2014 Fiscal Year Research-status Report
近代的コンサートの芸術性と劇場性に関する社会学的研究
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26380721
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Research Institution | Ritsumeikan University |
Principal Investigator |
宮本 直美 立命館大学, 文学部, 教授 (40401161)
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Project Period (FY) |
2014-04-01 – 2017-03-31
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Keywords | 音楽社会学 / 文化社会学 / コンサート / 正典 / 劇場性 / 自律美学 |
Outline of Annual Research Achievements |
本研究は近代ヨーロッパのコンサートシステムを劇場性という視点から考察することを目的とし、器楽コンサートとオペラ(ジャンルとしてのオペラと「オペラ的」な諸要素)の関わり、およびそれらのジャンルを支持する社会層の構造を解明するものである。平成26年度は国内の図書館およびロンドンの図書館・資料館で19世紀の器楽コンサートとオペラ上演に関する資料収集を行った。各地のプログラム構成からは当時の人気演目と後世の音楽史記述との違いが明らかになるだけではなく、シンフォニー・コンサートと呼ばれるものでさえ、そのプログラムが現在のフォーマットに定着するまでに数十年かかっていたことが分かる。当時の音楽雑誌における音楽観の記述とコンサートの現場は必ずしも直接連動してはおらず、聴取態度の変化にはタイムラグが存在していたことも確認できる。また、断片的ながらイギリスのリゾート地におけるプログラムと出演者に関する資料を得たことで、首都ロンドンと地方都市との関係を確認することができた。こうした資料は大都市のコンサート形態が各地に普及していった過程を明らかにするものとして今後の考察に有益である。コンサート・プログラムの構成が一都市だけの現象ではなくヨーロッパの各地で共通になってゆく過程もこれらの資料から追跡することができる。 また、近代ヨーロッパのコンサート文化が明治時代の日本に輸入された経緯についても同時に調査を進めた。この領域に関しては本研究課題の一部として、7月に横浜で開催された国際社会学会において、19世紀以来のドイツ文化圏の器楽観に基づく自律音楽思想が戦後日本の音楽学に与えた影響について報告を行った。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
平成26年度は特に19世紀イギリスのコンサート事情に関する資料にあたり、これまで筆者が扱ってきたドイツ語圏の状況との異同を確認することができた。プログラム構成を調査して分かることは、記者のフィルターを通して書かれた音楽雑誌上のコンサート報告とは様相が異なるということである。本研究は音楽について主張されていたことと、実際に聴かれていた音楽との違いを考察するものであり、それを確認しうる資料調査が進められたことで当初の計画に沿って研究を行うことができている。 平成26年度は本研究課題の初年度ではあるが、派生的なテーマとして、日本の音楽学がドイツ音楽学から受けた影響について国際学会で発表できた。これは今後の研究遂行においても有益である。
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Strategy for Future Research Activity |
今後も引き続き、19世紀のコンサート事情に関する資料調査を行う。特に、美学言説とコンサート現場との異同を確認するだけではなく、両次元の受け手である読者と聴衆の層についても調査と考察を進める。また、ロンドン、パリ、ベルリン、ライプツィヒといった音楽市場として重要な都市が徐々に画一化してゆく過程を、プログラム等の地理的普及の面から確認してゆく予定である。さらに、コンサートと劇場の経営面にも着目し、現在のコンサート形態を可能にした条件を構造的に理解しうるよう考察を行う。 平成27年度は音楽文化のパトロネージュに関するテーマについて国際学会で発表する予定である。
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Research Products
(5 results)