2016 Fiscal Year Annual Research Report
Sociology of transitional justice
Project/Area Number |
26380718
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Research Institution | Otani University |
Principal Investigator |
阿部 利洋 大谷大学, 文学部, 教授 (90410969)
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Project Period (FY) |
2014-04-01 – 2017-03-31
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Keywords | 社会学 / 移行期正義 |
Outline of Annual Research Achievements |
本研究は、従来、法学・政治学を中心として研究が蓄積されてきた移行期正義(TJ)プログラムに対して、社会学的なアプローチから新たな知見を提供することを目的として遂行された。とりわけ、これまでの研究動向を通覧する中で、実施国を問わず、TJに対する批判的な評価が大多数を占める点に注目し、政策評価とは異なる観点からTJを理解するフレームワークを模索することを出発点とした。その際には、1.TJが実施される文脈としての移行期社会の社会学的な認識と、2.TJ実施に伴う社会的反応の社会学的な分析、を具体的な方向性として調査計画を立案した。最終年度は、南アフリカおよびカンボジアで、ポストTJの社会状況という観点から現地調査を行った。 研究期間を通じて明確になったことは、(1) TJの分析は移行期社会の条件を反映させる形で行う必要があるということと、結果として(2) TJの分析が当該移行期社会の分析になるという認識である。この点に関して、本研究の調査を通じて明らかになったのが、従来「TJの失敗」と評されてきた現実と並行して、ローカル社会の直接・間接のアクターが、比較的自律的な活動を、場合によってはTJプログラムの不十分な遂行を補足するかのように展開させる実態が頻繁に確認されるという事実である。これは、TJプログラムの成否に視野を絞っていると認識の対象外とされる事例であるが、移行期社会という枠組みから位置づけることで、その性格を同定できるようになる。本研究では、平成26年度の開始時において検討していた社会運動論に加えて、ドラマトゥルギー論のアプローチを採用することで、こうした「TJの意図せざる結果」を比較社会学的な観点から把握し、かつ今後のTJプロジェクトの分析に応用しうる知見として提示することができた。なお、これらの一連の考察・分析は英文書籍の原稿としてまとめ、現在出版申請中である。
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