2016 Fiscal Year Research-status Report
「マタニティ・ハラスメント」に関する調査研究―労働領域における「多様な身体性」―
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26380704
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Research Institution | Saitama Gakuen University |
Principal Investigator |
杉浦 浩美 埼玉学園大学, 人間学部, 講師 (90639056)
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Project Period (FY) |
2014-04-01 – 2018-03-31
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Keywords | 妊娠・出産ハラスメント防止規定の検討 / 企業におけるマタニティ・アハラスメント防止措置 / 職場における妊娠・出産の権利 / 韓国におけるマタニティ・ハラスメント |
Outline of Annual Research Achievements |
本研究計画は開始当初、大きく3つの課題を掲げていた。1)大規模調査に向けた調査票の開発・作成、2)「マタニティ・ハラスメント防止規程」の検討、3)「多様な身体性」の追究、である。このうち今年度は、第2の防止規程について、国の法制化を受け、より具体的な作業をおこなった。2016年の均等法改正によって「妊娠・出産ハラスメント」の防止が企業に義務づけられ、2017年1月から施行されている。こうした動きを受け、法制化過程の検証、防止法の射程とその意義、さらに防止法の不備や問題点を明らかにし、今後の法改正に向けた動きにつなげていくことを作業課題とした。そこで、厚生労働省の指針の検討、今回の防止法ではカバーされなかった問題点の指摘等を行った。これらについては、2本の論文(「マタニティ・ハラスメント防止措置義務化にむけて「指針」を検討する」「働く妊婦の「就業環境」を考える」)を執筆している。また、ジェンダー視点からの「働き方改革」を政策提言するグループ・ポジネット(研究者、実践家、弁護士等で構成されている)の労働ワーキングチームに参加し、「妊娠・出産する権利の保障」というを項目を担当、政策提言としてまとめた。これは「女性も男性も人間らしく働ける社会を」という冊子の一部として収録されている。 作年度に実施した韓国調査であるが、本年度は、そこで持ち帰った資料や韓国で実施された各種調査の報告書等の分析作業にあたった。特に韓国で2014年度に報告されている『女性管理職パネル調査』とソウル市で毎年報告されている『ワーキングマザー相談事例集』の妊娠・出産関連項目に着目し、母性保護制度の実施状況や妊娠中の職場での経験等について、分析を進めている。まだ、必要箇所の翻訳作業がすべて完了しておらず論文執筆には至っていないが、今後取り組む予定である。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
3: Progress in research has been slightly delayed.
Reason
本研究は、今年度がまとめの年となるはずであったが、1年間の研究期間の延長を申請した。以下がその理由である。 1)マタニティ・ハラスメントに関する国の取り組みが進展したことを受け、それに対応した形で、本研究も軌道修正をしている。特に今年度は、均等法改正による防止措置の義務化と施行を受け、それら法をめぐる動きについての論文執筆、政策提言、研究会等での報告が、主たる作業となった。さらに、1月からの施行を受け、職場の取り組みの実態や管理職の意識の変化についても、調査研究をしたいと考えている。研究計画を立てた当初は、防止法のスピーディな施行については予測できていなかったが、今回の法制化を受け、既に実施している職場の意識調査等も用いながら、防止法施行以前と以降の職場の変化について研究課題として取り組みたいと考えている。 2)韓国調査については、まだ論文執筆ができておらず、やや遅れ気味である。これは、韓国で収集した資料や調査報告書が多岐にわたっているため、翻訳に必要な箇所を検討する作業に時間を要し、翻訳作業がまだ完了していないからである。研究者自身が翻訳する能力を持ち合わせてはいないため、翻訳は依頼をしてすすめているが、確認しながらの作業のため、現在も翻訳作業が継続中である。既にあるデータの分析・検討をすすめながら、論文執筆に取り組みたいと考えている。
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Strategy for Future Research Activity |
1)研究延長期間を有効に生かし、「マタニティ・ハラスメント防止措置義務化元年」の意義と課題を明らかにしたい。防止措置義務化がもたらす効果と、逆に「意図せざる結果」として生じる新たな問題について、指摘していきたい。 2)女性労働者支援にあたっているNPO法人から、団体に寄せられているマタニティ・ハラスメントに関する相談事例の分析を依頼されている。これらの相談事例分析はこの3、4年、大きく動いてきたマタニティ・ハラスメント問題を検証する意味でも意義ある作業と考えている。本研究にも生かす形で取り組みたいと考えている。 3)韓国調査で得られた知見を用い、「マタニティ・ハラスメント」が単に、日本の職場文化の問題にとどまらないこと、それが、労働領域における女性の身体性の問題であることを明らかにしたい。 4)これらの作業が「労働領域における多様な身体性」という本研究が抱げるテーマの成果とつなげられるよう取り組んでいく。
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Causes of Carryover |
韓国調査でもちかえった資料と報告書についての翻訳は、どの部分を翻訳してもらうかは、ひとつひとつ確認しながら依頼を行っている。そのため、翻訳料をすべて消化することができなかった。
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Expenditure Plan for Carryover Budget |
引き続き、資料と報告書の翻訳料として使用する予定である。さらに、研究期間を1年間延長したことによる、新たなヒアリング調査も計画しており、その調査に用いる予定である。
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