2015 Fiscal Year Research-status Report
特別養子制度研究――児童福祉理念の新たな構築とその社会学的意義
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26380733
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Research Institution | Kwassui Women's College |
Principal Investigator |
園井 ゆり 活水女子大学, 文学部, 准教授 (40380646)
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Project Period (FY) |
2014-04-01 – 2017-03-31
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Keywords | 特別養子制度 / 社会的養護 / 児童福祉 / パーマネンシー理念 |
Outline of Annual Research Achievements |
本研究の目的は、特別養子制度発展のための効果的方策を「意識的要因」と「制度的要因」の2点から分析することである。今年度は、特別養子制度停滞における「制度的要因」に対する分析を、平成20年より継続中の里親に対する聞き取り調査に基づき行った。聞き取り調査は、主に特別養子縁組を行う予定の児童を委託中の養子縁組里親、又は過去に特別(普通)養子縁組を行った養子縁組里親を対象に遂行中である。現在までの結果(対象里親数55世帯)からは、特別(普通)養子縁組を行った(行う予定の)里親は25世帯である。 この25世帯の養親を対象に、イ)養子縁組成立後の養親に対する養育支援策の必要性、ロ)民間の養子縁組斡旋制度に対する統一基準の必要性、ハ)養子にすべき児童が要保護状態のまま放置される状況を是正するための制度の必要性の3点から考察を行った。 その結果、イ)については、25世帯の養親全てが縁組締結後も引き続き各地域の里親会に所属し、養子児童の養育(例えば「真実告知」の方法や時期等)について相談できる体制を必要としていることが明らかになった。ロ)については、25世帯中3世帯が里親会以外の団体や個人から養子を得ていた。本調査は里親会の協力を得て行ったため、里親会を経由せず養子を得た件数は限られているが、斡旋費用は3世帯でそれぞれ異なっており、統一的な基準を構築する必要性が明らかになった。ハ)については、対象里親数55世帯において委託中の児童88件のうち、委託期間が3年以上に及ぶ場合が36件に上った(7年以上の場合も5件あった)。確かに同一の里親家庭への長期委託は安定的であり、児童の養育上有効な形態であると考えられる。しかし、特に実親家庭復帰の見込みがない児童については、児童に実親家族にかわる永続的な家族を保障することが肝要であり、早期に養子縁組家庭を探す必要性があることが課題として浮かび上がった。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
現在までの本研究の達成度としては、おおむね順調に進んでいる。今年度は、特別養子制度発展のための効果的方策を「制度的要因」の観点から分析した。分析は、平成20年より継続中の里親に対する聞き取り調査に基づき行った。 その結果、次の3点が明らかになった。第一に、特別養子縁組を行った養親は、養子縁組後の児童の養育について、各地域の里親会活動等を通し、養育相談等の支援を必要とすること、第二に、要保護児童の養子縁組を民間の斡旋業者等を通して行う場合は、養子斡旋に対する統一的な基準を早急に設ける必要があり、それに要する費用も公的に負担することが妥当であることが提案されること、第三に養子にすべき児童が実親側の事情等により要保護状態のまま18歳に達するまで児童養護施設等に放置されることを防ぐため、実親が養子縁組に応じやすい制度(例えば、欧米では既に行われている、縁組後の実親と養子児童の交流を保障する「オープン・アドプション制度」等)を構築することが有効であること、という3点が明らかになった。「オープン・アドプション制度」の主眼は、養子縁組によって児童に新たな家族を提供することにより、児童の福祉を保障することにある。以上、特別養子縁組制度を推進するための制度的観点からみた方策としては、特別養子縁組に関わる当事者(特に養親及び実親)を支援する制度の構築が特別養子制度の促進に結び付くのではないか、ということが指摘できる。
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Strategy for Future Research Activity |
今後の研究についても概ね研究計画通り進める。次年度はこれまでの研究成果をふまえ、次の2点を研究目的に据える。第一に、日本の特別養子制度停滞に関するこれまでの研究を総括し、特別養子制度発展のための提言を行う。第二に、H26年10月からH27年9月までの間、米国ボストン大学で実施した養子制度研究の成果を反映させ、日本の児童福祉の理念的基盤としてパーマネンシー理念を提示する。 第一の点については、特別養子制度が停滞する要因を本研究では「意識的要因」と「制度的要因」の側面から検討した。前者の分析からは、養親は、養子縁組里親となった動機の如何に関わらず、親子関係における血縁の存在を絶対視せず、養子対象児に対する選別(健常児を希望する等)も行わない傾向にあることが確認された。以上から、今後は養親候補者の動機に関わらず、養親数を増加させることが養子制度を発展させるための効果的方策であることを示す。 後者の分析からは、養親は特別養子縁組締結後も児童の養育に際し養育相談などの支援を必要としていること、家庭復帰の見込みのない児童については、養子縁組候補児として新たな養親家族を探すことが児童の福祉を達成するために必要であることが確認された。以上から、今後は国による養親支援制度を体系的に実施することに加え、養子縁組後の実親と養子児童との交流を保障するオープン・アドプション制度を構築することが養子制度を発展させるための効果的方策であることを示す。 第二の点については、(要保護)児童の養護目標として永続的、安定的な家族を児童に保障しようとするパーマネンシー理念を日本の児童福祉の理念的基盤として提唱する。これは、欧米等では既に遂行されている理念であり、児童に法的親子関係と安定的な家族とを保障しようとするものである。ゆえに、パーマネンシー理念は、今後の児童福祉施策の根幹として位置づけられ得ることを示す。
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Causes of Carryover |
今年度は、平成27年9月まで(平成26年10月より)フルブライト客員研究員として米国ボストン大学社会学部において米国の養子制度に対する研究をあわせて行った。従って、米国での在外研究中、本研究の遂行に要した今年度相当分(平成27年4月~平成27年9月)の経費(旅費、物品費、謝金等)の一部は次年度に繰り越すこととなったため、次年度使用額が発生した。この次年度繰り越し分については、次年度の研究計画に従い使用する予定である。
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Expenditure Plan for Carryover Budget |
次年度は、米国での在外研究中、本研究の遂行に要した今年度相当分(平成27年4月~平成27年9月)の経費(旅費、物品費、謝金等)を繰り越し、次年度の研究計画に従い使用する予定である。次年度の目標は、第一に日本の特別養子制度停滞に関する前年度までの研究を総括し、特別養子制度発展のための提言を行うことである。第二に、米国での養子制度研究の成果を反映させ、日本の児童福祉体系の理念としてパーマネンシー理念を提示することである。この二つの目標の遂行において必要な経費を研究計画に従い使用する予定である。
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