。ただ、新潟市においては高齢層(60代以上)にとどまらず、40代、50代の中年層女性の原発再稼働についての慎重な姿勢が目立った。さらに、注目すべきは原発再稼働に必要な地元合意の範囲をどのように捉えるかという点がある。長岡市、新潟市とも「地元」の範囲を立地地域としての柏崎市・刈羽村に限定することなく、より広く捉えている。長岡市民は同市を含めた30キロ圏内が最も多く(42.6%)、次いで新潟県全体(23.5%)、新潟市民は新潟県全体とする者が最も多く(37.0%)、次いで同市を含む50キロ圏内(32.2%)としており、地元認識はやや異なるが、少なくとも原発問題の当事者としての意識が高まってきていることが伺え、柏崎刈羽原発の再稼働問題において新潟県民の世論の動向が無視できない状況となっている。 2.福島県からの避難者の定着・移動等について、特に新潟市における当事者グループに着目して聴き取り調査を行い、地域社会において一定程度のソーシャルキャピタルの構築が図られていることが確認できた。 3.韓国での全羅北道扶安郡の収集資料、聴き取り調査結果を検討し、モノグラフとして整理した。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
3: Progress in research has been slightly delayed.
Reason
本研究は、国、地域社会が「脱原発」「原発維持」に様々揺れ動き、エネルギー政策、原発政策が変容しつつある過程のなかで、ポスト「原発依存」社会に向けた地域公共圏構築の可能性を検討することにある。そのために、第一にエネルギー政策の変容過程に規定されつつ、他方でそうした政策に影響を与える住民の生活意識、また今後の地域開発の在り方、コミュニティ意識などの変化を明らかにし、第2にそれらを基底とする地域公共圏の場として機能する具体的可能態における討議過程を詳細に検討する。前者の点については「ポスト福一調査」及び、本年度の新潟市調査でのファインディングスで明らかにしつつあり、これに規定されつつ裏づけられた具体的可能態としての存立条件(可能性)の検討を進める。本調査研究では「地域の会」を事例として考察している。 1.本年度は学務上の諸用件と地域の会の会義開催等が重なったために、「地域の会」への十分な聴き取り調査・参与観察を行うことが出来なかったので、参照モデルとして3.11後に誕生した再生可能エネルギーによる地域社会構築事例について資料を収集するとともに関係者への聴き取り調査を行った(南会津地域(会津電力)、新潟市(おらって新潟市民エネルギー協議会))。 2.全羅北道扶安郡、「脱核・エネルギー転換のための首長の会」自治体への事例調査(行政関係者、地域リーダー、環境運動関係者への聴き取り調査)を継続して行うことを予定していたが、学務上の都合で十分な時間が確保できず、現地調査を次年度に延期することにした。
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Strategy for Future Research Activity |
①前年度に引き続いて各地域の住民意識調査の比較検討・分析、行政関係者、住民リーダー調査の継続・検討に基づいて調査目標である原発震災後の原発立地地域として存立してきた地域社会の変容可能性(不可能性)とさらにポスト「原発依存」社会に向けた地域公共圏構築の可能性(不可能性)を、参照モデルとしての地域事例(南会津地域及び新潟市)と比較検討しつつ、明らかにする。 ②さらに、韓国での事例調査を継続して行うとともに、韓国事例との比較考察から、原発推進国における原発震災後の地域社会の変容可能性の共通性(一般性)、特殊性を抽出する。また、この成果を韓国において何らかの形で発表を行い、韓国の研究者からの積極的なコメントを受け、総括に活かす。 ③本申請者が主催者となって、研究者、政府関係者、自治体関係者、NPO関係者、及び関心を有する一般市民を対象とするシンポジウムを開催して、政策提言を行う。なお、シンポジウムの討論者には、関連研究者、自治体関係者、NPO及びNGOを招くことによりシンポジウムの公正かつ効果的な運営を図るようにする。 ④以上の3年間にわたる研究成果を広く社会に還元するために、研究終了後に研究の成果を書籍として出版する。このため、平成29年度の科学研究費助成金の出版助成金の獲得を目指して、継続的研究を続ける。
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Causes of Carryover |
日本と同様に積極的な原発推進路線を取り、電力の実質的な自由化を行っていない韓国を比較検討対象とし、特に地域社会に焦点をあてて考察をするために、研究代表者が従来から調査研究を行ってきた全羅北道扶安郡、「脱核・エネルギー転換のための首長の会」自治体への事例調査(行政関係者、地域リーダー、環境運動関係者への聴き取り調査)を継続して行うことを予定していたが、「現在までの達成度」で述べたように学務上の都合で十分な時間が確保できず、現地調査を次年度に延期することにした。
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Expenditure Plan for Carryover Budget |
次年度に今年度予定していた全羅北道扶安郡、「脱核・エネルギー転換のための首長の会」の構成自治体の行政関係者、地域リーダー、環境運動関係者への聴き取り調査を実施する。
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