2016 Fiscal Year Research-status Report
特別養子制度研究――児童福祉理念の新たな構築とその社会学的意義
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26380733
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Research Institution | Kwassui Women's College |
Principal Investigator |
園井 ゆり 活水女子大学, 文学部, 教授 (40380646)
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Project Period (FY) |
2014-04-01 – 2018-03-31
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Keywords | 特別養子制度 / 社会的養護 / 児童福祉 / パーマネンシー理念 |
Outline of Annual Research Achievements |
今年度は、研究の最終年度として次の2点を行った。第1に日本の特別養子制度停滞に関するこれまでの研究を総括し、特別養子制度発展のための提言を行った。第2に日本の児童福祉の理念的基盤として「パーマネンシー理念」を提示した。 第1の点については、特別養子制度が停滞する要因を本研究では「意識的要因」と「制度的要因」の側面から検討した。前者の分析からは、養親、養子縁組里親となった動機に関わらず、親子関係における血縁の存在を絶対視せず、養子対象児に対する選別(健常児を希望する等)も行わない傾向にあることが確認された。以上から、養親候補者の動機に関わらず、養親数を増加させることが養子制度を発展させるための効果的方策であることが示された。後者の分析からは、養親は特別養子縁組締結後も養育相談などの支援を必要としていること、児童が要保護状態のまま長期間放置されることを防ぐため、実親が養子縁組に応じやすい制度を構築する必要があることが確認された。以上から、今後は国による養親支援制度を体系化すること、および養子縁組後の実親と養子児童との交流を保障する「オープン・アドプション制度」を新たに構築することが養子制度を発展させるための効果的方策であることを示した。 第2の点については、要保護児童の養護目標として永続的、安定的な家族を児童に保障しようとするパーマネンシー理念を日本の児童福祉の理念的基盤として提唱し、本理念が今後の児童福祉施策の根幹として位置づけられ得ることを示した。その上で、本理念により貫かれた児童福祉体系下に特別養子制度を位置づけ、特別養子制度が要保護児童の養育に対して果たす機能を明らかにした。本体系下で特別養子制度は、要保護児童に法的親子関係を保障する点で、(特に家庭復帰の見込みのない)児童に対しては最優先される養護目標と位置づけられ、児童に安定的な家族を提供する役割を果たす。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
現在までの本研究の達成度としては、おおむね順調に進んでいる。今年度は、研究最終年度として、前2年間の研究成果を受け、特別養子制度発展のための分析と提言を行った。その上で、要保護児童の福祉増進を目的とするパーマネンシー理念を提起し、要保護児童を含めた児童全般の養育に関する児童福祉の理念的体系を明示すると同時に、本体系下における特別養子制度の位置づけ及び機能を明確にした。 特に、パーマネンシー理念に基づく児童福祉体系の構築においては以下の点を明示した。要保護児童の委託は、第1に、実親家庭復帰(家族の再統合)が目指され、それがかなわない場合は、第2に、養子縁組(あるいは法的後見)に基づく委託が検討される。これらのいずれもかなわない場合は、第3に、里親(親族里親ないし養育里親)への委託が検討される。施設養護のもとへの委託は最終的な手段として選択される。また、これらの委託は、児童の福祉を早期に達成するため、期限を明確にした処遇計画のもとで遂行される。 したがって、特別養子制度は、本体系下においては(特に家庭復帰の見込みのない要保護児童については)最優先されるべき養護目標と位置づけられ、かつ児童に安定的な家族を提供する役割を果たすことが明らかになった。
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Strategy for Future Research Activity |
今後の研究についても研究計画通りに進める。次年度は、これまでの研究成果をふまえ、特別養子制度と同様に家庭養護の一環である「ファミリーホーム制度」(小規模住居型児童養育事業)(以降、FH制度)に着目し、本制度の発展に向けた効果的実践方策を意識的要因と制度的要因において分析し、提言する予定である。 FH制度は家庭養護を促進するため2008年に新設された制度である。創設以来、FHの事業所数、FHへの委託児童数とも増加傾向にあるが、第1に、養育者の養育に関する意識の分析、第2に、FH制度の制度的整備の分析、第3に、FH制度の児童福祉体系下における位置づけおよび3つの家庭養護制度――里親制度、養子制度、FH制度――間の機能的連関に関する分析が不十分である。そのため、特別養子制度の継続発展研究としてFH制度研究を行い、最終的に家庭養護を中心とした児童福祉体系を構築する予定である。
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Causes of Carryover |
今年度は、研究の遂行上、里親の役割取得過程の分析に関し、より詳細な調査研究と資料収集が必要になったため、謝金、旅費の一部を次年度以降に繰り越す。具体的には、現在、研究課題内容を理論的に発展させた上で、米国社会学会誌への投稿論文を執筆中である。本論文は、次年度中に完成させ投稿予定であるが、投稿に際し、英文校正等のための費用を必要とする。また、関連資料の収集及び調査研究のため、次年度に米国社会学会参加を予定しており、そのための費用を必要とする。
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Expenditure Plan for Carryover Budget |
次年度繰り越し分については、次年度の研究計画に従い使用する予定である。まず、研究成果発表の一環として米国社会学会誌へ論文を投稿予定であり、英文校正等のための費用として繰り越し分を使用予定である。次に、里親活動における役割取得理論に関する更なる資料収集及び調査分析を行うため、米国社会学会参加費用として使用予定である。
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