2014 Fiscal Year Research-status Report
開発事業の中長期的評価――戦後日本のダム事例における受益圏・受苦圏の政策論的応用
Project/Area Number |
26380687
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Research Institution | Nagoya City University |
Principal Investigator |
浜本 篤史 名古屋市立大学, 人文社会系研究科, 准教授 (80457928)
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Project Period (FY) |
2014-04-01 – 2017-03-31
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Keywords | 公共事業 / 開発プロジェクト / 政策評価 / 住民移転 / 生活再建 |
Outline of Annual Research Achievements |
本研究の目的は、公共事業の中長期的な政策評価を社会学的観点から行うことに設定している。ダム事業の計画前段階から補償交渉を経て工事着工、さらには事業竣工後(あるいは中止後)一定期間の約50年~70年を調査対象期間に含め、三事例(御母衣、徳山、川辺川)を題材とする事業評価モデルを示すことが目標であり、その手がかりとして、舩橋晴俊らによる受益圏・受苦圏論を捉え直す作業をおこなう。 この目的に向けて、平成26年度は、御母衣、川辺川を中心とした事例調査を継続する一方、過去に蓄積していた研究成果の発表機会もあり、これを通じて関係者とのネットワークも広がり、本研究の土台固めをおこなうことができた。また、本研究課題に取り組む前段階の作業して、ダム建設の社会的影響モデル(暫定版)を検討していたが、これらの大枠を以下にまとめることもできた。本研究のベースとなる部分である。 A)予定地としての影響(ダムへの態度をめぐる家族内、地域内の人間関係悪化/生活設計の見通し不透明)、B)生活再建における影響(雇用・家計上の問題/故郷喪失感/生活不適応による健康不良)、C)水源地活性化をめぐる影響(活性化施設の維持管理、活動維持の困難/レジャーをめぐる時代環境への適応/世代交代の必要性/ダム事業の歴史、負の問題が風化/普遍的問題としての地域の持続可能性)、D)事業見直しによる影響(移転理由および自己存在の揺らぎというアイデンティティ問題/さらなる生活設計の混迷化/是非論における当事者の疎外化)、E)事業中止の影響(振り回されたことへの憤りと不信感/慰謝料支払い、および地域振興策の要求と諦念/道路整備等による二次移転あるいは土地買収をめぐる亀裂/普遍的問題としての地域の持続可能性) また、各事業の時代的背景として、戦後の電源開発と海外の資金援助の関係が重要であることがさらに確認され、世銀関連などの資料収集を深めた。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
平成26年度は、当初の予定では、3つの事例調査に力点を置く予定であったが、3つの学会報告のほか各研究会での報告機会に恵まれ、これを通じて先行研究との関連における本研究の位置づけをさらに明確化させると同時に、受益圏・受苦圏概念の検討を予想以上におこなうことができた。 一方、3つの事例のなかで、徳山ダムの事例調査は資料面での検討にとどまり、現地調査を進めることができなかった。当初の計画に対して、このように部分的には凹凸がありながら、全体としては非常に順調に進んでいるといっていいだろう。
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Strategy for Future Research Activity |
当初の3年間の研究計画は、前半に事例調査を集中的に終わらせ、その後に理論的検討をおこなう予定であった。平成26年度はむしろ理論的検討を深める機会が多く与えられたため、平成27年度には事例調査のやり残しがあるが、3年間の全体的な計画としては特に問題ないので、これまで通りに進めていく。
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