2014 Fiscal Year Research-status Report
在宅高齢者虐待の虐待者と被虐待者の関係性に焦点をあてた介入実践モデルに関する研究
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26380768
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Research Institution | Shukutoku University |
Principal Investigator |
山口 光治 淑徳大学, 総合福祉学部, 教授 (90331579)
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Project Period (FY) |
2014-04-01 – 2017-03-31
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Keywords | 高齢者虐待 / ソーシャルワーク / 関係性 / 虐待者情報 / 権力と支配 / 養護者対応 |
Outline of Annual Research Achievements |
本研究は、養護者による高齢者虐待が発生している家庭内の、虐待者と被虐待高齢者(以下「被虐待者」)の関係性を、家庭内暴力を理解する際に用いられている「権力」と「支配」の視点からとらえ直し、虐待が発生する構造と要因、その影響をタイプ別に分類・整理することを第1の目的としている。26年度は研究推進体制を整備するため「高齢者虐待介入モデル検討委員会」を行政、地域包括支援センター職員らと共に立ち上げ、年4回の検討会を開催した。また、高齢者虐待事例の収集にあたっては、自治体の協力を得て行った。検討会では、高齢者虐待事例を報告していただき、「権力」と「支配」の視点から虐待者と被虐待者の関係性に焦点をあてて分析した。また、検討会の際に、米国でDV防止に関わる研究者や臨床心理士を招聘し、学術的な助言をいただいた。 当初の目的に向けた検討を行うなかで、次の課題が明らかになった。 ①虐待をしている養護者に関する情報の不足:高齢者虐待へ対応している部署からの事例提供であったが、検討を進める中で、虐待者と被虐待者の関係性を見つめ、虐待をしている養護者を理解するうえで必要な情報(関係史、生活史、文化的背景、考え方・信念など)が不足している。単に被虐待者の被害状況だけでなく、虐待者である養護者の情報、家庭や家族の全体状況などを把握することが養護者対応のポイントである。 ②被虐待者の支援と虐待者への対応を行うために、相互の関係性や虐待者の特性を把握していく必要性が実践現場で十分に認識されていない:被虐待者を守るために虐待者にも関わる。それは、「なぜ虐待が起きたのか」という問い、つまり虐待者が虐待行為を行う意味に目を向ける必要性が十分に認識されていない現状が明らかになった。本研究の第1の目的に向けて検討する前に、虐待対応の現場における虐待者情報の不足とそれを得る必要性の認識の低さが課題として明らかになった。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
3: Progress in research has been slightly delayed.
Reason
高齢者虐待事例を収集するにあたり、家庭内暴力を理解する際に用いられている「権力」と「支配」の視点から、虐待が発生する構造と要因、その影響をタイプ別に分類・整理するための仮の枠組みを策定し、事例の収集、解釈を試みたが、高齢者虐待防止実践の場では虐待者に関する情報が思いのほか収集されておらず、さらに詳しい虐待者に関する情報を得なければ虐待に至る要因を把握することが難しい現状が明らかになった。 虐待をしている養護者に関する情報不足は、①「高齢者虐待の防止、高齢者の養護者に対する支援等に関する法律」では、高齢者の安全確保が最優先され、行政等はその対応に追われ、養護者がなぜ虐待を起こしたのかは後回しにされてしまうこと、②虐待者に関する情報が得にくい(協力が得られにくい)こと、③虐待者にあまり関わりたくないと思っていること(支援者の姿勢として)、④虐待者の性格や行動は変え難いと思っていること、⑤虐待者の信念が変わるには時間がかかり、サービス提供や環境を変える方が現場では関わりやすいこと、などが理由として考えられる。 被虐待者と虐待者との関係性をとらえる認識の不十分さについては、「虐待は関係性の中で生じる問題」としてとらえることが必要であり、そのために虐待者と被虐待者の支援に必要な情報を得て、適切にアセスメントし、課題を整理し、支援が行われる必要がある。被虐待者を守るためにも虐待者に関わる意味がある。それらの認識を高める必要性が示唆された。
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Strategy for Future Research Activity |
本研究の目的の達成に向けて、高齢者虐待が発生している家庭内の、虐待者と被虐待高齢者との関係性に焦点をあて、虐待が起こる構造と要因、その影響をタイプ別に分類・整理することを継続していく。そのためには、虐待者に関する情報不足を補い、家族からの情報収集や虐待者本人の語りを促す方法も検討し、事例収集、分析と解釈を継続していく。また、高齢者虐待が「権力」と「支配」の関係の中で起きているとは限らないという指摘もあり、それらも事例から検討を深めていく。そして、タイプ別の介入方法(虐待者への介入方法、被虐待者のストレングスを高める介入方法を一体的に)を検討し、介入方法の素案を策定する。それらは、さらに検討委員会にて議論し、介入実践モデル及び予防モデルを策定する。 また、そのモデル構築の参考とするために海外の先駆的実践地:米国カリフォルニア州ロスアンゼルス市のサービスセンターへ訪問し、DV防止及び高齢者虐待防止プログラムの実際を把握するための調査を行う。カリフォルニア州では、「権力」と「支配」の視点(ドゥルース・モデル)でDV加害者対応を行っており、参考となる知見が得られると考えている。 人間は関係のなかで生きているといわれる。「関係を生きる人間」として被虐待者、虐待者をとらえることができる。被虐待者は、虐待をしている養護者(家族)との関係のなかで生きているし、虐待者も被虐待者との関係を生きている存在であるといえる。その意味で、虐待者と被虐待者の関係性に焦点をあて、双方に対し一体的に介入していく方法(ソーシャルワーク実践)の構築が必要であり、研究をさらに進めていく。
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Causes of Carryover |
定例で開催した検討委員会への委員の欠席の為、謝金の支出が不要となったこと。専門機関へのインタビュー調査のために謝金を予算計上したが、支出しなくても話をお聞きできる形で調査ができたこと。定例会の会場費が低価格で抑えられたことなどが理由である。
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Expenditure Plan for Carryover Budget |
2年目は高齢者虐待介入モデルプログラムの検討に入るため、検討委員会を予定よりも多く開催し、議論を深める場を設ける予定である。
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