2015 Fiscal Year Research-status Report
世界不況下の地域産業・企業のイノベーション動向に関する社会学的研究
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26380676
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Research Institution | Shizuoka University |
Principal Investigator |
藤井 史朗 静岡大学, 情報学部, 教授 (00145971)
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Project Period (FY) |
2014-04-01 – 2017-03-31
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Keywords | イノベーション / 海外進出 / 輸送用機器製造業企業 / 中小企業 / 東海地区 / 浜松 |
Outline of Annual Research Achievements |
平成27年度は、申請した研究実施計画に基づき、輸送用機器製造業企業のイノベーション・起業支援と海外進出動向についての浜松市・豊橋市の機関(商工会議所等)に対するインタビュー調査、浜松市の海外進出業7社へのインタビュー調査、東海3県(愛知県・静岡県・長野県)の同業種全企業(910社)への配布調査(164社回答、回収率18%)を実施し、これら調査結果への基礎分析、企業とイノベーションに対する原理的な考究を行った。 これらの調査により、①浜松市と豊橋市では、起業支援の考え方・方向性に違いがあり、浜松市では世界に発信して変革を目指す企業創出のために地域空間を整えること、豊橋市では、地域産業活性化を促す企業創出のための起業しやすい環境づくりなどに主眼があることが分かった。②浜松市の特にアジアへの進出を積極的に行っている企業へのインタビュー調査からは、リーマン・ショック以降、自らの努力で海外進出を企業成長につなげるより積極的な戦略が求められていること、その際に、現地従業員の積極的活用がカギを握っていることなどが浮き彫りになった。③東海3県の輸送用機器製造業全企業への郵送調査からは、国内にとどまりさらなる事業拡大を目指す企業群と海外に進出し新たな市場で事業拡大を目指す企業群とに分かれる(主に企業規模からなる)分水嶺の状況、各社のイノベーションへの取り組みは、どこもそれを推進し得る人材育成が課題ととらえているが、1次サプライヤーでは次世代自動車対応や異分野開拓、2次サプライヤーでは、生産加工技術向上の不断の取り組み、3次サプライヤーでは主要納入先からの要請に応じながらの不断の努力などが見られた。海外進出企業においては、現地従業員の文化・慣習をより踏まえた経営やローカル企業との付き合いを重視する志向性が見られた。 また最終まとめに向けての企業とイノベーションについての原理的考究を行った。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
おおむね順調に進展していると判断する理由は、①この研究企画のメインプロジェクトと考えていた東海3県の輸送用機器製造業企業全社に対して、対象企業の基本属性、近時の経営動向、海外進出・イノベーションの最近動向、これらにおける現状での課題、今後の展望などの諸要点についての郵送調査を実施し、164社からの回答(回収率18%)を得て、これらの基本的分析を実施できたこと、②本研究企画の中心の問題関心である「イノベーション」のこれら対象企業における現実内容と、これに対する分類などの把握方法において、大まかなイメージをつかむことができたこと、③本研究企画の根本的な問題関心に関わる、現代社会(世界)の中での「企業」の位置と意味、特にその「イノベーション」としての動きの大きな意味に関する理論的整理を、アカデミズムの世界で前提化しているマルクス理論の批判的相対化を介して、端緒的に行うことができた(藤井史朗「マルクス理論の批判的再検討と勤労者把握視点の模索」(静岡大学「情報学研究」第21巻、2015年))こと、等からである。 本年度はまとめとして、これまでの調査などからの知見を整理しつつ、主に理論的に、現代社会、企業、イノベーション、従業員、東海地域などの諸点からまとめていくことになるが、これらを社会学の概念整理とつなげることにより、より現実的な社会学の展開につながる予感も得ている。このようなことからおおむね順調に進展していると判断する。
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Strategy for Future Research Activity |
申請・承認時の本研究課題の研究目的・研究計画の全体、とりわけ2016年度の研究計画、全体のまとめとの関係で、以下のように今後の推進方策を立てる。 第1に、全体計画の中でいまだ調査・検討が未了もしくは不十分である課題への対応であり、①リニアモーターカー建設など新交通網整備が長野県飯田市の地場産業等に与えている動向と当地の新たなイノベーション動向の調査、②豊橋市の地域社会産業活性化に関わるイノベーション推進企業へのインタビュー、③国際動向に関わる日本政府のイノベーション政策の方向性に対する再整理などを行う。 第2に、2014年度(および部分的にそれ以前)以降現在までの調査研究に対し、今後の理論整理との関わりで再分析・再整理し、イノベーションの現実的展開を概念把握するとともに、方向性との関わりで理論的に整理する。 第3に、2015年度に着手した、マルクス理論相対化との関わりでの社会学的分析視点の展開について、現段階でのマルクス再評価の動向、現代社会の格差問題構造の評価視点、等との関わりからさらに推し進め、最終的な課題追求へとつなげる。
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Causes of Carryover |
2015年度は、大量配布調査の実施をメインとしたため、郵送費やデータベース資料購入費などの物品費が予定よりかなり増加し、他方、出張費がかなり減少した。また、最終年度に、これまでの累積された調査結果をまとめた報告書を印刷する費用がかなり予想されるため、印刷費用の相当額を残すようにしたという理由も全体に関わっている。
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Expenditure Plan for Carryover Budget |
2016年度は、飯田市・豊橋市などの調査出張費用に加え、報告書の印刷費用に予算の大半を使用する計画である。
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Research Products
(1 results)