2015 Fiscal Year Research-status Report
近代的コンサートの芸術性と劇場性に関する社会学的研究
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26380721
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Research Institution | Ritsumeikan University |
Principal Investigator |
宮本 直美 立命館大学, 文学部, 教授 (40401161)
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Project Period (FY) |
2014-04-01 – 2017-03-31
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Keywords | 音楽社会学 / 文化社会学 / コンサート / 正典 / 劇場性 |
Outline of Annual Research Achievements |
本研究は近代ヨーロッパのコンサート制度形成の過程を劇場性との関わりから考察することを目的とし、器楽コンサートとオペラの密接な関係とそこに集う聴衆の社会層の構造を解明するものである。平成27年度は国内の図書館およびロンドンの図書館・資料館で19世紀の器楽コンサートとオペラ抜粋演奏に関する資料収集を行った。とりわけ、従来の音楽史研究が扱ってこなかった「プレイビル」「コンサートビル」と称される公演広告は、その視覚的アピール効果と楽曲配列(プログラム)の意味をさぐる重要な資料となった。そうした資料から、コンサートにおいては器楽曲と声楽曲(オペラの楽曲)が不可欠な構成要素となっていたこと、また1回のコンサートではより多くの聴衆を集めることが興行を支えていたためにプログラムをできるだけ多様にすることが目指されていたことが分かる。これらの商業的な傾向を改めようと、19世紀前半に一部のコンサート協会がまじめな交響曲を軸とするプログラムを始めたが、いくつかの交響曲が芸術音楽の「クラシック」レパートリーとして確立する中で、それらをより多くの聴衆に広めようとするコンサート活動も確認できた。これは「クラシック音楽」の「ポピュラー化」の試みでもあり、19世紀半ばまでは「芸術音楽」と「ポピュラー音楽」の明確な区分は行われていなかったということでもある。このような多様な公開コンサートの広がりによって、まじめな音楽である器楽(特に交響曲)が一部の教養市民の間だけではなく、より広い社会層にも音響として浸透していったことが確認できた。平成27年度にはこれらの成果を単行本にまとめて出版した。 また、19世紀ヨーロッパのコンサート研究の一方で、日本におけるクラシック音楽とポピュラー音楽の受容を、文化政策から考察して国際学会で発表を行った。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
本研究の成果を出版する予定は平成28年度としていたが、コンサート成立過程については、ほぼ資料調査を超えたタイミングで出版社と話し合った結果、出版計画を前倒しして公表こととした。本研究全体の計画からすれば成果の一部となるが、まとまった著作物としては一つのテーマとして独立させるに足る内容である。本研究のもう一つの重要な軸となる劇場性の問題については、コンサート成立過程との関連を意識しつつ、引き続き資料調査と考察を進めていく予定である。
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Strategy for Future Research Activity |
コンサート成立過程において劇場が重要な役割を果たしたことは明らかにしたが、今後は当時の言説において批判対象となっていた「劇場性(劇場的なるもの)」が市民文化活動においてどのような意味を持っていたのかという問題について調査を行う。当時の「劇場性」がどのように使用されていたのかを、社会学・美学・文化人類学の理論を参照しながら、当時の資料を分析する。
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Causes of Carryover |
平成27年度の海外出張は平成28年3月19日に終了し、3月20日に出張報告を行ったため、会計書類上は次年度の扱いとなったため。
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Expenditure Plan for Carryover Budget |
平成27年度に支出を予定していた研究費は平成28年3月末までに執行済みである。
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