2014 Fiscal Year Research-status Report
記憶障害を呈した若年脳損傷者の生活支援、社会支援に関する研究
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26380765
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Research Institution | Tokyo University of Social Welfare |
Principal Investigator |
先崎 章 東京福祉大学, 社会福祉学部, 教授 (20555057)
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Co-Investigator(Kenkyū-buntansha) |
浦上 裕子 国立障害者リハビリテーションセンター(研究所), 病院第一診療部, 医長(研究所併任) (00465048)
大賀 優 東京医科大学, 医学部, 講師 (10251159)
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Project Period (FY) |
2014-04-01 – 2017-03-31
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Keywords | 記憶障害 / 高次脳機能障害 / 脳外傷 / 若年 / 長期経過 / 復職 / 復学 |
Outline of Annual Research Achievements |
研究者が所属している3つの施設で、関わっている記憶障害を呈する比較的若年の脳損傷者の対象者に年齢層や重症度の違いがあるため、まずはデータ連結を主眼にはおかず、各施設で関わる対象層の特徴を活かした記憶障害研究を、施設ごとに本年度は行った。 「疾患別、介入時期別の記憶障害の経過の違い」「記憶障害を訴えながらも心的要因が強い患者群の検討」を先崎章(埼玉総合リハ)が担当。継時的な記憶検査結果から、低酸素脳症の改善率が最も低かった。数年程度の経過後にリハを行った例でも、代償手段についての指導により数例では検査上も改善がみられた。記憶障害の訴えの背景として、身体表現性障害を合併している例がある。両側視床内側部梗塞後にうつを合併した例でも心理的な面への配慮が必要。 「記憶障害を呈した若年脳損傷者に対する就労・復学にむけたリハ」について浦上裕子(国立障害者リハ)が担当。過去7年間に復学を目標にリハを行った就学者60例を検討。復学率は80%と高いが、その後の進学・就労において多くの支援が必要。高校生では、WAIS-IIIのFIQやWMS-Rの遅延再生(記銘力)と予後が関連。大学生では、認知機能障害が軽度であっても、進学・就労などの環境変化にて適応障害を起こすことが多い。医学的再評価、短期間訓練対応、生活訓練課程での就労準備性に対する訓練、職業リハなど、支援の連携が社会参加につながる。 「学童期以降の小児頭部外傷後高次脳機能障害、記憶障害の長期予後QOL」を大賀優(茨城医療センター)が担当。小児頭部外傷14例を分析した結果、全例に記憶障害、12例に注意障害。知能指数正常化2例を含む復学進学8例において深刻な成績低下。学童期以降の小児頭部外傷後高次脳機能障害において高頻度かつ長期的に後遺する記憶障害に対し、将来的なQOL低下を防ぐうえで効果的なリハ技法の開発や教育機関を含めた継続的な支援介入が必要。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
3: Progress in research has been slightly delayed.
Reason
「当初意図していたデータを連結することが難しいことが判明した点」記憶障害を呈した若年脳損傷者を対象とする生活支援、社会支援に関する研究を意図しており、対象者は小児や未成年者など青年期程度までの層でしかも長期的な経過を追える者を想定していた。しかし、研究者の関係している施設において運営方針の変更があり、若年者の取り扱い例が少なくなり、長期経過を追いにくくなり、対象者を吟味しデータや神経心理学的検査や評価方法を均一化することが難しくなった。そのため今後の調査対象者と調査内容を探るための目的も兼ねて、本年度は施設ごとの対象者の検討とならざるを得なかった。すなわち、データの連結を意図していた当初の計画目的については遅れていると言わざるを得ない。 しかし一方、施設を超えて研究を行う際にデータ連結に主眼をおきすぎると、症例に特徴的な細かな神経心理学的検査結果や日常生活状況評価の結果を活かせなくなることも本年度判明した。各施設の特徴を活かした支援に関する研究を各施設が行うことで、多角的に多方面にわたって研究を同時並行的に行いうるという利点もある。来年度以降の課題として持ち越された。 「何をもって記憶障害の影響とするのか、について予想以上に課題が生じた点」記憶障害を呈するとはいいながら、実際には記憶障害以外の事柄が生活障害や社会的行動障害を呈し、適応度を悪くしていると考えられる例も少なからず存在し、記憶障害以外の要素をどのように評価するか、あるいは排除するかについて技法上の難しさがあった点。また、脳損傷後の記憶障害というよりは心理的な側面を由来とする症状が目立つ若年者もしばしばみられ、研究の対象者として加えるか除外するかなどの判断に手間が生じた。
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Strategy for Future Research Activity |
神経心理検査結果の経過や画像による損傷別病型別の違いなども視野に含めて本研究を遂行する。したがって、生活状況、社会適応状況のみを把握するアンケートや聞き取り調査形式の研究では不十分で、当初意図したように、実際に医療的にリハや介入を行っている(あるいは行う)例による研究を続ける。具体的には本年度開始した各施設での研究を引き続き継続し発展させる。 あわせて青木重陽先生(神奈川リハ病院)に研究協力者として、これまで介入した(あるいは今後介入する)若年者の例を分析検討いただく。大賀優先生にあっては来年度に大学病院から一般病院への転出となり、当該一般病院に研究の場を移して継続する。また、小児や若年者の脳損傷者について長年の実績がある千葉リハビリテーションセンターなどを研究協力機関として調査研究に加えることも検討する。 記憶障害以外の要素をどのように評価するか、あるいは評価しないのか、今後実施する介入研究の対象者の層と方法を明確にして、データ連結も目標に前方視野的な研究を推進する。そのために各研究者、研究協力者間の連絡や意見交換を密にする必要がある。
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Causes of Carryover |
当初予定していた複数施設でデータを連結しての全体での調査研究が実施できなかったため、通信交通費、会議費用の費用が余った。また施設ごとの研究を論文にまとめる作業が遅れ、それにかかる費用に余剰が生じた。来年度以降に、本年度予定していた作業を行う際に必要とされる費用である。
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Expenditure Plan for Carryover Budget |
データを連結して複数施設での研究が可能か検討するための連絡費、会議費にあてる。また、本年度実施した研究を論文にまとめる際の費用、英文校正費用にあてる。 本年度繰り越した研究費の一部を、研究協力者(青木重陽先生)が行う研究調査、および千葉リハビリテーションセンターでの調査研究(予備的調査)の費用にあてる。
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